日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第43回日本臨床薬理学会学術総会
選択された号の論文の432件中51~100を表示しています
シンポジウム
  • 渡邊 衡一郎
    セッションID: 43_1-C-S07-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    精神科治療において薬物療法は中核となる。疾患を治療により寛解(remission)、そして回復(recovery)へとつなげていく過程で、薬物療法だけでなくさまざまな治療法と組み合わせて対応していくことになるが、そのベースとなる治療法が薬物療法である。当事者に合った最適な薬物を、効果を最大化、副作用を最小化するなど適切に使用することにより、あらゆる精神症状を軽減することができ、また、他の治療法よりも比較的速く効果を示すのが特徴である。

    ただ、あらゆる精神科疾患において病因が確立されているものは無く、現状、薬物療法はあくまで疾患に伴う「症状」を軽減するものとなっている。

    薬物療法は出来るだけ単剤を心がける。効果が認められた、あるいは認められなかった、または副作用が発現した場合、多剤であると一体どの薬剤によるものなのか判断がつきにくい。投薬は、例えば、不安、うつ、睡眠など症状ごとに行うものではなく、また、処方医は何故その処方がなされているか説明できるようにしなければならない。

    しかしながら、現状として未だ多剤大量処方などが行われている。その結果として、ドパミンD2受容体の過剰遮断による錐体外路症状や過鎮静、主観的副作用(ディスフォリア)、そしてメタボリック系副作用や認知機能、QT延長、抗うつ薬ではイライラや離脱、ベンゾジアゼピン受容体作動薬では脱抑制や認知機能障害、転倒、他にも薬物相互作用など多くの問題が生じている可能性が考えられる。

    当日は、症例を通じて、精神科薬物療法をスマートに行うためにはどうすればよいか、シンポジウムのイントロダクションとして検討したい。

  • 加藤 正樹
    セッションID: 43_1-C-S07-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    うつ病治療においては、抑うつ状態の改善、寛解が急性期治療のゴールとなる。次のステップとしては、社会・認知機能を含めた症状が元来の健常レベルまでの回復、そして、その後は、再燃を予防することが重要である。再燃の予防には、発症リスクの把握、睡眠や生活環境などのリスク低減調整とあわせて、抗うつ薬による維持療法が有用である。維持料に関しては、薬剤をやめる、続けるで再燃率がどの程度異なるか、その差が、それぞれの患者にとってどれほど重要かを考慮し、医師ー患者間で治療のコンセンサスを得る必要がある。本セッションでは、抗うつ薬寛解後、抗うつ薬は中止できるのか、そのことをどのように患者に説明し、共同意思決定をしていくか、に関して我々の行った世界最大規模のメタ解析や、その結果に基づいて作成したdecision toolを紹介しながら、概説したい。

  • 竹内 啓善
    セッションID: 43_1-C-S07-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    統合失調症の症状、特に幻覚妄想や解体といった陽性症状に対し、抗精神病薬は治療の中心的役割を果たす。陽性症状が活発な急性期ばかりでなく、これらが安定した後の維持期においても、再発防止のために抗精神病薬の継続が必要とされる。一方で、抗精神病薬は錐体外路症状、高プロラクチン血症、代謝障害、心血管障害など様々な副作用を惹起する。副作用の一部は用量依存性であること考慮すると、抗精神病薬は必要最小限の投与が理想的と考えられ、その方法として単剤化と減量がある。本講演では、メタアナリシスの結果、アルゴリズムやガイドラインでの推奨を中心に、これらについてのエビデンスを概観する。加えて、現在進行中の第2世代抗精神病薬持効性注射剤の減量に関する多施設共同二重盲検無作為化比較試験(SLAIDER研究)の中間解析結果について紹介する。

  • 高江洲 義和
    セッションID: 43_1-C-S07-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    これまでわが国では不眠症の治療薬としてベンゾジアゼピン受容体作動薬が診療科を問わず汎用されており、諸外国と比較してもその処方量が多いことが知られている。近年は、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の長期・多剤服用により、認知機能の悪化、転倒による骨折のリスクの増大、依存形成など、様々な問題点が指摘されている。2014年に睡眠薬の適正使用・休薬ガイドラインが公表され、睡眠薬を内服中で症状が安定している患者は、睡眠薬の休薬を目指していくことが望ましいとする「出口戦略」が提唱されるようになった。しかしながら現状では臨床現場において、睡眠薬の出口戦略が広く実装化されているとは言い難い状況である。

    不眠症診療においてベンゾジアゼピン受容体作動薬の代替治療法は徐々に普及しており、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬などの新たな作用機序を有する薬剤が登場しており、不眠に対する認知行動療法の有用性が広く知られるようになっている。しかしながら、近年のレセプトデータベース研究結果からも、未だベンゾジアゼピン受容体作動薬の多剤・長期処方の問題は解決していないことが明らかになっている。また、我が国における不眠に対する認知行動療法は保険収載もされておらず、十分に普及していないため、多くの診療現場からのアクセスは容易ではない現状がある。

    このような状況から、我が国における睡眠薬治療の適正化や出口戦略の実装化のために、さらに踏み込んで実臨床で実装可能な明確な指針の作成が求められている。そのため我々は、厚生労働科学研究費事業としてベンゾジアゼピン受容体作動薬の適正使用ならびに出口戦略の指針を示す取り組みを行っている。本シンポジウムにおいては不眠症診療における睡眠薬の適正使用や出口戦略の実装化の取り組みを紹介して、今後我々が目指すべき不眠症治療について議論したい。

  • 古郡 規雄
    セッションID: 43_1-C-S07-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    薬物相互作用には,薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用がある。薬物動態学的相互作用は,主に薬物代謝過において,薬物同士が影響を受け,血中濃度が変動することによって起こるものを指す。薬物動態学的相互作用の多くは,前節で述べた代謝酵素であるCYP450 酵素の基質や阻害,誘導と関連して生じる。他にもグルクロン酸抱合を行う,UDP グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)や,フラピン含有モノオキシゲナーゼも薬物動態学的相互作用に関連しているが,CYP450 に比して十分なデータがない。代謝過程における相互作用以外にも,小腸や肝臓,血液脳関門や血液胎盤関門に発現し,局所の薬物濃度を制御する薬物トランスポーターを介した相互作用に関する知見も増えつつある。薬力学的相互作用は,血中濃度には変化はないが,受容体における直接的な競合(作用部位での同じ作用や,反する作用)や,同じ神経伝達路による増強作用や拮抗作用などによって,効果の増強や減弱が起こることを指す。すべての治療薬の相互作用を覚えておくのは現実的ではないため,web 上の薬物相互作用検索の情報データベースを利用することが望ましい。有料のものでは Lexicomp (https://apps. apple.com/jp/app/lexicomp/id313401238) や,IBM が提供しているMicromedex (https://apps.apple.com/jp/app/ibm-micromedex-druginteract/id666032615)等は,スマートフォンやタブレットのアプリもあり便利である。無料のものでは Medscape(https://reference.medscape.com/drug-interactionchecker)やEpocrates (https://online.epocrates.com/interaction-check)等があるので,有効に利用したい。原則として、薬物相互作用のある多剤併用は避けるべきである。どうしても併用せざるを得ない場合は薬物相互作用の起こりうる組み合わせは避けるべきである。本シンポジウムではどのように薬物相互作用が発生するのかを解説しながら、スマートな薬物療法を考えていきたい。

  • 田村 研治
    セッションID: 43_1-C-S08-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    腫瘍や血液検体を用いた、いわゆる「がん遺伝子パネル検査」が保険承認され、がんゲノム医療が一般臨床として行われるようになった。まだ解決すべき問題点が多く、ゲノム拠点、中核、連携など、特定の施設に限られるが、研究レベルのゲノム診断が、一般診療に導入されたことには間違いない。ゲノムの異常には、遺伝子多型(SNPs)、遺伝子変異、遺伝子増幅、転座・欠失など、さまざまある。ゲノム異常が、特定の酵素やタンパク質の薬効薬理に大きく影響することの少なくない。私は、がん領域において、薬物療法の効果を予測するバイオマーカーの研究に従事してきた。その中で、特定の遺伝子多型(SNPs)(FcγR, CYP2D6など)や、体細胞性変異(EGFR変異、AKT変異)、生殖細胞系列変異(gBRCA)により、抗悪性腫瘍薬の薬効が大きく変わることを、前向き臨床研究の中で検証してきた。又、現在、保険償還されている、OncoGuideTMNCC-オンコパネルシステム検査の開発と臨床研究に、開発早期から関わってきた。本シンポジウムでは、それらの経験を通じて、ゲノム異常が薬効に影響を及ぼすことをいかに研究するか、又、臨床試験を通じていかにエビデンスにするか、又、それを一般病院にいたるまで、いかに一般医療に実装化させていくのかについて、議論をしたい。

  • 北野 滋久
    セッションID: 43_1-C-S08-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    従来の抗がん薬や分子標的薬の開発においては、早期試験において単独療法で臨床効果が観察されなかった薬剤を併用療法として用いても開発が成功する例は乏しく開発が中止されることが一般的であった。癌と宿主免疫系は細胞と細胞の接触を介する直接のやり取りだけでなく、腫瘍微小環境や各種液性因子をも介した複雑な相互関係から成り立ち、理論上はがん免疫療法単独では抗腫瘍効果を発揮しない場合でも、複数の治療を組み合わせること(複合)によって抗腫瘍効果を発揮しうると考えられるため、従来の殺細胞性の抗がん薬や分子標的薬における併用療法とは異なる開発戦略が成り立つ余地がある。理論上、複合がん免疫療法の開発においては、各併用薬の投与量や投与タイミング(同時あるいは投与の順番)、その適切な組み合わせなどを検討すべきであり、さらには宿主の免疫状態を悪化させることなく長期的な抗腫瘍免疫応答に基づく臨床効果の持続が期待できる併用療法を追求する必要があると考えられる。がん免疫療法においては、従来の抗がん剤や分子標的薬剤の開発とは異なり、必ずしも開発薬剤が動物モデルでは作用しない(薬効を発揮しない)場合がある。この場合には、早期臨床試験の段階で、1)患者におけるMOA(mode of action)の確認、2)臨床効果や副作用(irAE)と各種免疫因子との関連の検証、3)治療抵抗因子の同定、4)新規治療標的の発見 5)reverse TR (基礎研究者への還元)を行うことがより重要となる。また、臨床開発の成功確率を高めることや医療経済的な観点などから、治療効果を予測するバイオマーカーの開発によって適切な患者選択を行なっていくことの重要性も高まっている。抗腫瘍免疫応答は様々な因子が、空間的・時間的に相互作用する複雑な関係によって成り立つため、癌種や病期、さらには、単剤投与か各種併用療法の治療の組み合わせ方によって、患者選択に寄与するバイオマーカーが異なることが推測される。バイオマーカーは単一因子ではなく、治療対象や治療方法毎に、異なった複数の因子の組み合わせたスコアリング化に向かう可能性があり、多数の因子を統合解析するためには、バイオインフォマティクス技術の導入が不可欠であると考えられる。

