日本知財学会誌
Online ISSN : 2759-6753
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最新号
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巻頭言
特集論文
  • 牧之瀬 泰志
    原稿種別: 特集論文
    2026 年23 巻1 号 p. 4-12
    発行日: 2026/07/20
    公開日: 2026/08/31
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    人口減少下で国内市場の縮小が見込まれる一方,世界の飲食料市場は拡大しており,日本の食文化を産業として体系化し,持続的な成長につなげる必要がある.本稿は,食文化産業を「食を文化的資源として社会的・経済的に価値化する産業」と位置付け,その構造・特性・規模を整理するとともに,日本の食文化の強みと食文化産業の課題を明らかにする.さらに,日本の稼ぎの柱となる食文化産業のポテンシャル発揮,外食を起点とした価値創造や日本食・食文化のリデザインなどの政策的視点を提示する.加えて,GIや商標等の知的財産の活用により,文化的価値の保護と産業的発展の両立を図る必要性を指摘する.

  • ── 二重構造による『厚い制度』からAI時代の『商標の死』まで ──
    香坂 玲
    原稿種別: 特集論文
    2026 年23 巻1 号 p. 13-19
    発行日: 2026/07/20
    公開日: 2026/08/31
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    本稿は,地理的表示(GI)の保護に関わる文献をレビューしつつ多角的に検討する.具体的には制度的二重構造を持つ日本のGI制度,特に清酒を対象とした運用実態を再検討する.GIは国家が深く関与し地域との結びつきを前提とする一方で,由来や品質を自動的に保証するわけではないという制度的曖昧さを持つ.本稿では,この曖昧さが日本酒における技術・文化・環境要因(マイクロ・テロワールなど)の積層によっていかに補完・再構成され得るかを明らかにする.さらに,生成AIの台頭による「商標の死」論争も踏まえ,GI保護において法制度のみならず技術,文化,ナラティブの重層性が重要であることを論じる.

  • ─知的財産権としての機能条件─
    佐藤 淳
    原稿種別: 特集論文
    2026 年23 巻1 号 p. 20-29
    発行日: 2026/07/20
    公開日: 2026/08/31
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    本稿では,日本酒における地理的表示(GI)が知的財産権として機能する条件を,垂直的差別化と水平的差別化の枠組みから考察する.既存研究がGIの効果の有無を問うのに対し,本稿はGIが機能する条件を理論的に再定義する点に新規性がある.GIは単独で価値を生む制度ではなく,イノベーションによる品質的差別化と,それに連動したテロワール等の意味的差別化が結合して初めて持続的な経済価値を持つ.ワイン産業との比較を通じ,日本酒においては米・微生物・副原料という三類型のテロワールが理論的に成立し得ることを示し,GIを市場創造政策ではなく,差別化に成功した主体を保護する制度として設計すべきことを示唆する.

  • ──EU・中国の制度比較と日本への示唆──
    眞貝 理香, 香坂 玲
    原稿種別: 特集論文
    2026 年23 巻1 号 p. 30-41
    発行日: 2026/07/20
    公開日: 2026/08/31
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    日本では現時点でハチミツ産品の地理的表示(GI)保護登録は無いものの,EUおよび中国においては多数の登録が存在することから,本稿では欧中の事例を分析し,日本への示唆を検討する.2025年段階で,EUでは11カ国において,31件の原産地名称保護(PDO)と9件の地理的表示保護(PGI)の計40事例の登録が確認された.また中国では,48件の国家知識産権局(CNIPA)のGI保護登録が確認された.EUの状況を見ると蜜源植物やミツバチ亜種といった地域特性とハチミツの品質特性との結び付きが示され,特に島嶼部・山岳地域での認定や,森林由来の甘露蜜の登録が多い傾向がみられた.また中国では山地農村を中心に,行政が養蜂振興や在来種ミツバチの保全に積極的に関わる戦略が展開されていた.GI登録には,地域事業者の連携が必要であることが示唆される一方,今後日本の養蜂業界では,家族経営の多い産業構造や地域のハチミツの価値に対する消費者の認識の低さが制度導入の制約となる可能性がある.今後は地域の多様なハチミツの価値の再評価と,森林の多面的機能,生物多様性,地域産業振興との接続が求められる.

