日本地方財政学会研究叢書
Online ISSN : 2436-7125
28 巻
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研究論文
  • ——促進政策効果の検証——
    小川 顕正, 赤井 伸郎
    2021 年 28 巻 p. 15-37
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/26
    ジャーナル フリー

     本稿は,市区町村によるコンビニ交付サービスの導入や交付促進政策が,各市のマイナンバーカードの1年間の交付枚数にどのような影響を与えているのかを定量的に分析したものである.現在,「特別定額給付金」をめぐる混乱によって,行政手続のオンライン化が改めて最重要課題として認識されているが,それに不可欠なマイナンバーカードの普及はいまだ不十分であり,交付率(累計交付枚数を交付対象人口で除したもの)は,15.5%に留まっている(2020年3月1日時点の全国平均).このことから,これまでコンビニ交付サービスの導入による利便性の向上や,市区町村による交付促進政策を通じたマイナンバーカードを取得しやすい環境の整備などが行われてきたのだが,それらの効果について研究は十分に蓄積されていない.そこで,本稿では,市区町村によるコンビニ交付サービスの導入や,その他の交付促進政策が交付率向上につながっているのかを分析した.市を対象にした分析の結果,市区町村によるコンビニ交付サービスの導入や,その他の交付促進政策がマイナンバーカードの交付を促進していることを明らかにした.

  • ——課税ベースをめぐる議論を中心に——
    松井 克明
    2021 年 28 巻 p. 39-63
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/26
    ジャーナル フリー

     本稿は米国中西部ケンタッキー州の2000年代の企業課税改革における課税ベースの議論を分析対象とし,州企業課税改革の背景を明らかにする.2001年から米国経済は不況に陥り,州法人所得税のさらなる税収減に対応するため,企業課税改革の議論が行われた.パットン政権(1995~2003年) 下での企業課税ベースの議論には,2002年のフォックス提案および2003年のパットン政権提案があり,パットン政権提案では企業が負担すべき「フェアシェア(Fair Share)」を一般会計の10%とした.フレッチャー政権(2003~2007年)下では,2005年には法人免許税を廃止し,法人所得税の枠組みの中に「消費型(仕向地基準)」取引高税も含む「選択的最小課税計算制度(AMC)」を導入した.この制度のもとで,税収は大幅に増加したものの,中小企業者の負担が過大だったため,2006年に「有限法人課税」(LLET)へ転換された.ただし,AMCにもLLETにも「消費型(仕向地基準)取引高税」は内包されているが,企業の税負担は一般会計の7.1%(2014年度)であった.

  • ——財政調整手段としての地方譲与税——
    細井 雅代
    2021 年 28 巻 p. 65-88
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,2008,2014,2019年度に実施された地方法人課税の偏在是正措置について振り返り,財政調整手段としての地方譲与税の意義を検討する.地方税の偏在是正のために,地方法人課税を国税化し消費税を地方消費税に振り替える税源交換を地方側は求めた.しかし,消費税の使途を高齢三経費に限ることが既定路線にあったことから国の財政当局は同意しない.そこで,地方税の一部を国税化し,地方交付税財源や地方譲与税にして,地方団体間で再配分する手法がとられた.2008年度改正では,法人事業税の譲与税化を講じたが,消費税率引上げを伴う税制改革実現までの暫定措置とされた.2014年度改正では,地方消費税率引上げによる水準超経費拡大に対する措置が必要であったことから,法人住民税の一部を交付税財源にする措置によった.さらなる偏在是正が求められた2019年度改正では,恒久措置として再び譲与税化した.地方譲与税を偏在是正の手段とする意義は,景気回復により拡大する水準超経費に対する財政調整としての役割,並びに経済活動の変化による地方法人課税の税収帰属の歪みを是正し,税制全体で地方法人課税を機能させる役割に見出せる.2018年度改正での地方消費税の清算基準の見直しは偏在是正措置には当たらないが,それが必要であった理由もまた,法人の組織形態の変化によって,従来の手法ではあるべき税収帰属にならないことに対する改正措置であった.

  • ——都道府県による就学支援事業の影響に関する実証分析——
    田中 宏樹
    2021 年 28 巻 p. 89-104
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,2010年4月および2014年4月に導入された高等学校等就学支援金制度に付随する形で実施された,都道府県による私立高校生対象の就学支援事業が,私立高校の学納金の水準に影響を与えたかどうかを,2009~2016年度の都道府県パネルデータを用いて実証分析した.具体的には,生徒一人当たりの私立高校平均授業料もしくは入学料+施設整備費の平均値を被説明変数とするDIDによるパネル回帰分析を行い,都道府県による独自支援および国基準への加算支援の私立高校学納金への影響の有無を検証した.

     実証分析の結果,参照年度(1)である2009年度に比して,新旧の高等学校等就学支援金制度のもとで,都道府県による独自支援および国基準への加算支援が実施された都道府県を処置群としたときのDID推定値が,プラスで統計的に有意となった.加えて,都道府県の就学支援の効果をDID推定値の大きさで比較してみると,新制度下の処置効果が旧制度下のそれを上回っていることが確認された.一連の実証分析は,高等学校等就学支援金制度に付随する形で実施された,都道府県による私立高校生対象の就学支援事業の実施により,私立高校は学納金引き上げに向かった可能性があり,また,旧制度から支援対象および支援額の積み増しが実施された新制度下において,私立高校による学納金引き上げの傾向はより顕著になったことを示唆するものと解釈できよう.

  • ——箱根町地域別月次データによる分析——
    平賀 一希
    2021 年 28 巻 p. 105-124
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/26
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     本稿では,震災や火山噴火警戒レベル上昇といった自然災害による外生的ショックが自治体の入湯税収に与える効果について,箱根町のデータを用いて実証分析を行う.箱根町においては,全国自治体でもっとも多くの入湯税収を得ているおり,具体的には,2008年1月から5地区別で月次データとして収集している.本稿においては,自然災害ショックとして,直接的な影響として箱根山の噴火警戒レベルが変化したことと,間接的な影響として,東日本大震災による全国的な自粛ムードを通じた影響について検証を行った.2つの自然災害ショックの影響を定量的かつ動学的波及効果を明らかすべく,パネルLocal Projectionという手法を用いて検証を行った.本稿の分析結果より,東日本大震災発生時のショックは大きく,発生時点では,各地域において平均約745万円(5地域計約3725万円)ほど入湯税収が減少し,箱根山噴火警戒レベルショックは約139万円(5地域計約695万円)ほどであった.一方,ショックの持続性という観点で見ると,東日本大震災の影響は2か月ほどで収束している一方,火山噴火の影響については,7か月ほど持続していることが分かった.

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