  • 白石 航也
    セッションID: 43_1-C-S08-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    ゲノム医療とは、個人のゲノム情報を調べることで、より効率的もしくは効果的に疾患の診断、治療、予防を行うことです。ゲノム医療の対象は、主に二つに分けられます。一つが生まれもった遺伝子の多様性の違い、例えば一部の難病や遺伝性腫瘍など単一の生殖細胞系列遺伝子の変異が原因となる疾患に対する診断や予防医療です。もう一つが、がん組織を用いて多数の遺伝子を同時に調べ、検出された体細胞遺伝子異常に適した治療などを行う医療です。例えばがんの発症に関わると考えられている数百種類の遺伝子を一度に調べて、遺伝子の異常を見つけ出す検査をがん遺伝子パネル検査といいます。これらの検査は遺伝子異常の種類別に的を絞った治療薬の開発や治療選択に用いられています。また人種によって、検出される体細胞遺伝子変異の分布や頻度に差が認められており、日本人に適したパネル検査が重要です。今までの報告で、国立がん研究センター中央病院で行われたがん遺伝子パネル検査の臨床試験(TOP-GEAR)では、治療に関わる遺伝子異常が約50%で認められ、実際に遺伝子異常にマッチした治療薬が投与されたのは全体の約10~15%と既報と同等の結果でした。以上より、さらなる新規がん関連遺伝子の選定や新たな治療法の探索が求められています。一方で、全ての遺伝子のたん白質をコードするエクソン領域(全ゲノムの約1%の領域)を対象とした全エクソン・ゲノムシークエンス解析をがん診療に実装する動きが出ています。患者さんから得られるがん組織試料に限りがあることや診療上必要となる遺伝子変化の情報が患者さんで大きく異なることから、解析対象遺伝子に制限のない全エクソン・ゲノムシークエンス解析を実装することが理想的です。しかしながら、得られるゲノム情報は膨大であり、解析に必要な計算資源や簡便性、また検査の質的保証が既存のパネル検査に比べて劣るため、すぐに医療実装できる段階にはありません。そこで、がんの全ゲノムシークエンス解析をまずは研究として開始し、その結果を患者さんに還元するとともに研究開発に利活用するという国家プロジェクトが始まっています。本シンポジウムでは、現在のゲノム医療の状況と国が進めている全ゲノム解析の今後の展望について紹介します。

  • 長村 文孝
    セッションID: 43_1-C-S08-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    造血幹細胞移植後のGVHD(Graft-versus-host disease 移植片対宿主病)は、輸注あるいは生着したドナー由来細胞が患者組織を免疫学的に傷害する病態であり、古典的には移植後早期の皮膚・肝・腸管障害を来す急性GVHD(aGVHD)と、移植後100日以降にみられる自己免疫病に類似した慢性GVHDに大別される。aGVHDでは一次治療であるステロイドの全身投与で軽快しない場合の二次治療として本邦では抗胸腺グロブリン、ルキソリチニブ、ミコフェノール酸モフェチルに加え、骨髄由来間葉系細胞製剤であるテムセルが用いられている。間葉系細胞は、免疫調整作用、組織修復作用、分化能を有し、骨髄、脂肪、臍帯、等に由来する製品の開発が盛んであるが、そのMode of Actionは完全に解明されているとは言い難い。GVHDにおける再生医療としては、間葉系細胞をaGVHDに対して開発が主に進められている。非臨床試験は、免疫不全動物モデルを用いての検討となるため、ヒト-動物モデル間の免疫反応をどのように評価するのかが問題となったり、NOGマウスが用いられることが多いが小動物であるために検討事項が制限されたり、ルシフェラーゼ等を付加して動態の検討を行うが付加が細胞に影響を与えないのか等留意する事項が多い。臨床試験においては、動態の検討は標的組織での検出手法確立が困難であり、適切な投与間隔や投与回数の設定をどのように設定すべきなのか等の課題がある。東京大学医科学研究所においては、臍帯由来間葉系細胞製剤(IMSUT-CORD)の開発が進められ、基礎研究から医師主導第一相試験までを実施し企業導出に至っている。この間に実施した基礎研究や非臨床試験と臨床試験によって得られた知見や疑問、あるいは他の間葉系細胞製品の報告例を交えて、「細胞」を用いる再生医療を開発する際にどのように薬理学的視点を考慮するのがよいのかについて報告する。

  • 辻 泰弘
    セッションID: 43_1-C-S09-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    内閣に設置された統合イノベーション戦略会議によって決定された「AI戦略2019-人・産業・地域・政府全てにAI-」(令和元年6月)では日本におけるAI戦略が示された。令和3年にはそのフォローアップである「AI戦略2021」が発表され、AIと他の応用分野とを融合する取り組みが徐々に進みつつあることも報告された。しかしながら、特に新薬の臨床開発分野へのAI導入は他分野と比較して遅れていることは否めない。その原因として臨床試験で取り扱うデータは秘匿性が高く、かつ情報の処理が古典的であることを前提として収集されていることが考えられる。その一方で、ビッグデータを使いコンピューターに学習させることにより、これまで専門家による分析やその分野の匠の経験に頼っていた特徴抽出やパターン認識分析を自動的に行うことが可能になってきた。少しずつではあるがアカデミアもしくは製薬企業を中心として、AIと薬物動態・効果および副作用の定量的情報を統合する臨床薬理研究が試みられている。さらに、グローバル開発で利用されているModel-Informed Drug Development(MIDD)を実装する際の意思決定ツールとして、今まさに人工知能の利活用が盛んに検討されている。本シンポジウムを通じて世界的な新しい動向を把握し、臨床薬理学会および薬理学会に人工知能研究を波及させるための端緒としたい。

  • 関 弘翔, 細野 裕行
    セッションID: 43_1-C-S09-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    現在、人工知能(AI)といわれる技術のほとんどは、データを基に機械自ら学ぶ機械学習技術を指す。数式をモデルとしてデータにあてはめる回帰分析や、複数の決定木を組み合わせたデータの分類など、機械学習の範疇は多岐に渡る。近年は機械学習のなかでも、回帰や分類などの目的タスクに有効な特徴の抽出方法も含めて、データから直接タスクを実現するモデルを構築可能な深層学習の発展が著しい。深層学習で広く用いられるのは、神経細胞の仕組みを模した数理モデルである人工神経回路網(Artificial Neural Network: ANN)を多層化した深層神経回路網に基づくものである。所望の形で出力するようにANNのアーキテクチャを設計することで様々なタスクへの適用が可能であり、機械学習を応用して様々な問題を解決するアプローチが、特徴量および学習アルゴリズムの設計からアーキテクチャの設計にシフトしつつある。従来、十分な精度でのモデル化が困難であった事柄もANNによりデータから自動的にモデル化できる一方、学習パラメータが膨大であるため、大量の学習データを必要とする点や入力に対するモデルの挙動を説明することが難しい点など実用上の課題も多い。AI技術の実活用に関する国際的な動向として、2019年5月に日本を含む複数国間で合意した経済協力開発機構のAI原則にある、人間中心の考えに基づく「責任あるAI」の開発と使用に取り組む国際的な枠組み、Global Partnership on AI(GPAI)が2020年6月に設立された。GPAIのワーキンググループにおいてCOVID-19に関連するAIツールを分析した結果、倫理/法規制、信頼できるデータへのアクセスの困難さ、信頼性の不足といった課題が指摘されている。さらに、GPAIのプロジェクトの一つとして創薬のためのAIが発足するなど、国際的に注目される責任あるAIが臨床薬理の分野において果たす役割は大きい。責任あるAIの実現に向けては、秘匿性の高いデータを開示することなく分散学習が可能な連合学習や、モデルのブラックボックスを解消する説明可能なAIといった技術に期待が寄せられている。

    本講演では、薬物動態(PK)モデルにおけるPKパラメータをANNでモデル化することで高精度化を図りつつ、コンパートメントモデル解析することでANNの過剰適合を抑制したANN-PKモデル、およびモデルの解釈を説明可能なAI技術により実現した我々の取り組みを、人工知能研究の現状や国際動向を含めながら紹介する。

  • 土綿 慎一
    セッションID: 43_1-C-S09-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    近年,新薬開発で採用されているModel Informed Drug Development (MIDD)アプローチは,化合物や疾患に関する非臨床と臨床の枠組みを超えた様々な情報やナレッジをモデルというプラットホーム上での統合を可能とし,病態や薬剤のプロファイル及び影響する背景因子(共変量)を明らかにするだけでなく,それまでに得られたデータを統合解析するだけの後向きの解析戦略から,モデルに必要な情報を開発の各段階で計画的に取得するという前向きの解析戦略へのパラダイムシフトをもたらした。しかしながら,計画的なデータ収集をもってしても収集可能なデータには限界があるため,臨床開発の各ステージで都度更新・拡張し続けるモデルには,過去のデータや類薬の臨床経験より経験的に従うと考えられるモデル,もしくは生理学的・薬理学的なメカニズムの模倣,あるいはそれを簡略化したモデルのように周辺情報を考慮したものを用いる必要があった。

    一方,人工知能(AI)として注目され最近急激に応用が進んでいる機械学習の手法では,多くのデータからアウトカムを高精度に予測するためのモデルをコンピュータに構築(学習)させている。その際にモデルの前提条件となるような周辺情報は必ずしも必要でないが,ここで学習と呼ぶモデル構築には通常いわゆるビックデータと呼ばれるような大量のデータが必要である。限られたデータと周辺情報を考慮してモデルを構築しているMIDDと,大規模データを用いて精度の高い予測を行おうとする機械学習には,その前提に大きな隔たりがある。この前提の違いがMIDDを含む新薬開発に機械学習を応用するにあたっての障害となっていると考えられる。

    本講演ではAI技術のMIDDへの実装に向けた課題への取り組みと,今後の展望について述べる。

  • 加唐 誠剛東
    セッションID: 43_1-C-S09-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    近年、高速なハードウェア及びビッグデータが利用できるようになったこともあり、人工知能の中でも深層学習の発展が著しい。なかでも最近注目されている深層学習の一つにイアン・グッドフェローらが2014年に発表した敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Network:GAN)がある。GANは「生成器」及び「識別器」の2つのモデルから構成され、生成器は本物と似たようなデータを生成し、識別器は生成器が生成したデータが本物か偽物かを判断する。この2つのモデルを競わせて学習させることで、似て非なるデータを生成することができる。GANは、画像生成の分野で広く利用されている。一例として、低い解像度から高い解像度の画像の作成、雰囲気の異なる別の画像の作成、文章に基づく画像の作成、フェイクニュース等で話題になるような実際には存在しない動画を作成するなどの活用事例があげられる。このようにGANでは、従来の角度や色を変えたりすることに留まらず、データの特徴を学習し擬似的なデータを新たに生成できるため、深層学習の訓練データを補う技術としても注目されている。

     一方、医薬品開発に用いられるシミュレーションは、限られた臨床試験データに基づき、被験者背景情報はサンプリング又は確率分布モデルを仮定して発生させ、また血中濃度データは母集団薬物動態モデルを用いて予測する手法が汎用されている。一般に、第1相試験では被験者数が少数例であり、特に小児を対象とした臨床試験では例数及び血中濃度測定時点ともに限られ、そのようなデータを用いて後期試験(第2相及び/又は第3相試験)で対象となる患者での薬物動態プロファイル(薬物動態に及ぼす影響因子を含む)を精度高く予測することは難しい。そこで、臨床開発を想定した少数例の臨床試験データに基づき、GANを活用することで、多数例の被験者背景情報及び血中濃度データを精度高く生成できるのか、検討を続けている。実際、GANを用いて臨床データの欠測を補間する報告があり1,2)、医療分野でのGANの応用が検討されている。本演題では、GANの基本的な説明をし、現在進行中の検討を紹介した上で、臨床薬理領域への適応に向けた今後の展望について述べたい。

    1) Dong W, et al. BMC Med Res Methodol. 21:78 (2021).

