日本では、1960年代末に乗合バスの輸送量がピークを迎え、その後は右肩下がりの状態となった。乗合バス事業は、地域独占が認められる代わりに内部補助で赤字路線を埋め合わせる仕組みのもとで運営されてきた。1970年以降、乗合バスは利益の出る事業分野ではなくなっていた。バス事業者は1980年代から、生き残り方策として、分社化政策を採るようになった。すなわち、鉄道会社直営のバス事業が分離されたり、大手バス事業者が不採算の地域ごとに分割した会社を設立したりする動きが始まった。乗合バスの分社は、地域路線移管の受け皿としてエリアごとに行われ150社を超えた。
本稿では、分社会社に直接インタビューやアンケートを行い、分社化の意義と限界について安全管理の側面を重視しながら考察を試みた。分社時点では事業者に安全性向上を図るという視点はほとんどなかった。分社化は、人件費削減により経営改善効果はあったが、労働条件等の改善によってそのメリットは薄れてきた。分社化により、安全性が損なわれるおそれがあったものの、分社会社の安全管理体制が維持できた背景には、2006年に導入された運輸安全マネジメント制度の影響および分社会社における組織のコンパクト化や現場の対応力向上があったものと考えられる。
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