日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報
Online ISSN : 2436-5866
Print ISSN : 2436-5793
125 巻, 11 号
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総説
  • 高野 賢一
    原稿種別: 総説
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1527-1531
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 拡大による社会変化や規制緩和の相乗効果により, 遠隔医療の受給拡大が趨勢となっている. 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会からも「オンライン診療の案内」が示され, そこに適した疾患や症状として人工内耳装用難聴者 (児) のマッピング・訓練が挙げられている. もとより人工内耳装用者にとって, 最適な聞こえを得るために人工内耳プログラミング (マッピング) が重要であるが, 専門職種や専門医療機関は限られており, 遠方から受診することが装用者やその家族にとって身体的経済的負担となっており, 北海道では特に顕著である. 遠方に限らずとも, 装用者あるいは保護者の勤労や通学などもあり, 受診が制限されることは少なくない. 当科では2018年より遠隔人工内耳プログラミング (いわゆる遠隔マッピング) に取り組んできている. 経験蓄積に加えてマッピング用ソフトウェアのアップデートも手伝い, 対面式と遜色ないマッピングを遠隔で実施できるようになっており現在このシステムは医療者, 装用者双方にとって不可欠なものとなっている. 乳幼児などに対しても, 遠隔と対面の両者を補完的に組み合わせることで, これまで以上にきめ細やかなフォローアップが可能となっている. これまで懸案だった医療費算定についても, 保険収載に向けてその道筋がつきつつある. 今後の技術進歩によって, 装用者や保護者が自宅などで個別の最適化を簡便にできるようになることが予想され, ノンユーザーや部分的ユーザーの減少にも期待ができる. 遠隔マッピングに聴覚関連検査や評価, 言語訓練なども付加していくことで, 言語聴覚士の雇用機会増や対象患者の拡大にも繋げられる可能性がある.

  • 井之口 豪
    原稿種別: 総説
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1532-1537
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     内視鏡下鼻副鼻腔手術は全国で年間約5万件以上行われている術式であり, 若手からベテランまで, 多くの耳鼻咽喉科医が執刀する手術である. 内視鏡下鼻副鼻腔手術における副損傷については, 眼窩紙様板損傷, 頭蓋底損傷, 血管損傷, 鼻涙管損傷, 視神経管損傷があり, それぞれ Major と Minor で定義されている. 副損傷は患者・医師双方にとって重大な問題であり, 術中副損傷の発生を回避することが第一である. 本稿では副損傷を避けるために必要な事前プランニング, 特に CT による危険部位の把握について概説する. 具体的には 1) 篩板損傷: CT による頭蓋底損傷リスクの評価法, 2) 眼窩損傷: Haller cell と陳旧性眼窩骨折の見落としについて, 3) Onodi 蜂巣: 蜂巣内を走行する視神経の位置関係, 4) 蝶形骨洞: 含気の評価と蝶形骨洞中隔の処理, 5) 血管損傷: 後鼻動脈の扱いと前篩骨動脈の走行位置, 6) 鼻涙管損傷: 鼻腔側壁と下鼻甲介の解剖について順に解説する.

  • 木戸口 正典
    原稿種別: 総説
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1538-1541
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     慢性副鼻腔炎や花粉症などの common disease は環境要因と遺伝要因が相互に関与する多因子疾患とされており, 病態解明には双方の解明が必須である. 今回私たちは遺伝要因について病態や治療効果との関連を分析した. 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎や好酸球性副鼻腔炎において, 鼻腔における一酸化窒素の主な合成酵素である誘導型 NOS(inducible Nitric Oxide Synthase, iNOS: 遺伝子名 NOS2) に注目し分析したところ, NOS2 プロモーター領域における反復配列の反復回数が少ないほど鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎や好酸球性副鼻腔炎の術後再発を来しやすいことを確認した. また, スギ花粉症において, スギ花粉抗原ペプチドの結合ポケットを構成するヒト白血球抗原 (Human Leukocyte Antigen, HLA: 遺伝子名 HLA) に着目し分析したところ, HLA-DPB105: 01 遺伝子型を保有するスギ花粉症患者は保有しない患者と比較してスギ花粉舌下免疫療法に対する不応性を確認した. 今回見出した遺伝子型をターゲットとして遺伝学的検査を治療前に行うことで, それぞれの疾患に対する治療予後予測が可能となり, 治療方針決定の参考となる可能性が示唆された. 遺伝学的検査によるプレシジョンメディシン (個別化医療) への臨床応用が期待される.