    2) Traynor C, et al. J Pers Med. 11:1356 (2021).

  • 高橋 早紀
    セッションID: 43_1-C-S09-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    従来,個別化医療を提案する一つの方法として薬物治療モニタリング (TDM) が用いられている。TDMにより患者個人毎の血中薬物濃度を調節することで、有効かつ安全な投与量を導き出すことが行われている。一方で,安全性上の問題は同一の血中薬物濃度であっても,患者個人間で薬理効果発現の有無が異なり,必ずしも薬物濃度だけでは説明できないことも知られている。新薬の開発段階ではファーマコメトリクス (PMx) を用いて,有効でかつ安全な投与量が決定されてきている。たとえば、母集団薬物動態-薬力学モデルや曝露反応解析は、臨床試験で得られる薬物濃度データ、有効性及び安全性評価項目をもとに患者集団における最適な用法用量の提案に活用されている。しかし,これらを実臨床の場で用いるには,様々な理由により難しいことも事実である。

    臨床現場の意思決定に機械学習モデルが用いられるケースが近年報告されている。感染症分野では、薬剤の治療効果及び副作用予測を目的とした機械学習モデルが構築され治療方針の選択に貢献している。そこでメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症治療に用いられている抗菌薬リネゾリドを例に,機械学習による血小板減少の副作用発現予測について検討を行った。機械学習モデルはその複雑性と解釈性から用途に応じた適切なモデルを使用する必要がある。その中でも決定木は分類及び回帰問題に使用される手法で、関連する因子とそのカットオフ値を提示できることから解釈性が高い。リネゾリドを投与された患者を対象に、薬物濃度、血小板数及び背景情報を収集し、標準的な治療期間経過後の血小板減少症と関連する因子を網羅的に分析した。その結果、リネゾリド投与後の血小板減少には、治療開始後早期の薬物濃度及び血小板数がその後の血小板減少に関連することを提示した。機械学習モデルにより抽出された関連因子を活用することで患者の副作用発現の早期予測が可能となる。一方、患者で精度よく用量調節を行う場合はPMxモデルも有用である。両方の利点を理解したうえで活用することが望ましい。

  • 森本 剛
    セッションID: 43_1-C-S10-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    多くの臨床研究者は、その教育課程において臨床研究に必要な知識や技能を体系的に学んでいない。臨床研究に積極的な機関に勤務し、治験や臨床研究に参加することが多くても、研究者自身は臨床研究に必要な知識や技能を体系的に学ぶ機会は多くなく、大学や病院の先輩医師のやり方、もしくは過去に参加した治験のやり方をそのまま真似るか、もしくは誰かに委ねる、こととなる。一方で、臨床研究は多くの脆弱な患者を標本とすること、未来の多くの患者の診療に影響を与えることから、研究の実施は、信頼性が高く、科学的な手段を用いるだけではなく、最大限公正であり、また倫理性が高くなければならない。しかしながら、臨床研究の公正にかかる事案は世界中で後を絶たず、政府や学術機関は規制や教育活動などの対策を行っているが、その効果は明らかではなく、研究公正に関する教育が講義などの受動的なものであることが不適切な研究活動に関連していることが報告されている。臨床研究スキルを身につけても、研究公正が伴わなければ、非倫理的な研究が実施され、逆に研究公正を声高に喧伝しても、研究スキルが伴わなければ、信頼性の低い研究が報告される。そこで、研究公正に関する受動的な教育から転換し、臨床疫学や生物統計学などの臨床研究スキルと組み合わせ、能動的に学習できるトレーニングプログラムを開発し、多くの臨床研究者に展開してきた。トレーニングプログラムは、2泊3日から4泊5日の合宿形式で、5~6人のグループ毎に仮想研究を設定し、シミュレーションを行うものである。具体的には、研究テーマの設定から論文作成(発表)に至る仮想研究のシミュレーションでは、講義や仮想データを用いた統計演習などを行い、最終的に各グループが仮想研究を報告する。その過程で、各グループは研究公正、倫理上の問題をはらんだ状況に強制的に遭遇する。参加者は、臨床研究を実施する上で、研究公正に関する知識や問題解決の能力は、科学的で公正な臨床研究を遂行するためのスキルの一つであることに気づき、研究公正センスを身につけることができる。臨床研究者にとって、学習意欲の高い臨床疫学や生物統計学に関する学習過程の中に、研究公正や研究倫理に関する学習を統合した形で組み入れ、科学的な研究技術と公正な研究態度の両方を同時に身につけるトレーニングプログラムの有効性と今後の課題について、議論したい。

  • 高田 哲至
    セッションID: 43_1-C-S11-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    近年、Patient Centricityの概念に基づき、患者の声を直接入手し、医薬品開発や臨床試験計画に活かす取り組みが製薬企業でも広がりつつある。このような取り組みが広がることで、患者の臨床試験への理解並びに参加を促進し、ひいては医薬品開発の促進と患者の新薬へのアクセス向上につながることが期待されている。一方、現在の臨床試験は患者が実施医療機関へ来院し評価を受ける方法が主流であるため、実施医療機関が遠方の患者や疾患や身体機能の程度により定期的な来院に制限がある患者にとって、臨床試験への参加は困難である。このような課題に対して、実施医療機関に集約された臨床試験プロセスを分散化させて、患者が実施医療機関へ来院しなくても臨床試験に参加できる新しい臨床試験手法(分散化臨床試験、Decentralized Clinical Trial、以下DCT)が医薬品開発の有効な手段の一つとして、国内外で検討されている。

    日本製薬工業協会医薬品評価委員会臨床評価部会では、DCTの活用に向けた検討を行うためのタスクフォースを2019年度より立ち上げ、海外動向やDCTの手法を国内で実施する場合に想定される課題等を幅広く調査し検討してきた。タスクフォースでの検討結果は報告書として公開している。

    本発表ではこれまでタスクフォースで検討してきたDCTの考え方やDCTの各手法(オンライン診療・訪問看護・ウェアラブルデバイス・治験薬の患者への配送・eConsent・近隣医療機関との連携)の紹介と、国内で実際の臨床試験に導入する場合に想定される課題について製薬企業の立場から紹介する。個々の臨床試験へのDCT手法の導入は製薬企業だけで完結することではなく、依頼者となる製薬企業側が様々な関係者との協議や連携を行うことが必要不可欠である。日本で患者ニーズを本質的に捉えたDCTが臨床試験のひとつの選択肢として定着していくために、臨床試験に携わる全ての関係者と製薬企業で活発な議論や導入に向けた協働が期待される。本発表が今後の医薬品開発の促進並びに患者の臨床試験への参加機会向上に向けた発展的な議論のきっかけになれば幸いである。

  • 伊藤 久裕
    セッションID: 43_1-C-S11-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    コロナ禍によりオンライン診療の規制緩和が行われ、DCT(Decentralized Clinical Trials)の概念もここ数年で随分と浸透して来た印象がある。しかしながら、DCTエレメントを活用した臨床試験/治験は、まだ実際にはそれほど多く実施されていない。そもそもDCT自体が各種の要素技術を組み合わせて実施されるため、全てのプロセスがリモートで行われるとは限らず、一部にのみDCTエレメントを取り入れ、被験者の来院回数を減らすようなハイブリッド型DCTとして実施されている事例も多い。

     Oncology領域では、特に希少がんや希少フラクションに対する医薬品開発においては、治験実施機関が都市部に集中する一方で、患者は地域に依らず発生するためにDCT導入の親和性は非常に高い。実際、DCT導入によって患者にとっての治験へのアクセスが劇的に改善されるというメリットがあり、実施側にも被験者登録の大幅な迅速化、治験実施施設で求められていた倫理審査、モニタリング等がパートナー医療機関で不要になることによる手順の簡略化、それらの帰結としてのコスト削減といったメリットが存在する。こうした背景もあり、今年になって、がん専門病院においてフルリモートの医師主導治験が始まった。当院においても、同様のスキームの導入を行うべく検討を開始した。

     一方で実際の治験のDCT運用にあたっては超えるべきハードルも多い。eConsentの手順(本人確認、電子署名、説明補助動画の取扱等)、被験者への治験薬直送や併用薬の処方、パートナー医療機関の選定プロセスや業務分担・契約、CRCやリエゾン等のスタッフの適正な配置、費用徴収やオンライン診療等に関する院内調整、パートナー医療機関とのデータの授受方法、用いるべきDCTプラットフォームなどがその事例であり、法制面、オペレーション面、システム面等で、まだまだ解決しなければならない課題は多い。

     当日のシンポジウムでは、これら各種の課題について、解決の方向性について言及していきたい。また、合わせてシンポジウム参加者の方々から、DCTに関するご意見、ご要望の声を伺い、より良い発展のための機会としたい。

  • 眞島 喜幸, 大西 啓之, 西舘 澄人, 馬上 祐子
    セッションID: 43_1-C-S11-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    希少がんの患者数は、全がんの15%から20%を占めていると言われている。しかし、製薬企業にとり、個々の希少がんは、患者数が少ないために被験者を集めにくい、市場規模も小さく、経済的なインセンティブも十分でないなど、さまざまな要因から、薬剤開発が遅れてきた。しかし、ゲノム医療の到来とともに、メジャーながんと同じ遺伝子変異が希少がん患者にみつかれば、分子標的薬の使用になる可能性がでてきた。RCJでは患者会11団体に対してアンメットメディカルニーズ(UMN)調査を2018年に行った。そのとき、自分が参加できる治験があれば参加したいと回答した方が50%以上であった。いかに新薬の到来を心待ちにしている患者・家族が希少がんの領域では多いいかを知った。さらに、DCTの登場により、治験への参加を切望する希少がん患者にとり、治験がより身近なものとなる可能性もでてきた。これは朗報である。 また、希少がんの医療に関するさまざまな課題があることもUMN調査でわかった。希少がんを治療できる専門医が少ないこと、遠くまでいかないと希少がんの専門医による医療が受けられないことなど、これは大都市圏に住居を構えていない患者にとっては大変な負担になることが分った。RCJでは、患者の新薬への期待に応えるべく、希少がんの研究からTR、治験へのプロセスを支援するために国立がん研究センター中央病院で進むマスターキープロジェクト(MKP)と2018年に提携した。2018年当時のMKP研究の登録者数は250名程度であったが、我々が参加することでその後順調に進展し、現段階では2500症例を超えるところまできた。また、MKPの医師主導型治験は14本,企業治験は10本と合計24本の治験が行われるようになってきた。RCJではこれらの展開をさらに支援するために、希少がん患者の治験への参加を促すプロモーションを企画している。このようなPRを通して、希少がん患者とその家族が少しでも臨床試験・治験について知ることになればと期待している。 希少がん医療に関連するのさまざまな課題について述べてきたが、これからDCTが国内で進展することになれば、地方に住む希少がんの患者やご家族にとり、国内治験への参加がしやすい環境となること、さらに国際共同治験への参加も可能性が広がることなどが期待できる。RCJは希少がん患者会としてマルチステークホルダーとともにDCT活動に参加し、DCTの発展に貢献したい。

