私は、近代(家族)を乗り越えるとは、家内(私的)領域と公共(公的)領域をより高い段階で統一することだと述べてきたが、本稿では、その展望をより詳しく考察する。伊田広行の「スピリチュアル・シングル主義」は、シングル単位論にスピリチュアリティ概念を結びつけることによって、自然を含めた広いつながりを捉えるとともに、自己の内面を深く掘り下げることを説いた。これらの点は、上の両領域の統一を考えるうえで有用である。ただし、伊田は、スピリチュアリティ概念によって、上の「つながり」を、「たましい」のつながりとして捉えたが、私は、各自の人権保障などの全地球的・歴史的相互関連性として捉えるほうが適切だと考える。また、スピリチュアリティ概念に含まれる価値ある部分を真に尊重するためにも、近代二分法自体を乗り越える方向性が必要である。
次に、伊田が作成した「思想地図」を改良して、私なりの「脱近代」への見取り図を作成する。まず、さまざまな思想を4つの象限に分類し、次に大きな歴史の展開方向を示す。さらに、1970年代までの狭義の「近代」にも着目した区分をおこなう。また、最近まで比較的注目されなかった、近代二分法において劣位に置かれていた領域(相互依存、感情、女性性、自然など)に注目した諸思想を、その見取り図の中に位置づける。
上の見取り図からは、近代を乗り越えて、自立した個人が相互に連帯する社会を構築するためには、異なる立場や視点の人どうしも、「家内領域と公共領域をより高い段階で統一する」という大きな方向性においては協力できること、ただし、「マイノリティを含めた個人を単位とし、国家を超える」という目標は見失わないことが必要であることが認識できる。また、私自身が「脱近代」への壮大な歴史過程の中にいる感覚が得られ、長期的で広い視点から見た解放への展望を持つことができた。さらに、この見取り図は、「脱近代」についてのさまざまな議論の問題点を位置づけるうえでも有用である。
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