医療と社会
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医療・福祉の職場環境と離職・転職
足立 泰美 木下 祐輔
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論文ID: 2025.005

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抄録

本稿では,全国健康保険協会兵庫支部の協力を得て,当協会に加入する中小規模の事業所および従業者を対象に実施したアンケート調査結果を用いて,新型コロナウイルス感染症(以後,COVID-19とする)禍における全事業所,中でも社会保障関連業に勤務している従事者を対象に,職場環境の変化と仕事へのストレスおよび離職・転職意向との関係を実証的に明らかにした。推計結果から,全事業分野の従事者における職場環境の変化と仕事で感じるストレスとの関係では,COVID-19以前とCOVID-19流行初期で共通して,自分への評価や処遇に対する納得感が低いほど仕事へのストレスが高まる要因になっている。加えて,COVID-19流行初期では,担当する仕事の量や仕事の成果に対する要求が従事者のストレスの悪化を招くことが示唆される。COVID-19流行初期と3年前のCOVID-19以前と比較した場合には,担当している仕事の量,仕事の成果に対する要求,仕事で求められる能力や知識,仲間と協力しあう雰囲気がストレスを高める要因となっていることが明らかとなった。また,全事業分野の従事者と比べ社会保障関連業従事者は,COVID-19流行初期では仕事の成果に対する要求や仕事で求められる能力や知識で異なる傾向が認められた。 COVID-19以前と比較した場合には,全事業分野の従事者と比べ社会保障関連業従事者において,労働時間や部下や後輩を育てようという雰囲気が仕事のストレスを高める要因になっていることが示された。中でも,医療従事者は労働時間,自らの裁量の範囲,ならびに部下や後輩を育てようという雰囲気で,保育従事者は担当する仕事の量で,仕事へのストレスにつながっていることが統計的に明らかとなったが,介護従事者では有意な傾向は認められなかった。職場環境の変化と離職・転職意向との関係では,COVID-19以前では仕事の分担・役割の不明確さが,COVID-19流行初期では仲間との人間関係が,離職・転職意向を招いており,COVID-19以前とCOVID-19流行初期で共通して認められる傾向としては,現在感じている仕事のストレスや自分への評価や処遇への納得感が離職・転職意向の要因であることが示された。全事業分野の従事者と比べ社会保障関連業従事者の特徴としては,COVID-19以前は仕事に対する責任で,COVID-19流行初期では部下や後輩を育成しようという雰囲気で,離職・転職意向の要因となっていることが示された。したがって,社会保障に関連する現場では,資金・人材といった限られた経営資源の中で雇用確保対策を検討する上で,業務責任,業務評価,人材育成に配慮した施策の検討を行うことが重要であることが示唆される。

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© 公益財団法人 医療科学研究所
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