  • 篠原 尚吾
    原稿種別: 総説
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1542-1546
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     甲状腺乳頭癌の基本術式は, 甲状腺全摘 + D1 郭清 (中央区域郭清) であるが, もともと甲状腺乳頭癌の予後は良好で, 皮膚露出部の手術であることから, その施術ポリシーにはいろいろな考え方がある. 本論文では, 術後放射線ヨードによるシンチグラムやアブレーションを施行し, 血清サイログロブリン値で再発をモニターするという体制を考慮した甲状腺全摘術, および D1 郭清について, 当院の手術法について報告した. 施術時に注意するポイントとして, ① Berry 靭帯や錐体葉など, 正常甲状腺組織を残存させた場合, 術後の放射線ヨードが正常部分により強く集積するので, 正常甲状腺組織を絶対に残さないように留意する, ② 上喉頭神経外枝は, 上極に入る上甲状腺動脈の枝 (上極バスケット) を甲状腺に入るところで一本ずつ処理すると, 見つからなくても損傷しない, ③ 副甲状腺は上腺の温存を主眼に考え, 上極バスケットの後枝経由の血流を温存する, ④ D1 郭清は右側では反回神経の浅層と深層で分けて考え, 分割してでも徹底切除を心掛ける, ⑤ 上喉頭神経外枝や反回神経の探索に, 術中神経モニタリングが有用である, などを挙げた. また本法は, 専門研修医が習得するべき基本手技の一つとなっているため, 日々どのように指導しているかについても, 実際現場で使用している内輪の名称なども織り交ぜながら紹介した.

  • 寺田 友紀
    原稿種別: 総説
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1547-1551
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     頸部郭清術は, 実臨床において行われる頻度も高く, 頭頸部癌手術の最も基本的術式の一つである. 頭頸部がん専門医は, 頸部郭清術を滞りなく完遂できる技術レベルに達することが求められる. 頸部郭清術の歴史は古く, Crile によってその原型といわれる手術が報告されてから110年以上が経過している. レベル Ⅰ~Ⅴ を郭清する全頸部郭清術が頸部郭清術の基本的術式で, その一部を省略する側頸部郭清術 (レベル Ⅱ~Ⅳ) や肩甲舌骨筋上頸部郭清術 (レベル Ⅰ~Ⅲ) などの選択的頸部郭清術は, その応用として存在する. しかし, 現在ではレベル Ⅰ~Ⅴ の全頸部を郭清することはむしろ少なく, 実臨床では選択的頸部郭清術が行われることが多い. そのためわれわれが手術を教わった時代に比べ, 現在頭頸部がん専門医を目指している若い医師は, 特にレベル Ⅴ の操作経験が少ないと思われる. 本稿は全頸部郭清術をテーマとし, 最も広く行われる側頸部郭清術で郭清されないレベル Ⅰ とレベル Ⅴ の領域に的を絞り, レベル Ⅰ では顔面神経下顎縁枝の同定と保存, レベル Ⅴ では僧帽筋前縁の同定および副神経の同定と保存の手術手技について, 筆者が考える手技上のコツを概説する.