  • 大塚 祐一郎, 松原 恵理, 野尻 昌信, 楠本 倫久, 森川 卓哉, 山下 直子, ナバロ ロナルド
    原稿種別: 特集論文
    2026 年23 巻1 号 p. 42-51
    発行日: 2026/07/20
    公開日: 2026/08/31
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    森林総合研究所は,木材に水を加えて細胞壁の厚さを砕く「湿式ミリング処理」技術を開発した.この技術によって,熱や薬剤を用いずに細胞壁に埋め込まれたセルロースを露出させ,酵素糖化と酵母発酵によってアルコールを生成する「木の酒」の製造が可能となる.「木の酒」は木そのものを酒精源(アルコール源)とする世界初の酒類であり,樹種ごとに異なる香り成分と発酵由来の複雑な風味を醸し出すことができる.また年輪に保存された木が生きてきた全ての年のセルロースからできたアルコールが含まれるという時間的価値を含む点も特徴である.基本的な安全性試験により問題となるデータがないことを確認し,特許実施許諾,技術移転研修,認証制度の整備を通じて社会実装を推進している.本技術は国産材の高付加価値化や林業振興,山村地域の活性化への貢献が期待されている.

  • 谷貝 雄三
    原稿種別: 特集論文
    2026 年23 巻1 号 p. 52-63
    発行日: 2026/07/20
    公開日: 2026/08/31
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    地球規模課題や地政学的な分断,技術革新などへの対応のため,政府は2025年6月に19年ぶりに国際標準に係る新たな国家戦略を策定し,経済安全保障の観点を加味しつつ,我が国として注力すべき(食料・農林水産業を含む)17の戦略領域・重要領域を選定した.その後,各領域のモニタリング・フォローアップの実施等を通じて国内外の動向把握を行うとともに,農林水産省において食料・農林水産業に係る国際標準戦略の検討が進められている.オープン&クローズ戦略を踏まえ,事業戦略と知財戦略・国際標準戦略を一体的に検討し,我が国の食料・農林水産業に係る国際競争力強化と,食料安全保障や地球規模課題に貢献することが期待される.

事例報告
  • 青木 馨, 香坂 玲
    原稿種別: 事例報告
    2026 年23 巻1 号 p. 64-68
    発行日: 2026/07/20
    公開日: 2026/08/31
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    本稿では,我が国よりもその歴史が長く,消費者の有機農業への意識の高まりや近年の異常気象等を背景に環境・土壌保全や気候変動の適応や対策も議論されるオーストリアのワイン生産について取り上げる.同時に同国のワイン法における地理的表示(GI)制度の事例を紹介する.ヨーロッパのワイン法は,糖度を重視するゲルマン式ワイン法と,産地を重視するラテン式ワイン法の2つの方式に慣習的に分けられる.日本の酒類の製品表示において現在普及している主な制度は,精米歩合や蒸留方法等の技術的指標を重視する特定名称酒等の制度だが,これはゲルマン式ワイン法の考え方に近い.一方,今後の活用が期待されるGI制度は,地域性を重視するラテン式ワイン法の考え方に近い.オーストリアのワイン法は歴史的にゲルマン式に基づくものの,2002年にはラテン式の原産地呼称保護制度(DAC)を導入し,テロワールに根差した価値観の導入に成功した.特筆すべきは,伝統的なゲルマン式の基準を維持しつつ,その枠組みの中にラテン式のDACを組み込んだ重層的な表示構造を実現した点にある.この事例は,既存の技術指標と新たな地域性の価値を共存させる知財マネジメントの有効性を示しており,日本の酒類におけるGI制度の活用の将来像に示唆を与える.

  • ─閉鎖循環式陸上養殖プロジェクトを事例に─
    河野 恵美子
    原稿種別: 事例報告
    2026 年23 巻1 号 p. 69-78
    発行日: 2026/07/20
    公開日: 2026/08/31
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    本研究では,琉球大学プロジェクトの閉鎖循環式陸上養殖技術開発を事例に,要素技術から知財創出を整理する「知財三層化フレームワーク」を提案し,プロジェクト全体の知財構造を可視化するコミュニケーションツールとして「知財三層マップ」を作成した.この「知財三層マップ」を用いた関係者インタビュー調査により,知財的な位置づけの共有や異分野研究者間の相互理解の促進効果を検証した.その結果,異分野研究者間の円滑なコミュニケーション促進に寄与する可能性が示され,大学知財マネジメントにおける「知財三層マップ」の活用可能性について考察した.

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