心理学研究
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  • 92 巻 (2021) 1 号 p. 12-20
    態度が相反する他者への過度なバイアス認知を錯視経験が緩和する効果 もっと読む
    編集者のコメント

    2022年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文
    近年は,SNS等を通じて,多くの他者の意見を目にすることができる。意見の異なる他者への攻撃が目に触れることもある。本論文は,自身と態度の異なる他者に対して,「バイアスがかかった見方をする人だ」と考えやすいというバイアス認知を扱っており,社会的にも広く関心を集める研究であるといえよう。このようなバイアス認知の緩和策としては,当該の現象や態度についての理解を深めるなどの方法が思い浮かぶが,著者は,錯視を見せるという独創的な方法を用いている。自分の認知が客観的事実を反映していると信じる傾向が,バイアス認知の原因の1つとされているためである。実験では,参加者が関心を持つ社会問題について,自身と同一態度あるいは相反態度の他者を想起させ,その他者についてのバイアス認知を測定した。その前に,静止画が動いて見える錯視を紙上で見せる条件,錯視をモニター上で見せる条件,錯視ではない画像を紙上で見せる統制条件を設定した。実験の結果,錯視を紙上で見せた場合にのみ,自身と態度の相反する他者についてのバイアス認知が低かった。モニター上で見せる条件ではこの効果が得られなかったことも興味深い。モニター上で画像が動いて見えても,自分の知覚が不確かであるとは感じにくいためである。これらの結果を併せると,自身の知覚の不確かさに直面する体験がバイアス認知を緩和させたと解釈できる。このように,本論文は,他者に対するバイアス認知という現象を扱いつつ,一見,それとは関連を想像しにくい錯視を緩和策として用いるというユニークな着想,そして,それを実証する精緻な実験計画が高く評価され,優秀論文賞にふさわしいと判断された。

  • 91 巻 (2020) 1 号 p. 23-33
    指先が変える単語の意味 もっと読む
    編集者のコメント

    2021年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文
    本論文は,スマートフォンの日常的な長期使用が,フリック入力の反復を通して,文字,無意味単語,実在する有意味単語の感情価を変化させることを報告している。著者は,フリック入力における下向きと上向きの親指の動きが,それぞれ手前へと奥への運動であることに注目し,下フリックは接近,上フリックは回避の運動として捉えることができると考えた。接近運動はポジティブな感情と,回避運動はネガティブな感情と結びつくと論じた先行研究に基づき,入力時に下フリックを多く含む単語はポジティブな感情価を,上フリックを多く含む単語はネガティブな感情価を相対的に帯びることになると仮定し,このフリック効果の存在を5つの研究によって検証した。まず,フリック入力が実際に1.5cm以上の指の空間移動を伴うことを確認し(研究1),続いて,ひらがな清音46文字(研究2),782の無意味単語(研究3,研究4),978の単語(研究5)の感情価の評定を計1,500名以上の参加者に求めた。その結果,一貫して,フリック効果が確認され,また,この効果がスマートフォン未使用者には見られないことから(研究4,5),フリック入力と感情価変動の関係が強く示唆された。俄には信じ難い興味深い結果が,膨大な刺激数と十分なサンプルサイズの研究によって繰り返し再現される様は,科学的探求の醍醐味を教え,「良くも悪くも人間の心理は道具依存的でもある」という最終段落の一文を導く論考の精緻さは,爽やかな知的興奮を読後に残す。たとえ小さな影響でも,日常的に何百回と繰り返されることで蓄積され,検出可能となること,このような過程を経て,新しいテクノロジーが人間の心に影響を与え得ることを示した本論文は,新規性,独創性,研究手法の厳密さ,丁寧な考察が高く評価され,優秀論文賞にふさわしいと判断された。