  • 瀬戸 宏格
    セッションID: 43_1-C-S11-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    PMDA信頼性保証部では、Decentralized Clinical Trial(以下「DCT」と言う)を実施する上での課題について、企業、医療機関、アカデミア等の各方面から助言を求められることがある。その中でも関心が高いeConsent(治験実施医療機関の担当医師等が、被験者となるべき者に対して、治験に関する必要な説明を行い、同意の取得を非対面・遠隔で実施するための適切な方法やデータの信頼性確保等)、治験薬の配送(治験依頼者から被験者宅への治験薬の直接配送に関する実施の可否等)、訪問看護(DCTにおいて必要となる被験者宅への訪問看護師を円滑に確保することを可能にするため、治験実施医療機関に所属する看護師以外の看護師の活用方法等)に関する相談を中心に事例等を紹介しながら、被験者の人権保護・安全確保、データの信頼性確保の観点から留意点等を解説する。

  • 鈴木 将平
    セッションID: 43_1-C-S12-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】常染色体潜性(劣性)遺伝病(Autosomal Recessive Disease: ARD)は、同じ遺伝子変異を持っている非発症保因者同士が子どもをもうけた場合、4分の1の確率で重篤な疾患を発症する。そのため1970年代以降、特に欧米を中心に、特定の地域や集団における特定の疾患を対象としたCarrier Screeningが行われてきた。2010年代以降は、遺伝学的検査の発達により対象となる疾患や集団が拡大したExpanded Carrier Screening(ECS)が実施ないし検討されている。日本でARD等を対象とした検査は「非発症保因者遺伝学的検査」と呼ばれているが、その歴史的文脈は大きく異なっている。

    【目的】本報告では、主に子どものARDの確率を知るために行われる検査を〈保因者検査〉としたうえで、(1)その国際的な動向、(2)日米の検査アプローチと歴史的背景、(3)先行研究で指摘されているECSの倫理的課題を整理する。そのうえで、生殖医療をめぐる意思決定への影響を検討する。

    【結果】(1)国際的には、アメリカ、オーストラリア、イスラエル、オランダ等で、ECSが検討・実施されている。(2)アメリカ等では、1970年代にユダヤ系コミュニティを通じた集団的な「先制方式」の検査が行われ、罹患児が減少してきた。一方、日本では、罹患児が出生した後に、両親を対象とした「遡及方式」の検査が行われてきた。(3)欧米では、検査の対象とする疾患や集団の範囲、専門家や市民の教育、実施をめぐるコスト等が議論されている。ECSが普及すると想定した場合には、通婚や生殖をめぐる選択の自由や可能性とともにさまざまな葛藤や不安ももたらしうることが考えられる。

    【結論】〈保因者検査〉はARD等に関する各国の歴史的・社会的状況によって、検査の対象となる集団や疾患の範囲、アプローチ、導入の段階が異なる。一方で、近年のECSは低リスクの一般人口を含めた幅広い疾患や「未知」の遺伝子変異を対象にできる点に特徴がある。そのため、誰もが持つとされる何らかの遺伝子変異や、子の潜在的な疾患のリスク、ひいては人の出生や家族形成に対する介入を、どこまで・どのように引き受けるかがすべての人に問われることとなる。

  • 高島 響子, 河村 裕樹, 荒川 玲子, 山本 圭一郎
    セッションID: 43_1-C-S12-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    AMED難治性疾患実用化研究事業では、「『希少性』『原因不明』『効果的な治療方法未確立』『生活面への長期にわたる支障』の4要件を満たす希少難治性疾患」を対象に、「病因・病態の解明、画期的な診断・治療・予防法の開発を推進することで、希少難治性疾患の克服」が目指されている。病因解明や診断・治療・予防法の開発は、疾患に苦しむ人々にとって大きな福利となる可能性がある。一方で、高額な治療費をめぐる医療政策上あるいは医療資源配分の問題をはじめ、医療上の進歩に伴い新たなELSI(倫理的・法的・社会的課題)も生じさせる。報告者らは、希少難治性疾患の医療・研究開発におけるELSIを様々なステークホルダーの立場から抽出する研究の一環として、希少難治性疾患の医療・福祉従事者や医学研究者(以下、専門家)に聞き取りを行った。その際、専門家といっても対象疾患や立場が幅広いこと、また、インタビュイー自身が必ずしも問題をELSIとして対象化できているとは限らないと考えられた。そこで本インタビューでは、希少難治性疾患の医療・研究開発における一般化可能なELSIを導くことよりも、一人ひとりの専門家が自身の活動の中で実際に感じている主観的な課題、さらには課題として認識するに至る前の「もやもや」を掘り下げることに重点を置き、そこからELSIの種を拾い上げることを目的とした。対象者は研究分担者を介しスノーボウルサンプリングで集め、なるべく多様な立場の専門家が含まれるよう心がけた。2021年8月~2022年1月に7件8名にインタビューを行った(非構造化面接、オンライン、口頭同意取得)。対象は、医学研究者2名、医師4名、福祉関係者1名、認定遺伝カウンセラー2名、倫理審査委員会委員1名、政府審議会経験者2名であった(重複あり)。インタビューからは、研究としての実施から臨床応用に至る過程の問題(研究対象者数の制限、研究後の治療費の問題、研究対象にならない疾患)、研究開発が進むことで必然的に増加する医療的ケア児への福祉・支援不足、研究助成政策上の課題、希少疾患とコモン・ディジーズの対比の意味、ゲノムリテラシーの重要性、高額治療薬と適応患者の選択、治療法がない疾患の遺伝カウンセリングの困難感、と多岐にわたる要素が挙げられた。一人ひとりの経験に根ざした語りの中から、希少難治性疾患の医療・研究開発の「克服」を考えるに当たって検討すべきELSIの種が見いだされた。

  • 渡部 沙織
    セッションID: 43_1-C-S12-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    各国の資金提供機関、医薬品開発企業、希少疾患患者コミュニティからなる国際希少疾患研究コンソーシアム(IRDiRC)は、ELSIワーキンググループを組織し、各国が取り組むべき希少疾患に関するELSI課題を整理している(Hartman et al.2020)。希少疾患の研究開発はありふれた疾患と比較してより複雑な倫理的・社会的な課題をはらんでおり、リスクやプライバシーについて繊細な配慮が必要であるとされている。本調査では、IRDiRCが整理した希少疾患のELSI課題リストを基に、日本国内のステークホルダーを対象として探索的なインタビュー調査を実施し、国内のELSI課題を抽出・分析する事を目的としている。

    【方法】

    2021年11月から2022年10月にかけて、日本におけるELSIに関する認識や概念を探るため、希少疾患研究のステークホルダー(患者団体、研究者、企業:N=9)を対象に半構造化インタビュー調査を実施した。音声記録をスクリプト化し、MAXQDAを用いてコーディング分析を行った。

    【結果】

    質的分析の結果、日本におけるELSIの希少疾患の課題に関して、いくつかの重要な分析軸が明らかになった。1つの側面は、希少疾患によって生じる困難が、患者と研究開発の関わりにおける倫理的な課題を強めている事である。また、希少疾患の治療機会の欠如や患者の社会的脆弱性は、患者や家族の極端な利他主義や臨床試験のリスクを過小評価する傾向とも関連している。これらの結果は、患者が臨床試験に治療効果を期待する傾向がある「研究と治療の誤解」に対処するために、希少疾患特有の配慮が更に考慮されるべきである事を示唆している。

    【結論】

    本研究を通じて、IEDiRCが整理した国際的な希少疾患のELSIの課題と、国内の課題を整理し比較検討した。国内における患者・家族の十全なPPI/E(患者市民参画)のための教育機会の不足や、患者・家族組織を財政的・運営的に援助する社会資源の限定性は、本邦において患者や家族を支援する倫理的なエコシステムを構築する必要性を示唆している。

    【文献】

    Hartman et al. ELSI in rare diseases. Eur J Hum Genet 28:174-81, 2020.

  • 中田 はる佳
    セッションID: 43_1-C-S12-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    【背景と目的】希少難治性疾患(RD (rare disease))を取り巻く課題として、研究開発の財源確保の難しさや、患者や家族の経済的負担などが指摘されている。それらを軽減するための経済的な手当てがなされているが、限りある資源を配分する正当化根拠が問題となる。そこで本調査では、RDと関連する資源配分について市民の意識を明らかにし、RD領域への経済的な手当てを許容する要素の検討を目的とした。

    【方法】調査会社の調査者パネルから抽出した20-69歳の日本居住者11,019名に対して、オンライン無記名自記式調査を実施した。調査項目は、RDに関連する言葉の認知度、RDのイメージ、医療費負担や研究開発費の支援に関する考え方などとした。調査期間は2022年1月下旬であった。

    【結果】回答者の9.9%が自身や身の周りの人がRDにかかった経験があった。「難病(指定難病)」「高額療養費制度」などは認知度が高かった(8~9割)。RDの特徴として、「病気の詳しい仕組みがわからない」「患者や家族の経済的負担が大きい」「治療法が少ない」「人生設計に影響を与えることが多い」などはイメージされやすく、「働き盛りの年齢に発症しやすい」「子どもに発症しやすい」「長く生きられない」「先天的な遺伝子の変化が原因である」などはイメージされづらかった。また、RDの患者数は、人口の0.01%程度と考える人が多かった(70.5%)。RDの治療薬の費用を公費で一部負担することについて、成人領域・小児領域とも6~7割が賛成し、主な理由は「患者や家族の経済的負担が大きい」ことであった。「長く生きられない」「先天的な遺伝子の変化が原因である」「働き盛りの年齢に発症しやすい」などは理由として挙げられづらかった。RDの新規治療法を国民皆保険制度の対象とすべきと考える人は65.7%で、主な理由は「患者や家族の経済的負担が大きいこと」であった一方、「先天的な遺伝子の変化が原因である」「長く生きられない」などは理由として挙げられづらかった。

    【結論】RD領域への資源配分を市民が考える際に、医療・研究で重視される疾患の疫学的特徴よりも、生活上の困難や経済的負担を重視することが示唆された。「患者数の少なさ」は、本調査回答者の意見形成において重視される要素ではなかった。RDの疫学的特徴や量的な基準など、専門家と市民の認識の乖離を少なくすることが、RD領域への経済的手当てを正当化する前提として必要である。

  • 富名腰 朝史, 石坂 真梨子
    セッションID: 43_1-C-S13-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    筆者は、沖縄本島より西に約50km、フェリーで片道2時間の人口約300人の島に勤務している総合診療医である。島唯一の医療機関である無床診療所に勤務し、島民の慢性疾患の定期通院から24時間体制の救急対応まで、幅広くプライマリケアを提供している。沖縄県には同様の離島診療所を有する離島が20近くあり、これらの離島に住む島民はその多くが、離島診療所をかかりつけとしている。各種検査や病状の悪化により島外へ受診もしくは搬送となることも少なくないが、かかりつけが集約されているという点において、フリーアクセスの日本においては珍しく、患者の内服や受診形態が一元化されており把握が容易である。この点を活かして、現在、離島を対象としたポリファーマシーの現状を把握する臨床研究を実施中である。今回は、離島におけるポリファーマシーの現状と課題を、臨床研究の結果も踏まえながら考察する。

