競技において, 選手のモチベーションを高める・実力発揮を促すために声がけは極めて有効である. 実際に競技場面では声がけは多く使われており, これまで様々な研究結果が報告されている(笹塲, 2018).
他者からの声がけでは, 競技中のプレーを意味するパフォーマンスがうまくいっていない場合に肯定的な声がけをすることで, その次の行動をうまく遂行することを促すと言われている(石橋ほか, 2013). また, 肯定的なセルフトークは, 否定的なものよりも本来の実力を発揮することを促すため, どんな状況でも肯定的なセルフトークは実力発揮に繋がる可能性が高いことを明らかにしている(石橋ほか, 2013). 一方で, 否定的なセルフトークはパフォーマンスを妨げることもわかっている(安田・高根, 2013). さらに, 否定的な他者からの声がけについても, 指導者にとっては選手にやる気を起こさせるための意図的な声がけであったとしても, ネガティブな声がけはパフォーマンス向上を妨げるだけでなく選手のモチベーション低下にも影響していた(矢澤, 2017). しかし興味深い研究結果として, 否定的な声がけがパフォーマンスに良い影響を与える場合もあると言われている(荻原, 2012). 声がけの影響は, 受け取る選手自身の状況によってもその影響に違いが出るとも考えられるため(橋下ら, 1987), スポーツ競技における選手同士・選手と指導者は普段から密接なコミュニケーションを取り, 対象者の特性に適した声がけを行うことが必要である(堀川ほか, 2016).
本研究では, 大学体育会に所属する競技者・世界レベルの競技者を対象に, 特に練習などいつも通りの状況下では実力があるのに試合になると本来の力が発揮できない実力不発揮状態時の声がけの影響に着目し, 選手の特性を踏まえたパフォーマンスの改善に有効な声がけを明らかにすることを目的とした.
本研究により, 競技場面において選手が実力不発揮状態に陥った時の改善に有効な声がけは, セルフトーク・他者からの声がけの両側面において「ミスを認め次の行動に焦点を当てた建設的なもの」であることが明らかとなった. くわえて, 実力不発揮状態を悪化させるようなセルフトーク・他者からの声がけは「叱責したり残念がったりするミスに執着したもの」であることも明らかとなった. 声がけの効果は, 受けとる側の状態によっても意味合いが変わりうることから, 選手の指導者やチームメイトはそれぞれの選手の特性を把握し, さまざまな競技場面で起こりうる実力不発揮状態の改善に有効な声がけを理解しておく必要があると考えられた.
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