  • 90 巻 (2019) 3 号 p. 252-262
    なぜ非行集団に同一化するのか もっと読む
    編集者のコメント

    2020年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文
    少年犯罪において,非行集団への同一化は非行リスクを高める一因となる。そのため,非行集団への同一化を規定する要因を検討することは,非行の抑止にとって重要である。本論文は,非行集団への同一化を規定する要因として,非行少年の差別経験と集団境界透過性(個人が社会的カテゴリー間を移行可能であると期待する程度)に注目した。少年鑑別所に入所していた男子少年を対象とした調査が行われた。その結果,同級生,教師や警察,地域住民から差別を受けたことがあると感じている少年は,差別を受けたことがないと感じている少年よりも非行集団への認知的同一化が高くなっていた。また,教師や警察から差別を受けたことがある場合,集団境界透過性が低い(非行集団から別な集団への移行可能性がない)少年は,集団境界透過性が高い少年よりも,集団への同一化が高くなっていた。本研究の特筆すべき点として,少年鑑別所に入所していた男子少年を調査対象者としているというデータの貴重さが挙げられる。また,非行少年の属性や内的要因ではなく,差別や集団境界透過性といった非行少年を取り巻く環境に注目している点も特筆すべき点である。そのため,考察で述べられた非行への再統合的な非難の表明や少年の居場所づくりといった非行抑止の対策が説得力を持ち,大きな実践的示唆を提供するものとなっている。本論文はこれらの点が評価され,優秀論文にふさわしいと判断された。

  • 89 巻 (2018) 2 号 p. 160-170
    親密な関係破綻後のストーカー的行為のリスク要因に関する尺度作成とその予測力 もっと読む
    編集者のコメント

    2019年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文
    関係破綻後のストーカー的行為生起の心理的背景について,構造方程式モデリングを用いて明らかにした論文である。研究1ではインターネット調査会社のモニターを対象にした調査が行なわれ,別れた相手との交際時の関係性,関係破綻後の思考・感情を測定する尺度が作成された。研究2では,層化2段階無作為抽出法による全国調査が実施され,パーソナリティ特性(愛着不安と自己愛傾向)が過去の交際時の関係性に影響し,それらが関係破綻後の思考や感情に対して影響を及ぼすことでストーカー的行為が増大するという仮説モデルが検証された。その結果,男女共通して愛着不安および交際時の関係性の唯一性認知が,独善的執着を高め,ストーカー的行為の増大につながることが確認された。さらに,ジェンダーによる問題行動生起のメカニズムの差も明らかとなり,考察においては,従前の恋愛研究の知見との統合および発展が試みられた。ストーカー行為生起に対する心理学的研究は我が国ではまだ十分には行われておらず,本研究はこの嚆矢として位置付けられる。審査過程では,現実の社会問題解決につながる心理学的知見が明確に提出されている点,研究2において無作為抽出法に基づく全国調査が行われておりデータの信頼性が高い点,論理構成および文章が明快で説得力がある点が評価され,優秀論文にふさわしいと判断された。

  • 89 巻 (2018) 6 号 p. 571-579
    漢字の形態情報が共感覚色の数に与える影響 もっと読む
    編集者のコメント

    2019年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文
    本論文は,文字を見ることで色を感じる色字共感覚と呼ばれる現象について,日本語における漢字の形態的特性の影響を,特に「偏」と「旁」の構造に注目して検討したものである。これまで,アルファベットなどの文字種に対する色字共感覚の生起には文字の形態,音韻,意味などの様々な情報が関与するが,漢字やカタカナ,ひらがなについては形態の影響が少ないとされてきた。一方,英単語では,複数語の連結によって構成される単語に対して複数の共感覚色が生じることが報告されており,偏や旁のような複数の構成要素を持つ漢字においても,複数の共感覚色が励起される可能性が考えられた。こうした背景から著者らは,偏や旁に分割可能な漢字(左右分割漢字)と,偏や旁に分割不可能な漢字(左右非分割漢字)に対して生じる共感覚色の数を比較する実験を行った。共感覚色が文字やその近傍のような外界に存在するように感じる共感覚者(投射型)と,外界ではなく頭の中に色の印象が喚起される共感覚者(連想型)らに,1つの漢字について最大2つの色を回答するよう求めたところ,左右分割漢字に対する共感覚色の回答数が左右非分割漢字よりも大きくなること,また,そうした傾向は投射型の共感覚者でより強いことが示された。漢字に固有の形態的特性に注目し,色字共感覚の生起過程との関係を明らかにした点で世界的にみてもユニークな研究であり,先行研究の丁寧なレビューに裏打ちされた精緻な議論が展開されている点も高く評価できる。以上を踏まえて,本論文は優秀論文賞に相応しいと判断された。