  • 鈴木 正宣
    原稿種別: 総説
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1552-1562
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     近年, 社会情勢の変化, 安全意識の向上などを受け, 鼻科手術トレーニングにもより一層の安全性・効率化が必要とされている. 従来の On-the-job トレーニング (OJT) には患者をリスクに曝すことや, トレーニングの効率化が難しいなどデメリットも存在した. 本項では当科で行っている Off-the-job トレーニング (Off-JT) を紹介する.

     技術習得に関しては, 青赤メガネを用いた 3D 画像 (アナグリフ), 副鼻腔ペーパークラフトモデル, Building Block アプリ, シェーマ描画を用いている. アナグリフを用いることで, 副鼻腔や前頭蓋底, 斜台, 脳幹などの解剖を3次元的に理解できる. ペーパークラフトは副鼻腔の局所解剖を再現しており, ESS に必要な解剖の要点を学ぶことができる. Building Block アプリでは複雑な前頭洞解剖を理解できる. また, 個々の症例の解剖をシェーマに描画することで, CT 読影と術前プランニング能力を培うことができる.

     技能習得に関しては, カダバーや 3D モデルでのトレーニングを行っている. カダバートレーニングは Off-JT のゴールドスタンダードであり, これまでに国内外の施設・トップサージャンが手術普及・指導に果たしてきた役割は極めて大きい. 一方, トレーニングの場所や機会など特有の制約も存在する. 現在では, 副鼻腔解剖を精巧に再現した 3D モデルを使うことで開催場所を選ばずに反復練習できるようになった. 遠隔医療システムと組み合わせることで国境を越えた遠隔手術トレーニングも可能である.

     こうした Off-JT を組み合わせることでリスクなく手技を身につけることができ, 結果として OJT の効率性・安全性も高められると考える.

  • 保富 宗城, 伊藤 真人, 林 達哉, 河野 正充, 香山 智佳子, 角田 梨紗子, 櫛橋 幸民, 原渕 保明, 日本耳鼻咽喉科 免疫アレル ...
    原稿種別: 総説
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1563-1569
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     薬剤耐性菌の問題は, サイレントパンデミックと呼ばれている. 耳鼻咽喉科頭頸部外科は, 上気道疾患を扱う診療科であり, 感染症を取り巻くさまざまな現状に即した取り組みを行ってきた. 新型コロナウイルス感染症流行後の社会においても, 迅速かつ柔軟な感染症対策, 抗菌薬の適正使用への取り組みが重要である. しかし, 経口抗菌薬の新規開発は1990年代以降, 減少傾向にある. 新規抗菌薬の開発には, 1. 主要原因菌に対する有効性, 2. 既存抗菌薬に対し耐性を有する株に対する有効性, 3. インフルエンザ菌に対する有効性, 4. 耐性誘導しにくい性質, 5. 服薬コンプライアンスが容易なことが望まれている. 薬剤耐性菌に対する活動を推進する上で, 抗菌薬の適正使用と新規抗菌薬の開発は重要な課題であり, さらなる研究・薬剤開発・創薬活動が必要である.

原著
  • 南 豊彦, 川嵜 良明, 中村 晶彦, 坂 哲郎, 川島 佳代子
    原稿種別: 原著
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1570-1577
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     われわれは, 在宅医療の現場での耳鼻咽喉科の往診について, 耳鼻咽喉科を専門としていない在宅主治医の医師がどのような意識を持っているかを検討するため在宅主治医を対象にアンケート調査を実施し, 耳鼻咽喉科の在宅医療における現状の把握と今後の課題について検討した.