  • 竹内 和彦
    セッションID: 43_1-C-S13-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    当院は、地域包括ケア病床・一般床・回復期リハビリ病床・医療療養型病床で構成される199床の病院で、訪問診療・訪問看護・訪問リハビリ・デイサービスなどの居宅系サービスも法人内で行っている。地域包括ケア病棟は、地域包括ケアシステムの一端を担う病棟として、1)高度急性期・急性期病院からの患者受け入れ、2)在宅医療において病状の悪化や介護者の急病などで在宅療養・介護の継続が困難となった患者の受け入れを行い、入院中に服薬状況をはじめADL・嚥下機能・介護環境などの評価を行いながら介護方針の調整を行っている。

     ポリファーマシーに対する減薬に関しては、単に多剤服用していることだけで減薬の動機付けになることは少なく、減薬の契機となるのは、1)食欲低下・傾眠・転倒・せん妄・徘徊・易怒性・不穏・消化管出血・貧血・血小板減少・電解質異常といった薬物有害事象の可能性やアドヒアランス不良が示唆された場合、2)施設入所の際に薬価の上限が定められている介護老人保健施設(=老健)や介護医療院への入所が求められている場合、3)患者のADLや予後が不良と判断された場合などである。

     このシンポジウムでは、高度急性期病院からの転院患者や在宅からの受け入れ患者において、地域包括ケア病棟で遭遇するポリファーマシーと減薬に関して事例を挙げながらその実態と傾向について述べる。

  • 木奈崎 昭男, 新里 敬, 島袋 朝太郎, 安座間 照子
    セッションID: 43_1-C-S13-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    当院は沖縄本島中部を診療圏として急性期医療を担う病院です。在籍する薬剤師数も30名を超え、委員会活動を主体としたチーム医療に取り組み、業務内容も多岐に渡っています。さて、ポリファーマシーは「多剤併用の中で害をなすもの」と定義されており、特に高齢者では加齢に伴う生理的変化、複数の併存疾患に対する治療薬の併用により、薬物有害事象を生じやすい状態となっている事から、薬物療法を適正化する事が望まれています。また2021年3月には厚生労働省から「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」の通知が発出されるなど、各医療機関において取り組みを開始する事が期待されている現状とも言えます。そんな中、当院のポリファーマシー解消に向けた取り組みは、2017年7月に、ある研修医の声掛けから動き出しました。当時の沖縄県内では、ポリファーマシー対策を実施している医療施設は少なく、前例の少ない取り組みとなりました。ポリファーマシーを解消するには、医師の協力が必要不可欠ですが、医師は日常的に業務負担が大きく、常用薬を見直す時間が不足している状況にあります。近年では、医師の業務負担軽減を目的としたタスクシフトも推進されています。そこで当院では、ポリファーマシー対策を薬剤師が担うべき職務と念頭に置き、対策における一連の流れを薬剤師が中心となり実施できる様に企画しました。ポリファーマシー対策開始までに様々な困難はありましたが、2019年2月より総合内科医師、(精神科医)、薬剤師を中心に構成した「薬剤調整チーム」を立ち上げ、ポリファーマシー対策の活動を行っています。今回は、当院での約2年間におけるポリファーマシー対策の取り組み結果と今後の課題について報告させて頂きたいと思います。

  • 原田 和博
    セッションID: 43_1-C-S13-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】高齢化、マルチモビディティ(複数疾患併存)状況が進む現在、適正処方の推進は重要な課題である。高齢化の進む地域市町村の中核的病院である当院におけるポリファーマシーの現状を、大腿骨骨折症例および腎不全患者にて調査した。

    【大腿骨骨折症例】大腿骨近位部骨折患者100名[年齢:86.0±6.9(平均±SD)歳、男/女:15/85名、BMI:20.2±3.4]で、服用薬剤(種類)数は平均6.1剤(6剤以上は54名)であった。合併症別では、統合失調症(3名)平均12.3剤、透析患者(7名)9.4剤、心不全・心房細動(16名)8.4剤、糖尿病(22名)8.3剤、パーキンソン病(7名)8剤などであった。中枢神経系薬(認知症治療薬を除く)は39名(ベンゾ系睡眠薬は18名)で、骨粗鬆症治療薬は21名で処方されていた。

    【保存期慢性腎不全症例】eGFRが30ml/min/1.72m2未満の患者166名[年齢78.8±11.0歳、男/女:85/81名、原疾患は腎硬化症73名(44.0%)、糖尿病58名(34.9%)、糸球体腎炎8名(4.8%)など]で、処方薬剤数は7.9±3.8剤[6剤以上は125名(75.3%)]であった。降圧薬は84.9%に処方され、以下胃腸系薬53.0%、尿酸低下薬50.0%、利尿薬48.2%などであり、糖尿病患者は非糖尿病より処方薬剤数は有意に多かった(9.6±3.3 vs 6.9±3.4)が、年齢における有意差はなかった。腎機能障害時に注意すべき薬剤は多く、本調査では特に問題となる処方はみられなかったものの、医師・薬剤師間のチーム医療の構築などの対策が重要である。

    【透析症例】血液透析患者203名[年齢68.8±11.6歳、男/女:118/75名]で、処方薬剤数は9.1±2.9剤(種類)[6剤以上は181名(89.2%)]で、総薬剤数は16.9±7.1剤であった。降圧薬、胃薬、リン吸着薬は8割以上の患者で処方され、薬剤数はリン吸着薬が約4割を占めた。処方薬の再検討では、約6割の患者で平均1.4種類、3.1剤の減量が可能と考えられた。服薬アドヒアランスは概ね良好だったが、外食時には約4割でリン吸着薬の服用忘れがあり、血清リン高値、リン吸着薬多数と関連した。

    【総括】マルチモビディティとポリファーマシーの関連が認められた。適正な処方のために、服薬アドヒアランス、認知症患者の服薬管理、シックデイの対応などの問題の含め、多職種のスタッフが丁寧に関わって解決していく必要があると思われる。

  • 大坪 徹也
    セッションID: 43_1-C-S14-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    大学病院の中核機能である診療、教育、研究の組織運営において、データの利活用は今や不可欠である。経験に基づく判断に代わって、あるいは付加的にデータを利用することより客観性を確保することで、持続的に合理的な意思決定を実現することが期待される。また、対外的に組織運営の透明化を図り、社会への説明責任を果たすためにも、体制や実績は測定され、公表されることがある。加えて、この取組み自体が組織の活性化を促進するといった副次的な効果も期待されている。こうした目的で測定し、データにより機能を評価する際、標準化された測定基準を設けて施設間ベンチマークを行うことは、自施設の中長期計画の評価および同じミッションを担う他施設との比較を通じた評価基準の設定を可能にする。このように、データを参照する手続きを組織運営プロセスに組み込むことへの意義が広く認識され、関心が高まっている。

     一方、評価に有用な測定とベンチマークを実施するにあたっては、さまざまな点に注意が必要である。特に、ベンチマークが役割を果たすためには、測定される機能に関わる専門家が測定の価値について合意することが重要である。測定による定量化の観点としては、何を測るか、いかに測るか、どのような側面を測るか、測定の前提はなにか、測定結果はいかに解釈しうるかなどが該当する。次に、ベンチマークにおける測定結果の共有方法についても合意形成が望ましい。施設名も含めた結果の共有は、測定対象に関連する因子を含めた解釈が可能となる利点があるが、非難や誹謗につながりかねないというリスクを伴う場合がある。また、測定結果の可視化は、効率的な評価の実施に有用である。多岐にわたる測定結果の評価に要する労力を軽減することは、迅速な意思決定の一助となりうる。ただし、ベンチマークにおける可視化のデザインにおいて、比較の適切性が担保されていなければ、評価を誤る恐れがある。

     当演題では、演者が全国の国立大学病院におけるベンチマークの実践を支援する中で得た知見について触れながら、パフォーマンス調査とその意義に関する概要を述べる。

  • 鳥羽 三佳代
    セッションID: 43_1-C-S14-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    医療技術の高度化や国民意識の変化により、医療安全や感染制御を含む医療の質を適正に評価し確保することが求められており、病院長をトップとしたガバナンス体制の構築および強化が医療に関する施策に盛り込まれています。大学病院は高度な医療の提供、高度な医療技術の開発及び医師、看護師、薬剤師をはじめとする医療従事者の育成など様々な役割を果たしています。東京医科歯科大学病院では、2015年4月にクオリティ・マネジメント・センター(QMC)を開設いたしました。QMCでは東京医科歯科大学病院の医療を可視化するi-Kashikaプロジェクトとして、組織運営の透明化や社会への説明責任を果たすため、その体制(ストラクチャー)や過程(プロセス)、成果(アウトカム)の可視化を進めているところです。具体的には、DPCデータ等の医療データを用いたに診療及び経営の質の可視化、Quality Indicatorの開発・計測、分析結果に基づいた医療の質改善活動の支援に取り組んでいます。また、国立大学附属病院医療安全管理協議会においても、指標を用いた可視化と取り組みが進められており、国立大学病院データベースセンターと共同した医療安全指標プロジェクトが開始され、2021年より各大学への指標計測結果のフィードバックが開始されています。本シンポジウムでは、東京医科歯科大学病院における医療の可視化の実際や、医療現場の行動変容のエビデンスとして活用していただきやすくなるような資料作成、周知の実際等にも触れつつ、国立大学病院の医療安全指標を活用の実際についてもご紹介します。

  • 笠井 宏委
    セッションID: 43_1-C-S14-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    国立大学病院の社会的使命は、我が国の医療の充実・発展に寄与することである。国立大学病院長会議では、あるべき将来像としてグランドデザインを策定し、行動規範となる提言を公表している。また、国立大学病院データベースセンターでは、年に1回、国立大学病院のパフォーマンス調査を実施しており、臨床研究も調査対象となっている。一方、臨床研究を取り巻く環境は、国際共同治験や医師主導治験の増加、医療法における臨床研究中核病院の認定開始、臨床研究法や人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針の施行等、大きく変化している。国立大学病院として時代に合わせた使命を果たすべく、臨床研究活動を維持・向上させることを目的に、現状のパフォーマンスを適切に評価することが重要である。

    そこで、国立大学病院の臨床研究パフォーマンスを適切に評価・分析しうる評価指標と調査項目を検討する必要がある。研究活動の評価指標を分類し、各評価指標の調査項目は、臨床研究に関連する活動を反映し、中長期的に経年評価するための項目と、臨床研究環境の変化に応じた新たな項目で構成することとした。

    パフォーマンス調査は、次の4つの評価指標と調査項目(括弧内)で構成し、新規調査項目として、臨床研究法を遵守して行う研究数、倫理審査の中央一括化に伴う審査研究数、臨床研究専門職の構成や、研究成果等を追加した。

    1.臨床研究の活性度(各臨床研究区分の研究数)

    2.国内の臨床研究の倫理性と透明性確保への貢献度(倫理審査を行う委員会における審査件数)

    3.研究支援体制の充実度(臨床研究の専門職スタッフ数と支援実績)

    4.医療への貢献度(実用化に結び付いた研究実績)

    国立大学病院長会議が策定する行動計画のもと、研究活動をパフォーマンス調査で適切に評価・分析することにより、改善策を講ずるPDCAサイクルをうまく回し、各大学病院および国立大学病院全体の研究の活性化とその成果が医療への貢献につなげることを目指す。現状を適切に評価分析するためには、回答者に調査の意図や調査項目の定義を明確に示し、理解を得る必要がある。調査の認知や調査結果の周知につながるための活動についても紹介する。

