マツダ技報
Online ISSN : 2186-3490
Print ISSN : 0288-0601
39 巻
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巻頭言
特集:MAZDA CX-60
  • 和田 宜之, 柴田 浩平, 松井 央, 後藤 昌志
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 3-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    CX-60は,マツダ独自のアプローチにこだわって進化させたミッドサイズのSUVである。現代のクルマに求められる高い安全性能と環境性能を兼ね備えながら,どんな道でも心昂ることができる走行性能に,マツダデザインとクラフツマンシップの上質さをまとわせた。マツダが目指す「走る歓び」の中核にある“自分で運転する愉しさ”に徹底的にこだわり,飛躍的に進化させた,CX-60の商品コンセプトや特徴を紹介する。

  • 玉谷 聡
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 7-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは,ブランドを次なるステージへ躍進させるべく「意のままに走る歓び」と「地球環境を守る責任」を,より高い次元で両立させるラージ商品群を投入する。機能的な理想を追求する中で,縦置きパワートレイン,後輪駆動ベースのレイアウトを採用し,結果としてその外観にはロングノーズ,ショートデッキの骨格バランスが生まれた。そのバランスは魂動デザインの真髄である疾走する生命体の,後ろ足に荷重をかけて地面を蹴り,前に跳躍する生命感ある全身の動きの表現とも合致する。ラージ商品群の第一弾となるCX-60は,その構造的なバランスを,積極的にデザインの骨格や空間構成に取り込み,造形における生命感とともに走りのポテンシャルの高さとして表現した。そしてその骨格や空間構成の上に,深化した魂動デザインによる日本の美意識「引き算の美学」を,一筋の強い動きである「反り」,余計な要素を削ぎ落した「余白」,光と影のゆらめきを映し込む「移ろい」の3つの造形要素で織り込んだ。

    CX-60のデザイン・コンセプトは『Noble Toughness』 (ノーブル・タフネス)。これはミドルクラスSUVがもつべき,一目見て感じる車格の高さや骨格の強さと,魂動デザインの知性,エレガンスを両立させるというねらいを表したものである。

  • 金 尚奎, 加藤 雄大, 松尾 建, 神崎 淳, 田所 正, 白橋 尚俊, 稲角 健, 皆本 洋, 志茂 大輔
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 14-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    第2世代SKYACTIV-Dでは,熱効率の制御因子の理想化を一段と推し進め,燃焼時期と燃焼期間を更に進化させた新燃焼コンセプトにより大幅な熱効率向上を実現した。新開発の2段エッグ燃焼室を用いた空間制御予混合燃焼(Distribution Controlled partially Premixed Compression Ignition: DCPCI)により,従来は軽負荷領域に限られていた高効率でクリーンな予混合燃焼の考え方を中・高負荷の実用域にまで拡張することができた。

    本報では,第2世代SKYACTIV-Dの燃焼技術を中心に,熱効率改善に向けた機能開発プロセスとCFD解析による新燃焼コンセプトの提案及び実機エンジンによる検証結果について報告する。

  • ―大排気量・直列6気筒と燃焼の理想追求による提供価値の向上―
    志茂 大輔, 皆本 洋, 福田 大介, 岩田 陽明, 松本 大典, 旗生 篤宏, 岡澤 寿史, 辻 幸治, 森永 真一
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 21-27
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    カーボンニュートラルに向けた再生可能エネルギー発電への移行期において,将来的な再生可能燃料の選択肢も考慮し,現実的なCO2削減のためには電動化とともに内燃機関の効率改善によるマルチソリューションが有効であると考えられる。その一つの答えとして新世代クリーンディーゼルエンジンSKYACTIV-D 3.3を開発した。排気量を従来の2.2Lから3.3Lに拡大することで高トルク・高出力化は元より,理想を追求したリーン予混合燃焼の拡大の手段としても大排気量化を用いることで,乗用車量産エンジン世界トップの実用域で広い熱効率,及び排気クリーン化を達成した。また低Pmax(最大燃焼圧)対応の構造系を進化させて摩擦抵抗を抑制し,更に直列6気筒による低振動と心地よいエンジン音を創り込んだ。これらの技術によって運転者が愉しく元気になる「走る歓び」,及び抜群の燃費とクリーン排気による「優れた環境性能」の両方をこれまでにない次元にまで高めた。

