本稿では,我が国よりもその歴史が長く,消費者の有機農業への意識の高まりや近年の異常気象等を背景に環境・土壌保全や気候変動の適応や対策も議論されるオーストリアのワイン生産について取り上げる.同時に同国のワイン法における地理的表示(GI)制度の事例を紹介する.ヨーロッパのワイン法は,糖度を重視するゲルマン式ワイン法と,産地を重視するラテン式ワイン法の2つの方式に慣習的に分けられる.日本の酒類の製品表示において現在普及している主な制度は,精米歩合や蒸留方法等の技術的指標を重視する特定名称酒等の制度だが,これはゲルマン式ワイン法の考え方に近い.一方,今後の活用が期待されるGI制度は,地域性を重視するラテン式ワイン法の考え方に近い.オーストリアのワイン法は歴史的にゲルマン式に基づくものの,2002年にはラテン式の原産地呼称保護制度(DAC)を導入し,テロワールに根差した価値観の導入に成功した.特筆すべきは,伝統的なゲルマン式の基準を維持しつつ,その枠組みの中にラテン式のDACを組み込んだ重層的な表示構造を実現した点にある.この事例は,既存の技術指標と新たな地域性の価値を共存させる知財マネジメントの有効性を示しており,日本の酒類におけるGI制度の活用の将来像に示唆を与える.
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