  • 森豊 隆志
    セッションID: 43_1-C-S14-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    国立大学病院臨床研究推進会議(以下、推進会議)は、全国国立大学病院42大学44病院で構成され、2012年10月に設立し2013年1月に第1回総会を開催した。同年6月には国立大学病院長会議(以下、病院長会議)の協議会として承認された。

     このような中、臨床研究における利益相反やデータ不正に係わる事件が相次いで報道され、アカデミアによる臨床研究に対する信頼を大きく揺るがす事態が生じた。その背景には、研究倫理だけでなく、信頼性確保と利益相反管理に関する基本的知識やルール、マナーの教育が不十分であったことや、支援組織の整備が不十分であったことがあると考えられた。各大学病院においては、これら一連の事件を当事者として深刻に受け止め、不正防止と信頼回復に向けて、教育、支援、監視・指導体制について至急点検し、対策を講じる必要があることから、2013年9月19日に病院長会議常置委員長と推進会議会長の連名で、「臨床研究の信頼性確保と利益相反の管理に対する緊急対策」が42国立大学に通知され、体制整備が促された。

     推進会議は、信頼性確保した支援、品質管理支援、利益相反の管理、教育・研修等の体制整備状況について、2013年~2016年の4カ年、フォローアップ調査を実施した。調査結果は毎年推進会議の総会時にフィードバックし、各大学の実施体制の改善、整備に役立てられ、年々レベルアップすることに繋がった。調査を実施しそれを活用することの意義が示されると共に、その後の臨床研究の活性化が期待されていた。

     しかしながら、2018年4月に臨床研究法が施行されてから後、臨床研究数は著しく低下し、また、新型コロナウイルス感染症に関連する臨床研究数は諸外国に水をあけられ、日本の科学研究の国際的地位低下が懸念される事態となっている。臨床研究の活性化に関する指標としては、国立大学病院データベースセンターが病院機能の向上を目的に実施しているパフォーマンスを評価するための指標調査(研究領域)を活用してきたが調査項目が十分ではなかった。2019年からは調査項目が見直され、研究パフォーマンスの評価指標として体系化された。本講演では、2019年から3年間の研究パフォーマンス調査の結果分析の実例を紹介すると共に、その活用について概説する。今後は、調査結果から課題を抽出し、効果的な改善策に繋げ、日本の臨床研究の活性化を図ることが期待されている。

  • 大曲 貴夫
    セッションID: 43_1-C-S15-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    COVID-19は新興感染症であり、出現当初は効果と安全性の示された治療薬がなかった。そこで各国で治療薬の探索のため数多くの臨床試験が行われた。そのなかで米国National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID)が行ったのがAdaptive COVID-19 Treatment Trial (ACTT)である。本試験はアダプティブデザインを用いたランダム化比較試験である。この枠組みを使い、まずはレムデシビルとプラセボとの比較試験が2020年2月21日より開始された。本試験には米国の医療機関のみならず欧州や東アジアの施設も参加した。日本からは国立国際医療研究センターが3月25日から参加した。患者の登録は速いスピードですすみ、同年4月29日には中間解析の結果が公表され、レムデシビルの有効性が示された。これを受けて日本ではレムデシビルが同年5月に特例承認を受けた。ACTTではACTT1-4の4つの研究が行われ、ほぼ1年の間にバリシチニブの有効性、バリシチニブとデキサメサゾンの同等性が示され、一方でインターフェロンβ1aの有効性は否定された。ACTTの枠組みは、有事に治療薬を迅速に発見することが可能であった。当日は本研究を例にCOVID-19のアダプティブデザインを用いた臨床試験について解説したい。

  • 大熊 ひとみ
    セッションID: 43_1-C-S15-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    ひとつの開発基盤を利用して効率よく後期臨床試験の開発を促進するための方法論が世界中で広まっており、マスタープロトコールと呼ばれる臨床試験デザインが注目を浴びている。特に、昨今のゲノム診療の推進に伴いがんの病態分類はさらに細分化され、希少がんや分子的希少フラクションを有するがん種では、より効率性を重視した臨床試験が求められる。並行して、リアルワールドデータの利活用も増えつつある。限られた対象への臨床試験、治験コストの削減、レジストリデータの利活用、蓄積された経験値とデータの次開発への利用、企業・患者会との連携、当局へのアプローチ法等、いずれも効率的な開発を目指すには欠かせない要素である。産官学の協同のもと、マスタープロトコールおよびレジストリの利活用が開発促進のカギとなる。本講演では複数の製薬企業が参加するMASTER KEY Projectを事例に国内アカデミア発プラットフォーム試験の実施状況について紹介する。レジストリデータベースを構築しながら、複数の医師主導治験もしくは企業治験を実施することにより希少がんの効率的な開発を目指している。

  • 山口 拓洋
    セッションID: 43_1-C-S15-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    近年、治療法開発の臨床研究や日常臨床において、患者に焦点をあてた評価に注目が集まってきている背景から、医療者によるアウトカム評価だけではなく患者自身による主観的評価、すなわち Patient Reported Outcome (PRO) の重要性が特に認識されてきている。研究者は、PROに特化した研究仮説とPRO評価の科学的背景と理論的根拠、および、特定のPROの目的または仮説を記述し、PROのエンドポイントが臨床研究等で果たすべき役割を定義し、当該環境におけるPROの選択、収集方法を検討し、適切な統計手法を計画し適用できるよう考慮する必要がある。

  • 大内 基司, 大庭 建三
    セッションID: 43_1-C-S16-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    近年、本邦では少子化とともに高齢化が進行して久しく、高齢者の健康の維持増進は重要な課題である。中でも糖尿病は罹患率が高い疾患であり、高齢者糖尿病の増加が指摘されている。最近の急増の主体は、人口の高齢化と生活習慣の欧米化による運動不足や肥満・内臓脂肪蓄積からくる軽症糖尿病であると言われている。加齢に伴う耐糖能の低下が影響するため、このような軽症の高齢発症例が多く存在する。一方、問題となるのは空腹時血糖値が明らかに高い、成人期発症の高齢者糖尿病である。俯瞰的に捉えると、医療の進歩に伴い高齢に至っているため、罹病年数が長くなっている。病状における影響は、身体的な状況のみならず、精神・心理的要因や社会的要因もきわめて多様であり、治療や管理には多くの配慮が要求される。特に認知機能低下を伴った罹病年数の長い高齢者糖尿病の血糖管理面だけでも、医療従事者側を悩ませることも多く、治療選択における難易度が増す。 内分泌・代謝系にあたる糖尿病治療薬は種類が豊富であり、作用機序ごとに分類されている。言い換えると選択肢が多く、高齢者糖尿病の病態生理を踏まえての処方が望まれる。糖尿病治療薬は血糖降下が主作用であるのは当然だが、高齢者で低血糖が起こりやすい。またその際の発汗、手のふるえ、動悸などの自・他覚症状に乏しいために発見が遅れやすく、重篤な事態を招くこともよく知られている。高齢者への薬物療法による厳格な血糖管理は生命予後を不良にし、転倒や認知症の発症につながる危険性が高い。高齢者糖尿病に対する前向き大規模臨床介入研究(J-EDIT)などの結果からは、糖尿病性合併症や老年症候群の発症抑制にはマイルドな血糖管理に血圧、脂質の管理を加えたトータルなケアが重要であることが示されている。高齢者糖尿病の血糖コントロール目標 (HbA1c値)が2016年に発表され、2021年3月には日本糖尿病学会と日本老年医学会の編集・執筆による『高齢者糖尿病治療ガイド』の改訂版が刊行された。記載されているように、高齢者総合機能評価やポリファーマシーにも配慮した糖尿病薬物療法が重要である。個々の症例の特徴と現状を十分把握すると同時に、高齢者特有の病態にも配慮し治療を行うことでQOL向上が期待される。本シンポジウムでは、上記を踏まえて薬剤選択の考え方などを含め、高齢者糖尿病の一端に触れられれば幸いである。

  • 原 広一郎, 大内 基司, 目澤 守人, 福尾 ゆかり, 秀野 武彦
    セッションID: 43_1-C-S16-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    精神疾患は糖尿病をもつ人にしばしば合併する。糖尿病患者の約3割はうつ症状を有し、約1割がうつ病と診断されている。また、統合失調症は糖尿病の合併が一般人口の2倍多い。精神疾患と糖尿病が合併すると、互いの疾患が双方向性に治療効果を妨げてしまうことがある。例えば糖尿病の治療自体がストレスになって精神症状の悪化をきたすと、自己管理が困難となって糖尿病が悪化するなど悪循環となりやすい。糖尿病の発症や進行に関連する因子として、精神疾患の症状、抗うつ薬や抗精神病薬など向精神薬の副作用(食欲亢進、寡動)、偏食・運動不足などの生活習慣、身体的ケアの不足や服薬管理の問題など、複数の対策すべきポイントが指摘されている。

    当院は精神科主体の病院であるが、内科および糖尿病外来を併設しており、精神疾患と糖尿病の併存例が少なくない。院内での検討では、精神疾患合併群(以下合併群)と非合併群を比較すると、糖尿病重症例の割合は合併群の方がやや多かったが、一方でHbA1cは両群で有意差を認めず、合併群にはHbA1c<6.0%のコントロール良好群も多く分布していた。合併群でも非合併群と同等、あるいはむしろ良好な治療効果が得られる場合がかなりあることがわかっている。

    精神疾患をもつ人の中には、治療内容の理解、自己管理、注射や自己血糖測定の手技習得に問題があったり、大量服薬による低血糖・自殺企図のリスクがあるケースも存在する。こういった場合、インスリンや、SU剤およびグリニドといった血糖非依存性インスリン分泌促進系薬剤の導入は困難となる。一方で、低血糖のリスクが少ないDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬は比較的使いやすい。特にGLP-1受容体作動薬はその食欲抑制効果が治療の大きな助けになり、注射の問題も、週一回の製剤であれば訪問看護やデイケア通所などの機会を利用して解決できるケースをよく経験する。

    精神科主治医から内科医へ病歴や薬歴、自己管理が困難な場合のキーパーソンの情報、自殺企図リスクの情報を十分伝え共有することと、医師に加えメディカルスタッフが患者や家族と協力して糖尿病の療養指導にあたることも治療効果の向上に極めて有効である。

    治療困難という先入観を持たず、精神疾患と糖尿病を併せ持つ人が治療を受けられる機会が充足していくことが望まれる。

  • 西村 理明
    セッションID: 43_1-C-S16-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    糖尿病治療の目的は、細小血管合併症のみならず心血管系合併症の発症・進展を阻止すること、健康な人とかわらない寿命とQOLの達成である。さらに、小児(若年者)の糖尿病においては、糖尿病のない児と変わらない精神的・肉体的発育が加わる。一方、妊婦の糖尿病においては、児の先天異常の予防、児の過剰発育の予防、児・母体双方における周産期合併症の予防が加わる。

    これらを達成するための血糖コントロール目標としてHbA1c7%未満を達成することが求められている。妊婦においては、HbA1c6-6.5%未満、空腹時血糖値95mg/dl未満、食後1時間血糖値140mg/dl未満、食後2時間血糖値120mg/dl未満と更に厳しい目標が設定されている。

    安全性の面から問題なく処方できる薬剤は、小児では、インスリン、メトホルミン、SU薬のグリメピリドのみ、妊婦ではインスリンのみ(海外ではメトホルミンを可とする国もあり)である。