  • 88 巻 (2017) 5 号 p. 460-469
    性犯罪者の犯行の否認・責任の最小化と再犯との関連の検討 もっと読む
    編集者のコメント

    2018年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文

    授賞理由
    性犯罪者が犯行を否認したり,責任を最小化したりすることは多くの臨床家や研究者によって認識されており,性犯罪者の犯行の否認・責任の最小化が将来の再犯可能性を高めると捉えられている傾向にある。しかし,性犯罪者の犯行の否認・責任の最小化が将来の再犯と関連するか否かについては,実証的研究が少なく,一貫した結果が得られていない。先行研究の問題点として,サンプルサイズの小さいこと,性犯罪の種類が少ないこと,既知の再犯リスク(性犯罪の持続性,対象者との関係性)などが考慮されていないが挙げられる。これらの問題点を考慮して,本研究では,性犯罪者の犯行の否認・責任の最小化と再犯との関連を検討した。有罪判決を受けた者を対象とした縦断研究が行われ,既知の再犯リスクを考慮しても,犯行の否認・責任の最小化と再犯の関連はないことが示された。考察では,論文では有意な関連性が認められなかった背景が丁寧に記載されるとともに,否認者への対処への示唆も記載されている。例えば,先行研究で明らかになっている再犯のリスク要因に対して優先的に介入しながら,機を見て否認をめぐる話題を取り上げることなどである。本論文は性犯罪者に対する心理学的介入の方向性を考える上で有益な情報を提供する貴重な論文であり,その意義が高く評価された。また,文献レビューや文章展開が分かりやすい点も評価された。以上のことから,本論文は優秀論文賞に値する論文であると判断された。

  • 88 巻 (2017) 3 号 p. 230-240
    脅威アピールでの被害の記述と受け手の脆弱性が犯罪予防行動に与える影響 もっと読む
    編集者のコメント

    2018年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文

    授賞理由
    本論文は自転車駐輪時のツーロック行動(防犯性を高めるため,カギを2つ掛けること)を題材とし,「犯罪被害の脆弱性」が異なる自転車利用者に,「脅威アピール情報の種類」と「予防行動の効果性情報」を操作した介入実験を実施することにより,それら要因が介入後のツーロック行動に与える影響を検討したものである。分析の結果,介入時に測定した行動意図(今後ツーロックをするという意図)の高低は,翌日のツーロック行動に影響するが,それ以降のツーロック行動の減衰には関係しないこと,統計情報の提示は事例情報に比べて予防行動の持続性に効果的であることなどが明らかにされた。また,操作された3要因の交互作用から,今後の防犯に向けての効果的な介入方法について,有益な結果が得られている。本研究の特筆すべき点は,フィールドにおいて実際の行動を従属変数とした実証的研究を行っていること,および28日間に及ぶ長期的な影響を検討していることである。災害や犯罪などのリスク問題に心理学からアプローチする研究では,往々にして主観的な評定のみをアウトプットとし,しかも,短期的な影響過程で議論を閉じてしまっているものが多い。それを乗り越えるには,様々なコストと工夫を要するが,本研究はそれにチェレンジしている。得られたデータは貴重であり,分析も丁寧にされている。こうした点から,本論文は優秀論文賞に値すると判断された。

  • 88 巻 (2017) 1 号 p. 32-42
    日本人の回答バイアス――レスポンス・スタイルの種別間・文化間比較―― もっと読む
    編集者のコメント

    2018年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文

    授賞理由
    リカート尺度を用いた質問では,質問の内容に関係なく,特定の選択肢を選択するレスポンス・セット(以下RS)と呼ばれるバイアスの存在が指摘されている。代表的なRSに,極端な選択肢を選ぶ極端反応傾向,中間評価を好んで選ぶ中間反応傾向,内容を十分に吟味することなく項目に同意する黙従反応傾向がある。これまでの研究から,日本人の極端な回答を避け中間的な回答を好む反応傾向が明らかにされている。一方,黙従反応傾向については,まだ研究の数が少なく,結果が定まっていなかった。本論文では,構造方程式モデリングを用いて日米韓の3国を比較・分析することによって,日本人のRSの特徴を検討することが試みられた。分析の結果,日本人の中間回答を好むRSの特徴が再確認された。黙従反応傾向は3国共に高いことも示された。これは,3種のRSの中で黙従反応傾向が最も顕著な回答バイアスであることを意味している。また,多様な文化的価値観に理解を示すバイカルチャー者は黙従反応傾向が強いことから,文化的価値の多様性が黙従反応傾向の規定因の1つであると論じられた。高度な分析手法を用い,日本人のRSの特徴を明らかにした本論文の学術的価値は高い。細部にまで言及した丁寧な考察も評価された。リカート尺度を用いた心理学的研究は極めて多い。今後,心理学研究者はRSに対する理解を深め,バイアス低減に努めることが求められるであろうし,本論文は,その手助けとなる代表的な研究の1つとなることが予想される。以上の点から,本論文は優秀論文賞に値すると判断された。

