東日本大震災および福島原発事故に対応する政府間財政関係を扱った研究は,従来の自然災害を対象とした財政分析アプローチを基礎に,国と地方自治体との間の財政関係の問題点を指摘したものであった.福島原発事故に対応する政府間財政関係は,費用負担スキームに連動しており,原発事故特有の性格をもっている.そこで,本稿では,費用負担のアプローチを基軸に,福島原発事故に対応する政府間財政関係の構造を解明し,それによって被災自治体や住民に影響が及ぼされていることを明らかにする.
分析の結果,次の3点が明らかになった.第1に,2013年,2016年の2度にわたる費用負担スキームの変更によって東電負担が大きく軽減された.第2に,東電負担をさらに軽減するために賠償と除染・中間貯蔵施設事業費用の抑制が行われた.それらの費用の一部は復興事業の費用として位置付けられ,国費が投じられていった.第3に,このような構造のもとで,自治体の財政負担の発生,避難者支援の削減・縮小,中間貯蔵施設の立地をめぐる政策的誘導という問題が生じている.
「人間の復興」を進めるためには,福島原発事故の費用負担スキームの見直し,および費用負担スキームと独立した復興財政の構築が必要になっている.
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