    治療目標のゴールドスタンダード指標とされている、HbA1cは過去2-3ヶ月の平均血糖値の指標であり、血糖コントロール状況を容易に確認できるため、世界中で用いられている。しかしながら、HbA1cにより血糖変動を評価する事は不可能である。

    一方、糖尿病の薬物療法においては、低血糖をできる限り引き起こさないことが大切であるが、HbA1cからは低血糖の有無について把握し、評価することは、困難である。

    これらの解決策となるのが、24時間の血糖変動を測定できる持続血糖モニター(Continuous Glucose Monitoring : CGM)である。2010年より我が国においても保険診療にて使用可能となったが、2018年12月より保険適用となったリアルタイムCGM機器は、直近に測定した血糖値を常に確認できるため、患者自身による自己管理において極めて強力なツールとなる。

    さらに、低血糖や高血糖を予測して、インスリン注入を自動で増量したり停止したりするインスリンポンプが2022年から適応を満たす症例において、使用可能となり、低血糖を起こさず、血糖変動を狭めつつ、良好なHbA1cを達成できる症例も増加してきた。

    小児および妊婦における薬物療法をいかに安全に行うべきか、以上の機器の知見を含め、HbA1c値の低下のみを目的とした治療ではなく、血糖変動の正常化をもたらす治療の現状と課題について述べたい。

  • 柳下 薫寛
    セッションID: 43_1-C-S17-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    患者腫瘍移植モデル(PDXモデル)は、患者腫瘍における腫瘍不均一性や構造を維持した、創薬開発研究に有用な新しい担がんマウスモデルである。国立がん研究センターでは本邦における創薬開発の加速と、患者へ迅速に適切な抗がん薬を届けることを目指し、日本人がん患者由来PDXライブラリー(J-PDXライブラリー)プロジェクトを2018年より開始している。PDXモデルはバイオリソースの一つであるが、細胞株や凍結腫瘍検体などの他のバイオリソースと異なり、患者情報がひもづく、繰り返し利用が可能であることという特徴がある。しかし、PDXモデルの利活用にあたっての倫理的・法的・社会的課題は未だ整理されていないのが現状である。今後の創薬開発研究でさらに重要性が高まると期待されるPDXモデルにおいて、このような課題を整理することは喫緊の課題である。J-PDXライブラリーにおける創薬開発研究での利活用の現状と、今後の展望について概説する。

  • 井上 悠輔
    セッションID: 43_1-C-S17-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    ヒト組織をめぐる生命倫理の検討として、同意の取得や提供者の匿名性と並び、営利活動の制限は代表的な原則の一つとされる。例えば、フランスの1994年の人体尊重法や欧州評議会「生命科学と人権条約」では、人体部分は市場価値とは距離を置いて位置付けられるよう、規定されている(その他、人組織や細胞を取り扱う多くの国際的な文書において、この原則には言及がある)。

    一方、この原則については、示されている規範と実態とに大きな乖離が生じていることも指摘されてきた。こうした認識の乖離や混乱には、人体組織をめぐる活動が可視化されてこなかったとする従来の指摘に加え、議論の意義やそのスコープが曖昧であり続けてきた点にも問題点があると考える。一つは、これらの議論が当初想定していた活動と今日展開している状況とが合っていない可能性である。身体部分の提供の無償性の中でも、移植目的での臓器や組織の提供は、国際的に最もコンセンサスがあるテーマであるといえる(例えばWHOの文書、欧州評議会臓器不正交易禁止条約)。こうした活動においては、提供された臓器や組織の利用目的は提供の段階で明確であり、提供する者とそれを用いる者との関係もシンプルである。一方、研究開発の文脈では、提供者と利用者との関係は相当に複雑になりうるうえ、付加価値の問題を考える必要がある。第二に、原則と個別の段階において許される範囲との関係の不透明さの問題である。そもそも「有償」「無償」とは何を指すのか。

    本発表では、これらの原則をめぐる基本的な確認の後、日本の現時点の規制状況を確認し、その課題を整理することとする。

  • 松井 健志
    セッションID: 43_1-C-S17-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    手術検体であれ、血液試料であれ、従来の研究倫理学が倫理的課題の検討対象としてきた人に由来する試料(人試料)は、当該試料の由来元である個人の身体から単離された、しかし、それ自体として独立に存在する試料であることが暗黙の前提であった。この場合の倫理的議論の焦点は、当該試料の由来元である「個人」の尊厳や権利との直接的なつながりが見出され得るような何か「特別な(倫理的価値を伴う)試料」であるのか、それとも、ただの「モノ」に過ぎないだけの試料であるのか、という一点をめぐって展開されてきたということができるだろう。

    一方で、科学技術の発展に伴って、動物と人の遺伝子、人の細胞、人の組織あるいは人の臓器とが融合した、新たな形の「人」試料が近年出現するようになっている。その極端な例としてはヒト-動物/動物-ヒトキメラであろう。こうしたヒトと動物が混然一体化したキメラに対する倫理的懸念には、人と動物の境界が曖昧化すること、人の尊厳が侵されること、自然の摂理に反することなどがこれまでも挙げられてきた。しかし、PDX(patient-derived xenograft:患者腫瘍組織移植)モデルの場合には、免疫不全マウス等に患者から摘出された腫瘍片を移植し、当該マウス等をキャリアとして、患者腫瘍を維持・継代していくことを目的としている。そのため、PDXモデルでは、患者腫瘍とキャリア動物とは一体化しつつも、両者は分離可能であることから、キメラに対して見られる倫理的懸念の多くは、一見したところ回避可能であるように思われる。他方、PDXモデルならではの倫理的課題の有無については、研究倫理学においてこれまで検討されてきていない。また、従来の人試料との倫理的違いの有無についても未検討である。そのため、本発表では、新たな「人」試料の一つであるPDXモデルにおける倫理的課題について考えてみたい。

  • 寺尾 公男
    セッションID: 43_1-C-S17-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    患者にとって,投与の簡便な経口剤は最も望まれるものである。Exposure-Concentration-Responseに則って臨床優位性を考えるのであれば消化管吸収を適切に評価することは薬物動態に携わる者として重要なポイントである。消化管吸収研究に用いられる実験手法も多くの手法が開発実装されている。消化管吸収の評価において最初に評価されるべきは腸管の透過性である。バイオバンクは一般には血液、腫瘍組織の保管がなされ、言い換えれば資料の収集、バンキングが容易な生体試料であることが多い。疫学調査や患者選択のためのバイオマーカー探索などバイオバンクの恩恵を受けられる一方で、採取方法・前処理法などに拘りのある試験を行う際には通常の倍バンクでは困難が生じる。そこで我々は「オンデマンド型バイオバンク」を利用してヒト正常小腸オルガノイドを樹立した。ヒト小腸オルガノイドの樹立には組織摘出から短時間での前処理開始とともに高い技術レベルが求められる。オルガノイド樹立成功率は大腸、小腸でそれぞれ100および50%であった。樹立された細胞株を用いた試験系では盃細胞の存在、ムチン層の確認ならびに細胞間バリア機能とともに小腸細胞の極性が維持されていた。さらに薬剤の膜透過性を評価するうえで重要なトランスポータおよび薬物代謝酵素の機能評価を実施し、試験系として使用可能であると考えられる結果が得られた。新モダリティーといったこれまでの経験則では予測性に課題を有する化合物に対する新規の評価系の意義と、ヒト予測の精緻化におけるin silico技術について紹介を行う。

  • Chunze Li , Mindy Magee , Islam Younis , Lee Nagao
    セッションID: 43_2-C-S18-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    The International Consortium for Innovation and Quality in Pharmaceutical Development (the "IQ Consortium") is a not-for-profit organization of pharmaceutical and biotechnology companies with the mission of advancing science and technology to augment the capability of member companies to develop transformational solutions that benefit patients, regulators and the broader R&D community. The Consortium consists of several leadership groups that initiate workstreams addressing key areas of pharmaceutical development. The IQ Clinical Pharmacology Leadership Group (the "CPLG") is one of these groups. Over the years, the CPLG has initiated efforts addressing critical aspects of innovative clinical study design, MABEL, QTc, digital biomarkers, QSP, MIDD, and others. Through its working groups, the CPLG collaborates with other leadership groups within IQ, as well as other industry organizations and regulatory agencies. The CPLG and its working groups regularly present their findings to regional regulatory agencies. This presentation will provide background on IQ and the CPLG, and information on current and emerging consortium and CPLG activities.

  • Mohamed-Eslam Mohamed , Tong Zhu , Sandhya Girish , Ute Burkhard , Sra ...
    セッションID: 43_2-C-S18-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    The International Consortium for Innovation and Quality in Pharmaceutical Development (IQ Consortium) encompasses over 35 member companies and 80 scientifically driven working groups The IQ COVID19 Working Group has conducted two surveys aiming to gather IQ member companies' experience with the impact of the COVID19 pandemic on the different aspects related to clinical trials conduct and design The two surveys collected data through July 2020 for Survey 1 and November 2021 for Survey 2 A total of 69 and 47 clinical trials were included in Surveys 1 and 2, respectively In Survey 1, 44% of trials were Phase 1 and approximately 50% were Phase 2 or 3 trials, with 45% of trials evaluating small molecules and 39% evaluating biologics In Survey 2, 57% of trials were Phase 1/clinical pharmacology trials and approximately 40% were patient trials (Phase 1b, 2, or 3), with 61% of trials being for small molecules and 35% for biologics Both surveys had representation from trials conducted in different geographic regions including North America, Europe, and Asia In Survey 1, the extent of missed doses or missed pharmacokinetic (PK) or pharmacodynamic (PD) samples in clinical trials due to the pandemic was small (≤ 10%) for most trials The top reasons in Survey 1 for missing doses or PK/PD data were the lack of access to clinic and patients deciding to skip visit due to the pandemic In Survey 2, while ~ 90% of Phase 1 trials started on time, the majority of responders (~70%) reported that it took longer time to complete the trial compared to prior to the pandemic Approximately 40% of clinical trials were reported to have reduced the number of study visits due to the pandemic The extent of missing doses or missing PK/PD samples was reported to be small in Survey 2, which is consistent with Survey 1 Key mitigation strategies which were implemented to minimize the extent of missing doses or samples were conducting remote study visits via telemedicine, use of local laboratories, allowing wider sampling window, at home sampling, or patient drive-through for sample collections Responders to Survey 2 indicated that future trials may implement patient-centric sampling, mostly through a mobile nurse collecting at-home samples

  • 武藤 智恵子
    セッションID: 43_2-C-S18-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    The original survey in US (August 2020) on the impact of COVID-19 pandemic on clinical trials from clinical pharmacology perspective was sponsored by COVID-19 Working Group under the Clinical Pharmacology Leadership Group (CPLG) of IQ consortium. It collected data up to July 2020, approximately 4 months into the pandemic. The current survey was sponsored by IQ CPLG Japan Subteam in July 2021, focusing to collect data of companies' experiences on changing timeline/study design/development strategy due to COVID-19 pandemic, which were specific in Japan. Since most of the late-stage clinical trials are global multi regional studies and covered by the original survey, our survey was limited to Phase 1 (clinical pharmacology), single center trials including Japanese subjects or patients. The survey questions were designed at trial level and composed of 10 quantitative questions and one case study. The survey results show that 1) most of the trials have been conducted in Japan; 2) changes were required in study design, e.g. prolonged admission period, COVID-19 PCR test; 3) remote Source Data Verifications (SDVs) were introduced, 4) limited site selection, e.g. reduced capacity and available regions. The overall impact on the study timeline and site selection were limited although some posted significant challenges prior to and during the trials. Companies have proactively addressed anticipated risk before protocol finalization and avoided significant impact on studies overall.