  • 87 巻 (2016) 1 号 p. 79-88
    日本語版DDFSおよびMWQの作成 もっと読む
    編集者のコメント

    2017年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文

    授賞理由
    マインドワンダリング(mind wandering)とは,近年注目されている心のデフォルト状態を示し,心理学研究の重要なトピックになってきている。心のデフォルト状態とは,科学研究におけるベースラインの状態を意味するが,我々人間の実生活においては,起きている時間の約半分の時間にも該当するような何気なくあることを考えたり,感じたりしている状態である。本研究は,マインドワンダリングの測定を目的とした自己記入式尺度2点の日本語版作成と,その信頼性と妥当性の検証を目的として行われた。作成された尺度の妥当性については,well-being,精神疾患関連特性とも相関関係が示されている。また,研究2として,作成された尺度と認知課題(外的注意課題)との相関を検討し,関連が認められたことによって尺度の信頼性をより高いものにしている。本尺度については,今後,神経科学分野,認知科学分野等を中心として多くの分野で活用されることが予想される。特に,心と関連する医学分野で注目されているデフォルト・モード・ネットワーク(default mode network:DMN)は,マインドワンダリングとの親和性が極めて高い。それ故,本尺度は医学分野での活用も大いに見込まれるものである。研究の計画が堅強であること,尺度の信頼性と妥当性を検証する手続きについても十分配慮 が行き届いていること,読み手にも理解しやすい論調であったこと,研究の限界点についても丁寧に言及していたこと等が評価された。以上のような理由から,本論文は優秀論文賞にふさわしいと判断された。

  • 87 巻 (2016) 4 号 p. 364-373
    表情の快・不快情報が選好判断に及ぼす影響――絶対数と割合の効果―― もっと読む
    編集者のコメント

    2017年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文

    授賞理由
    我々が特定の対象について好きか嫌いかを決める際,その選好判断には少なからず他者の判断の影響,すなわち社会的な影響がある。自分の選好判断が信頼する友人一人の判断に左右される場合もあれば,不特定多数の他者の判断に左右される場合もある。本研究では,こうした社会的場面で起こりうる現象について,認知心理学の立場から実験的に取り組んだ。著者らは,無意味図形を好意度評定の対象として使用し,喜びと嫌悪の表情写真を無意味図形の周囲に配置して他者が示す喜びや嫌悪のシグナルの絶対数と割合を制御した3つの精緻な実験から,参加者の選好判断への影響を調べた。その結果,複数の他者が存在する場面では,他者が示すシグナルの数が無意味図形の選好判断に影響することと,表情によって数の影響に違いがあることを示した。さらに,集団内における喜び表情の割合の増加は無意味図形への好意度を上昇させるのに対し,嫌悪表情がひとつでも存在すると好意度の低下をもたらすことを明らかにした。本研究は,社会的相互作用の効果について表情刺激を利用した認知心理学実験で検証したものであり,広範囲な心理学のテーマに関連している点が高く評価された。また,日常的に体験する社会的場面に正面から取り組み,複数の実験で一貫した結果を得て,読みやすい文章でまとめた点も評価された。こうした点から,本論文は優秀論文賞に値すると判断された。

  • 86 巻 (2015) 3 号 p. 209-218
    連続性犯罪の事件リンク分析 もっと読む
    編集者のコメント

    2016年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文

    授賞理由
    連続して発生する性犯罪が,同一犯によるものであるかどうかを事件リンク分析という手法を用いて推定した論文である。1993年から2005年までに全国で検挙された360人分の事件データが分析の対象となっている。分析の結果,犯行場所の公共性,被害者の年齢層,凶器の有無,時間帯,接触方法,住宅地の別の説明力が高いことを明らかにした。パーソナリティに関する近年の理論をきちんと引用し,先行研究と比べてより少数の変数により説明力の高いモデルを提示する等,心理学的に非常に意義のある研究である。また,本論文の主要な統計分析となっているロジスティック回帰分析をはじめとして,全体として統計分析も丁寧になされており,説得力のある論理構成となっている。何よりも,著者らの所属する科学警察研究所ならではの研究成果であり,目的や結果の明瞭性,および実社会,とりわけ実際の犯罪捜査活動への応用可能性等が高く評価された。時空間的な距離を分類して分析することや,統計的な知見では例外になるような事例を詳細に分析すること,平日・週末の別がなぜ説明力がなかったかを考察することなど,本論文を基点にしてさらなる発展も期待できる。

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