  • ―軽量で低燃費,低振動,高信頼性を両立した直列6気筒構造系技術―
    岡澤 寿史, 本田 絢大, 青木 勇, 詫間 修治, 西岡 勇介, 山内 智博, 山口 正徳, 菊池 正和, 小泉 昌弘, 内田 敦
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 28-35
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マルチソリューションによる本質的な環境貢献を実現するためには,電動化が進む現状においても,内燃機関の進化が継続して求められている。今回,内燃機関の進化ビジョンの2nd Stepを実現する新型直列6気筒の縦置きディーゼルエンジンを開発した。このエンジンはこれまでのSKYACTIV-Dの特徴である低Pmax燃焼技術に加えて,これまで4気筒開発で培ってきた構造技術における機能の進化,最適化及び統合を行い,大排気量で課題となる重量と機械抵抗に対して,クラストップレベルの軽量化と従来4気筒エンジンを凌ぐ低機械抵抗を実現した。加えて6気筒の良さである低振動を確保しつつ,マツダの独自価値である魂動デザインや人馬一体といった人間中心のクルマ作りに求められるパッケージ要求を,高い信頼性を確保しながら実現した。本稿では,その実現に向けて導入した技術について紹介する。

  • ―大排気量エンジンとマイルドハイブリッドの協調による提供価値の向上―
    小林 徹, 髙木 健太郎, 杉本 浩一, 皆本 洋, 松尾 建, 山川 裕貴, 髙橋 康太朗, 大地 晴樹, 齊藤 忠志, 五丹 宏明, 錦 ...
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 36-42
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは,CO2排出量削減の目標達成に向け,基本となる内燃機関の効率改善を進めながら,段階的に電動化技術を組み合わせていく「ビルディングブロック戦略」を推進している。今回のラージ商品群では,48Vのハイブリッドシステムを新たに採用し,新規開発の3.3L直列6気筒ディーゼルエンジンと組合せたM Hybrid Boostを導入する。高い熱効率を広範囲で達成したディーゼルエンジンと小型で低出力なハイブリッドシステムを効果的に組合せる独自の協調制御技術により,マイルドハイブリッドシステム(MHEV)でありながら減速時のエンジン切り離しを可能にし,回生エネルギーを最大化させた。またそれを走りと燃費に効率的に配分することによって,アクセル操作に忠実に追従する意のままの駆動力コントロールの進化と,同クラスのストロングハイブリッド並みの低燃費を達成し,更なる「走る歓び」と「優れた環境性能」の提供価値向上を実現した。

  • 宮﨑 正浩, 小林 謙太, 角田 良枝, 加藤 雄大, 村井 亜樹, 久禮 晋一, 福田 大介, 城 侑生, 山口 能将, 志茂 大輔
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 43-50
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    CX-60搭載の新世代クリーンディーゼルエンジンSKYACTIV-D 3.3では大排気量化と燃焼の理想追及に加えて,48Vマイルドハイブリッドとトルコンレス8速ATを組み合わせた独創的な技術によって,「走る歓び」と「優れた環境性能」をこれまでにない次元にまで高めた。その開発を可能にしたのが1Dモデルを用いたMBDプロセスである。エンジン/電駆/Drive Train (DT)/車両の各ユニットを1Dモデルでつないで,走り/燃費/エミッションの全てを満足する機能をハードと制御に最適に配分する機能開発の理想を追及した。本稿ではこのMBDプロセスと代表的な適用事例について紹介する。

  • 久米 章友, 福岡 泰明, 幸野 徹也, 楠 友邦, 後藤 剛志, 岡崎 真行, 中上 信宏, 春貝地 慎太朗, 横手 達徳, 宮本 圭一
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 51-56
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは,「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」でクルマの魅力である走る歓びによって,「地球」 「社会」 「人」それぞれの課題解決を目指すと宣言した。今回,CX-60に向けてマツダ初のプラグインハイブリッドシステム「e-SKYACTIV PHEV」を開発した。e-SKYACTIV PHEVが目指したのは,余裕を感じるパワフルで気持ちのよい走りと優れた環境性能,デイリーからウィークエンドユースに応える実用性,新しい保有体験を感じる利便性である。そこで,2.5Lガソリンエンジン+8速ATの間に新開発のモーターを挟みこむことで大出力/トルクを実現かつ,8速ギヤによる滑らかな加速を実現した。また,高容量の高電圧リチウムイオンバッテリーをスペース制約のあるFRの車に効率搭載して室内空間を確保するとともに,これらを高精度で制御マネジメントすることで75kmのEV航続距離を実現した。充電装置は,満充電時間を4時間以内の仕様とした。また,災害時に備えて急速充電機(CHAdeMO方式)を搭載してV2Hに対応できるようにした(日本仕様)。

  • 篠塚 浩, 上田 健輔, 山本 真司, 本瓦 成人, 朝倉 浩之
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 57-61
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    現代のクルマに求められる高い安全性能と環境性能を兼ね備えながら,マツダブランドの醍醐味である走る歓びを体現したミッドサイズSUVであるCX-60を発表した。この商品は新世代Large商品群のトップバッターであり,これからのマツダのブランド価値を1段高いステージにステップアップさせる重要な役割を担っている。優れた環境性能と人馬一体による走る歓びを両立させるべく,新型の縦置きオートマチックトランスミッション(AT)を開発した。