  • Anderson Melanie
    セッションID: 43_2-C-S18-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    Patient centric sampling (PCS) involves sampling with smaller volumes, less intrusive collection, and decreased pain. Additionally, many of these technologies can enable remote sample collection. Patient centric sampling can decrease patient burden and increase trial efficiency with additional sampling time points. This data can be critical to establishing pharmacokinetic-pharmacodynamic relationships in drug development. Although there are many examples of successful implementation in clinical research, widespread PCS adoption has been limited due to risk aversion within the industry, lack of investment and concerns around sample quality. However during the COVID-19 travel restrictions, adoption of new approaches became more mainstream. Several patient-centric sampling approaches were employed for COVID-19 testing including at home testing and drive-through testing sites. There was a clear need to collect samples remotely. This spurred investment in new technology. In clinical research, the industry shifted to mobile phlebotomy and remote sample collection to ensure clinical trials could continue. Within the IQ group, there were several case studies of Sponsors employing patient centric sampling to support clinical trials and enable the development of new COVID-19 therapeutics. This illustrates that these approaches are mature and can be successfully implemented. Clinical researchers should consider when PCS is appropriate to decrease patient burden and to capture critical data points that may not coincide with scheduled clinical site visits.

  • 松山 琴音
    セッションID: 43_2-C-S19-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    ICHの活動が開始されてから20年以上が経過し、E8ガイドラインを皮切りとして、E6ガイドラインであるGCPも大幅な見直しがなされている。E8R1ガイドラインにおいてはCritical to Qualityの観点から被験者保護とデータの信頼性確保を志向するQuality by design(QbD)による計画・質の確保と、実施可能性を考慮したリスクに基づくアプローチ(RBA)の実践が求められている。昨今の治験あるいは臨床研究は非常に複雑化、多様化している。本来、目指すゴールによって求められる品質は異なっており、どのようにして目指すべき品質と試験の実施をバランスするか、そして どのように質を確保するプロセスを組み込むかは大きな課題であるが、その方法論やプロセスアプローチに関して、治験依頼者とCRO、医療機関での対応は三者三様であり、試験マネジメントにおける質の確保は、昨今大きな課題である。本来、1試験を通して品質目標やゴールは共通していなければならないが、あるプロセスでは1つのミスもなく実施することを求められたり、本来重視するべきポイントがCROや医療機関に伝わらないなど、計画と実務での壁があったり、対話があまりなされてきていないなどの課題がある。そこで本講演では、E8R1時代の臨床試験の質確保については何がどう変わるのかを中心として、特にQuality by Designによる質の組み込みとプロセスのあり方についてを概観し、依頼者、CRO、医療機関において、果たすべき役割や協働に向けて必要な要素を検討する。

  • 浅野 健人, 松山 琴音, 大塚 俊昭, 菅野 仁士, 神山 直也, 筒泉 直樹, 広田 沙織, 岡崎 愛, 上村 尚人
    セッションID: 43_2-C-S19-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】良質かつ責任ある臨床研究を計画し、実施することは重要であり、限られたリソースの中で医学の発展に資する臨床研究への効果的なブラッシュアップが必要である。限られたリソースで臨床研究を効率的に実施するためには、臨床研究の計画時点より当該研究の社会的なベネフィットを最大化するための質を維持することが必要であるものの、質に注目した支援プロセスはまだ確立されているといえない。そこで、令和4年にAMEDで採択された「Quality by Designを用いた研究計画立案及び実装を可能とする研究支援体制の構築」研究班(松山班)では、Clinical Questionに即した研究に求められるプロセスとQuality by Design(QbD)による質の組み込みを行うための支援プロセスの確立を目指す。

    【方法】QbDによる研究計画立案及び実装が可能となる業務プロセスを構築し、研究支援体制の構築に必要な各種専門職種の関与が明確にされた業務フローを作成し、QbDによる研究実施計画書の作成を実施する。また多くの支援拠点では研究に利活用可能なリソースが限定されるため、研究支援に関する実態及びニーズのアンケート調査を行う。アンケート調査の作成においては、知識・環境整備(ツール・トレーニング)・実装に向けた対話という観点から情報収集を行うこととなっている。上記の調査に基づき、研究者への教育支援を実施するための教育及び研究支援ツールを作成する。

    【結果・考察】本研究班では上記実現を目指し、以下に示す4つの課題に基づく検討を実施した。

    1.先行研究調査及び研究支援に関するニーズアンケート調査

    2.研究計画書立案支援フロー及び手順の作成

    3.具体的な研究課題に対するQbDに基づく研究計画書の作成

    4.臨床研究の質確保に向けた教育トレーニングツール作成

    本発表では、本研究班の取り組み、アンケート調査への取り組みなどを中心に報告する。

    【結論】本研究班の議論においても、リソースが限られた研究での適切なQbDによる支援プロセスが確立すれば、いち早くE8R1ガイドラインに即した研究の実施環境の整備に役立つものと考えられると整理された。本研究班では品質に基づくプロセスマネジメントを志向しており、実行可能な医療機関が増加することで、我が国における臨床研究の質の改善にも大きく貢献するものと確信する。

  • 實 雅昭
    セッションID: 43_2-C-S19-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    ICH E6(R2)では、臨床試験の従来の品質管理及び品質保証を包括する「品質マネジメント」の概念が明確にされ、Sponsorの責務として「臨床試験の全ての過程」において品質をマネジメントするためのシステム(Quality Management System、QMS)の構築と、QMSにはRisk based Approach(RBA)を取り入れることが奨励された。この取り組みは臨床試験の全ての過程が適用範囲となるため、SponsorによるQMSの構築だけで質を確保することは困難であり、データの起点となる医療機関と一体となり質を作り込むことが重要となる。

    またICH E8(R1)(Step4)では、臨床試験の質を試験計画及び実施手順の中に設計することで質の積極的な向上を目指すQuality by Design(QbD)の考え方が示された。これは質の管理技術を置き換える考え方ではなく、計画及び手順で質が管理されることを前提とした考え方となる。つまりSponsorがQbDに取り組むためには、ICH E6(R2)で求められているQMSの構築が前提となり、Sponsorと医療機関を始めとする全てのステークホルダーの協力が重要となる。

    日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会では、QbDとRisk proportionate Approach(RPA)の考え方に基づき、一貫した質のマネジメントを実装するための方策を継続して検討している。

    2021年8月に「今日から始める!医療機関で行うプロセス管理」をwebsiteに公開した。医療機関がプロセス管理を行う上での望ましい姿をRisk ManagementとIssue Managementからなる"9つのステップ"を方法論として提案し、治験依頼者の果たすべき役割についても提言した。

    2022年x月には、医療機関のプロセス管理を考慮したモニタリングに対する行動変容を促す目的で、RBAのモニタリング(RBM)を行う際にプロセスに焦点を当てる考え方を検討し、臨床評価部会内で公開した。

    2022年度は医療機関によるプロセス管理とSponsor によるQMS・RBMがQbDとRPAの考え方に基づき一貫して行われることを目的とし、実施計画の設計段階でどのようにQbD・RPAに取り組むことができるのか、特に実施可能性の観点で検討している。

    今後は ICH E8(R1)(Step4)で述べられている、患者・市民、医療機関などのステークホルダーを巻き込んだ実施計画の設計や、Sponsor、医療機関の協働により、臨床試験の目的に適したデータの質を確保できる、国際競争力の高い臨床試験実施環境の構築を実現させたいと考えている。

  • 藤原 亮, 小澤 萌枝, 平和 伸仁
    セッションID: 43_2-C-S20-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    高血圧治療ガイドライン2019によると、3種類以上の降圧薬を用いても血圧がコントロールできない治療抵抗性高血圧は10-15%にも達するとされる。高血圧症は脳心血管病の最大の危険因子であることから、目標血圧の達成は喫緊の課題である。近年の遺伝子解析技術の進歩により、網羅的疾患感受性遺伝子解析(GWAS)が可能となり、高血圧の分野でも2009年頃から本格的に開始された。その結果、現在までに1000を超える高血圧関連遺伝子座位が発見されている。しかし、高血圧関連遺伝子座位から責任遺伝子を同定し、モデル動物実験を通して血圧が上昇することを示した報告は少なく、十分な検証ができているとは言い難い。

     我々の研究グループは他大学とのGWASの共同研究により、高血圧感受性遺伝子としてLPIN1遺伝子、ATP2B1遺伝子を同定・報告してきた。LPIN1遺伝子ではその全身ノックアウトマウスであるfldマウスを用いた実験において、テイルカフ法およびラジオテレメトリー法を用いた血圧測定で、収縮期血圧と脈拍・心拍数が24時間持続して上昇し、日内変動が消失していることを明らかにした。さらにfldマウスでは尿中アドレナリンやノルアドレナリンの排泄量が増加しており、クロニジン(中枢性交感神経抑制薬)に対する降圧反応がその他の降圧薬に比べ増強されていた。以上より、LPIN1遺伝子のノックアウトマウスは高血圧を呈しそのメカニズムとして交感神経系の活性亢進の関与が推測された。我々はLPIN1遺伝子が血圧調節に重要な役割を果たし、本態性高血圧症の新たな標的遺伝子の一つとなり、高血圧の機序解明や創薬の可能性を示唆するものであると考えている。これまでの研究成果や遺伝子解析技術の今後の可能性について報告する。

  • 茂木 正樹
    セッションID: 43_2-C-S20-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    会議録・要旨集 フリー

    高血圧症は、効果的な治療薬が多く満足な治療が実施できると考えられ、アンメット・メディカルニーズの低い生活習慣病とされる。しかし、成因は単純ではなく、交感神経・腎尿細管のナトリウム吸収・血管収縮・血圧調節ホルモンなど、様々な生理学的要因が関与していることから、多くの種類の高血圧治療薬が創出され、長期の定期的な服用を確実にするために、剤型改良が進められてきた。しかし、高血圧治療を受けている患者の至適血圧への管理率は50%に満たず、決して満足の行く治療実態にはなっていない。その理由として、クリニカルイナーシャなども唱えられているが、まだまだ高血圧の成因や治療ターゲットに未解明な部分が多くあり、より根本的かつ効果的な治療薬の開発が必要で、今もなお高血圧の基礎研究が進められている。日本では高血圧自然発症ラット(spontaneously hypertensive rat, SHR)が確立され、またレニン・アンジオテンシン系の研究などにおいて世界をリードする高血圧研究が進められてきた。マウスやラットなどの動物を用いたin vivo研究、臓器の細胞を用いたin vitro研究を実際の高血圧の臨床に役立つために特に秘策があるわけではなく、地道な検討が必要なのは言うまでもないが、実際にヒトでの効果に結び付けるために問題点や克服すべきことも多い。薬剤の濃度や動物種による感受性や代謝の問題など、基礎研究を通した薬物開発の問題点や、加齢による臓器変化を基礎研究で疑似的に映し出すための工夫など、高血圧の基礎研究を臨床に生かすための具体策について、本セッションで様々な角度から検討したいと考える。

feedback
Top