     方法は, 大阪府下で在宅療養支援診療所を登録している施設から無作為に抽出した716施設の診療所に「耳鼻咽喉科の在宅医療」についての意識調査をアンケート方式で行い, 回答を得た292施設の結果をまとめた. 過去に医師が依頼した診療科については, 皮膚科, 歯科, 泌尿器科が多かった. 耳鼻咽喉科, 整形外科は少ない傾向であった. 耳鼻咽喉科への往診の依頼をした施設は13%であったことは, 9割近くの診療所が「往診の依頼はない」と回答していたことになる. 耳鼻咽喉科医の往診を希望する疾患については, 嚥下障害, 耳垢, 耳漏, 中耳炎, 鼻出血が多く見られた. 口腔癌, 咽頭癌, 喉頭癌といった頭頸部癌の診療希望も見られた. 嚥下障害を受け持っているという回答は45%であった. 嚥下障害の依頼先は耳鼻咽喉科医が最も多かったが, 歯科医, 言語聴覚士に委ねている施設も相当数認められた. 嚥下障害の治療の担当者については言語聴覚士が最も多く認められた. 在宅診療への耳鼻咽喉科の参画には9割が希望していた. 今回の調査では往診依頼や連携に関して, 耳鼻咽喉科医が在宅医療に参画するためのさまざまな問題点が浮き彫りになった.

  • 川村 繁樹, 河本 光平, 馬場 奬
    原稿種別: 原著
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1578-1585
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     好酸球性副鼻腔炎 (ECRS) は鼻閉と鼻汁, 嗅覚障害を主とする難治性の疾患であり, 内視鏡下副鼻腔手術 (ESS) を施行しても易再発性であることが知られている. 今回, JESREC study による診断基準が確立された2015年以降に当院で初回手術を施行した好酸球性副鼻腔炎114症例の術後成績を, 良好群, やや良好群, 再発群に分類し,再発に関与する因子を検討し, 3群間での自覚症状, QOL の変化を評価した. 術後1年以上, 平均38カ月観察した結果, 良好40%, やや良好27%, 再発32%であった. 全ての群において自覚症状, QOL は術前に比し有意に改善を認めたが, 嗅覚障害の改善率のみが再発群では良好群より低かった.

     再発群でもポリープスコアが小さい症例は術後保存的治療でコントロールが可能であり, ポリープスコアが高く鼻閉や嗅覚障害も強い症例が再手術や生物学的製剤の適応となり, その割合は全体の1割以下であった.

  • 渡邊 愛, 伊藤 卓, 川島 慶之, 本田 圭司, 藤川 太郎, 北川 智介, 堤 剛
    原稿種別: 原著
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1586-1592
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     側頭骨腫瘍摘出術に対して, Medtronic 社製の O-arm® と StealthStation® を接続することにより, 術中撮影CT画像による自動レジストレーションナビゲーションを行った. 側頭骨亜全摘術では腫瘍周囲に安全域を設けて骨削開を進める際に役立った. 顔面神経鞘腫では腫瘍の中枢側断端と中頭蓋底との解剖学的距離の確認に有用だった. 本システムでは安定して高い精度を示すことができ, 誤差の程度を確認しづらい側頭骨手術において高い信頼性をもって用いることができた. また, 術中撮影を行うことで手術手順に応じてリアルタイムに術野が更新可能であることから, 柔軟な活用ができることも本システムの利点であった.

  • 藤原 圭志, 山口 秀, 茂木 洋晃, 藤原 由有希, 本間 明宏
    原稿種別: 原著
    2022 年 125 巻 11 号 p. 1593-1598
    発行日: 2022/11/20
    公開日: 2022/12/02
    ジャーナル フリー

     前庭神経障害は小脳橋角部腫瘍で認められる最も多い神経障害の一つである. vHIT, VEMP の登場により下前庭神経を含めた機能評価が可能となった. 症例は22歳男性で左小脳橋角部を占拠する巨大軟骨肉腫の術前精査目的に当科紹介となった. 術前の vHIT, VEMP で患側の反応低下を認め, 上・下前庭神経両者の障害が示唆された. 術後, 患側 vHIT, VEMP の改善が認められ, 手術による上・下前庭神経障害の改善が客観的に確認された. 聴神経腫瘍以外の小脳橋角部腫瘍において, 手術により圧迫が解除されると神経障害の改善が認められることがある. 術前後の前庭機能評価に vHIT, VEMP が有用である.

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