1990年8月に神戸で開催された「世界閉鎖性海域環境保全会議」のプログラムが示すように, 人口が集中する閉鎖性海域の環境を保全し, 津波や高潮の被害あるいは気候温暖化に伴う海水準の上昇がもたらす被害などから沿岸住民を保護することは, 国際的に緊急の課題となっている.
大阪湾は典型的な閉鎖性海域であり, 歴史的に津波や高潮の被害を受けてきた. 現在では, 大阪市をはじめとする大都市が連なり, ますます沿岸人口は増加しつつあり, 海洋への汚染物質の放出量も増大する一方である. こうした海域で, 海洋環境改善と沿岸防災にまつわる基礎研究を実施することは, その結果を直ちに他海域に適用できる点で, 世界的にも重要な意味をもつ.
従来わが国では, 沖合の海底地質は地質学者によって, 海流や潮流などの水力学的研究は地球物理学者によって研究されてきたが, 沿岸の堆積学的問題や水力学的問題はもっぱら土木工学者によって扱われてきた. しかし, 海洋環境は一つの複合的システムとして存在しており, 一分野からのアプローチだけではその動態を充分に把握することは難しい. 上記のような課題を追求するには学際的なアプローチが必要で, 実際, オランダやアメリカ, ニュージーランドなどの諸外国では, 異分野の研究者が参加する学際的総合研究が主流となっている.
そうした経験からもたらされた学際的海洋環境研究の基本的枠組と手順は以下のようなものである. (1) 公表された研究成果のレビューと既存資料の統合, (2) 水深, 海底地形の進化, 並びにそれらの変化, (3) 底質の堆積相, 堆積物輸送経路及び堆積収支の決定, (4) ウォータコラムの温度, 塩分濃度などの研究, 並びに堆積物の地球化学と生物毒性の研究, (5) 湾口の水力, 潮汐, 海流及び波浪気象の測定, (6) 海流の水力学に関する数理モデルの作成, (7) 水質及び汚染拡散に関する数理モデルの作成, (8) 津波や高潮などの破壊的事件, 及びそうした出来事が水力学, 汚染, 堆積物に与える影響に関する数理モデルの作成, (9) フィールドデータと実験データに基づくこうした数理モデルの有効性に関するレビュー. すなわち, モデルが「現実」とどの程度適合するかの確認.
本論では, こうした枠組をもつ学際的総合研究を大阪湾の環境問題について実施することを提案する.
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