2022 年 31 巻 2 号 p. 131-145
惑星の大気組成は,惑星が原始惑星系円盤のどこでどのように形成されたのかを探る重要な手がかりである.半世紀に渡る惑星探査は様々な太陽系内惑星大気の物理・化学的性質を明らかにし,近年ではトランジット分光観測や直接撮像観測の発展により系外惑星の大気組成に関しても詳細が分かるようになってきた.特に系外惑星大気への理解は,2021年12月に打上げられたJWSTによって今後劇的に進展することが期待される.このような背景のもと,惑星形成過程と惑星大気組成を関連づける理論的整備を行う重要性は極めて高い.本稿では,惑星形成過程と大気組成をいかに結びつけるかに関して現状の理解を概説した後,木星の形成過程・場所を大気組成の観点から議論する.特に,近年筆者らが提唱する「木星大気組成は,原始太陽系円盤の構造に付随する“影”が円盤の温度・化学構造を従来の理解と大きく異なるものへと変えていたことを反映している」という新説に関して詳細に紹介する.