日本地方財政学会研究叢書
Online ISSN : 2436-7125
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研究論文
  • ―カリフォルニア州のCCA(Community Choice Aggregation)を事例に―
    奥 愛
    2022 年 29 巻 p. 47-66
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,日本の自治体がエネルギーの地産地消を目指し,再生可能エネルギー供給事業に関わる際に直面するリスクへの対応について,アメリカのカリフォルニア州のCCA(Community Choice Aggregation)を事例に取り上げ検討した.CCAは電気料金を低くしながらも再生可能エネルギーの比率を高め,住民の理解を推進するインセンティブが働く設計になっている.本稿で取り上げた事例では,積極的な情報開示や補助金に依存しない事業収益での活動,地域電力会社との役割分担がなされている.また,価格変動リスクに対しては,緊急時,長期,常時の3つの局面に応じた対応が行われている.さらにリスクを減らすための対応としては,規模の経済を目指すことが有効であり,オプト・アウト方式の導入により顧客が増加すれば,電力調達で価格交渉力を強め,安定した財政基盤を築くことができる.連携については,日本では自治体新電力に都道府県が関与しながら進めていく方法が考えられる.本稿は,日本の自治体新電力にとって参考となる再生可能エネルギーの導入に伴うリスク対応策について,CCAを事例に用いた分析を通じ,地域住民の合意に基づく意思決定が行われ,各地域が水平連携し,代表組織との垂直連携を進めながら,自律的な地方自治が形成されている動きも明らかにした.

  • 卿 瑞
    2022 年 29 巻 p. 67-92
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/26
    ジャーナル フリー

     2006年度,地方債の起債制度は発行が原則禁止の許可制度から,原則自由の協議制度へと移行した.その際,早期是正措置としての地方財政法上の許可制度が設けられた.本稿は,2008年度決算に基づく健全化判断比率および2009年度の市町村レベルの起債関連データを用いて,起債許可団体の指定が地方公共団体の起債・償還行動に与える効果を回帰不連続デザインの枠組みで推定した.その結果,起債許可団体の指定による起債抑制効果は公営住宅建設事業債,単独災害復旧事業債,旧市町村合併推進事業債など,ごく一部の地方債にとどまることが分かった.また,借入先別に見ても,許可制度は財政融資資金による地方債引受額および市場公募地方債発行額に有意な影響を及ぼしていない.推定結果は,帯域幅および内生的なソーティングに対しては頑健的と考えられる.

  • 細井 雅代
    2022 年 29 巻 p. 93-120
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,近年における地方交付税の算定方法の見直しを振り返り,それをめぐる議論と帰結の意義を検討する.1998年に閣議決定された「地方分権推進計画」による算定方法の簡明化の要請を受け,補正係数の単位費用化や算定項目の統合化等の見直しを行った.また,1998年度からの3年間で段階的に実施された小規模団体に対する段階補正の縮小が,小泉政権による構造改革の中で更に拡大された.また小泉政権下で更なる算定方法の簡素化を進める目的から,2007年度には包括算定経費(新型交付税)が導入され,一部の経費区分を統合した上で,人口と面積を基本に財政需要の算定を行い,その中で捕捉されないものを地域振興費として測定する方法を採用した.その他,多くの批判の中にあった事業費補正の大幅な見直しが,2002年度と2010年度に小泉政権及び民主党政権における投資的経費の抑制方針に沿って行われ,投資的経費に係る基準財政需要額の算定方法を静態的なものに振り替えた.そして,2016年度に単位費用に業務改革の実態を反映させるトップランナー方式が導入され,それに伴い小規模団体において改革が困難な業務に関しては,段階補正で単位費用を割り戻す弾力的な措置をとった.これらの見直しの意義は,的確に捕捉した財政需要を公平な基準で配分するとした本来の地方交付税の算定のあり方に沿った,地方財政のあり方の変化や業務実態に応じた技術的対応に見出せる.

  • ―費用負担アプローチの観点から―
    藤原 遥, 大島 堅一
    2022 年 29 巻 p. 121-142
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/26
    ジャーナル フリー

     東日本大震災および福島原発事故に対応する政府間財政関係を扱った研究は,従来の自然災害を対象とした財政分析アプローチを基礎に,国と地方自治体との間の財政関係の問題点を指摘したものであった.福島原発事故に対応する政府間財政関係は,費用負担スキームに連動しており,原発事故特有の性格をもっている.そこで,本稿では,費用負担のアプローチを基軸に,福島原発事故に対応する政府間財政関係の構造を解明し,それによって被災自治体や住民に影響が及ぼされていることを明らかにする.

     分析の結果,次の3点が明らかになった.第1に,2013年,2016年の2度にわたる費用負担スキームの変更によって東電負担が大きく軽減された.第2に,東電負担をさらに軽減するために賠償と除染・中間貯蔵施設事業費用の抑制が行われた.それらの費用の一部は復興事業の費用として位置付けられ,国費が投じられていった.第3に,このような構造のもとで,自治体の財政負担の発生,避難者支援の削減・縮小,中間貯蔵施設の立地をめぐる政策的誘導という問題が生じている.

     「人間の復興」を進めるためには,福島原発事故の費用負担スキームの見直し,および費用負担スキームと独立した復興財政の構築が必要になっている.

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