    新型ATの開発に当たり,断続・同期・伝達効率といったトランスミッション機能の劇的な向上を追求し,流体式トルクコンバーターの代わりにマニュアルトランスミッションのような機械式クラッチ機構を採用することで,ダイレクトな発進と高応答で滑らかな変速性能,そして抵抗低減による高効率化を目指した。併せてギヤ比設定と変速制御を最適に作り込むことで,人の感覚と一致したリズム感のある走りを実現するとともに,コンパクトな設計を行うことで理想的な運転姿勢を実現し,クルマとの究極の一体感を感じられるものとした。また,環境性能に対する幅広いニーズにお応えするために48Vマイルドハイブリッド及びプラグインハイブリッドの電駆システムを内蔵できる構造を採用した。

  • 吉田 琢, 今村 泰理, 梅津 大輔, 日高 誠二, 嶋田 克利
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 62-67
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    CX-60でマツダ初となる縦置きエンジンレイアウトの電子制御多板クラッチ式AWDを採用した。高いトラクション性能と理想的なハンドリング特性を実現し,乗用車としてトップレベルのAWDを新開発した。

    さまざまな路面で頼れる安心・安全の走破性に加え,ドライバーが高速・高Gの領域に至るまで意のままに操れる自然な車両挙動によって,より高いレベルの“走る歓び”を提供できた。

    本稿では,それらを実現したAWDシステムの技術紹介を行う。

  • 豊島 由忠, 本村 浩一, 三宅 輝, 虫谷 泰典, 奥山 和宏, 平松 大弥, 加瀬 泰宏, 澤井 亮
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 68-73
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダが一貫して追求し続けていること,それはクルマが身体の一部になったかのようになじみ,意のままに気持ちまでも通じ合う「人馬一体」によって,ドライバーに感動や活力,自信を感じてもらうことである。そのための開発哲学が,人を徹底的に研究し人の本来もつ能力や感覚を最大限に活用する「人間中心の開発哲学」である。CX-60では,人が道具を体の一部のように同化する人間の能力「身体拡張能力」に着目した。

    この能力を最大に発揮するためのポイントは,以下の3点である。

    (1)人の操作に対するクルマの反応が素早くシンクロする,すなわち操作とクルマの挙動の時間変化が一致すること

    (2)路面の凹凸などによる外乱や人の操作側の変化があってもシンクロが持続すること

    (3)クルマの反応を,五感で正確に感じ取れること

    この3点について新設計のサスペンションを始め,力の伝達経路に沿ってシート骨格に至るまで徹底的に見直しシャシーダイナミクスを作り込むことで,あたかも「脳とクルマが直結」しているかのような感覚と従来商品を大幅に超える人馬一体を実現した。

  • 田中 繁弘, 丹後 佑太, 梅津 大輔, 今村 泰理, 吉田 琢
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 74-77
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ラージ商品群の第一弾として,CX-60を発売した。マツダ初のプラグインハイブリッドモデルをラインナップし,従来のM Hybrid(24V マイルドハイブリッド)に比べて,より多くの減速エネルギーを回収し,環境性能を向上している。減速エネルギーの回収には,回生協調ブレーキシステムを採用した。回生協調ブレーキは,マツダとして初めて,i-ACTIV AWDと協調制御させ,AWDならではのより安定した走りと,自然なブレーキペダル操作感を実現した。

  • 住田 英司, 毛利 正樹, 服部 之総, 唐津 良平, 宮東 孝光, 木下 晃, 富士田 拓也, 三小田 哲也, 村上 健太
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 78-82
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    CX-60の開発コンセプトは,『どんな道でも,心昂ることができる Driving Entertainment』である。このコンセプトを実現させるために,(1)不快な音や振動を排除し,お客様に安心感を提供する静粛性と,(2)高揚感を呼び起こし,運転の楽しさを感じるきっかけとなるPTサウンドに目標を置いた。この目標を達成するために,音源を低減させ,振動伝達特性や空気伝ぱ音をコントロールするための考え方を構築し,それを具体化させるための新たな構造や材料を研究するとともに,CX-60に関わる全部門との共創活動を経て,この目標を実現させた。

  • 伊川 雄希, 久我 秀功, 岡本 哲
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 83-89
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    地球温暖化抑制に向けたCO2削減の取り組みの一つとして,燃費向上させた商品をお客様にお届けすることが私たちの使命である。CO2排出量は走行抵抗に比例して増大し,その構成要素である空気抵抗は車両形状に依存するため,商品開発においては魂動デザインと空気抵抗低減の両立が必須課題となる。私たちは,空気抵抗係数(Cd値:Drag Coefficient)への寄与度が大きい車両後方の渦に注目し,簡易モデルを用いた風流れのメカニズム解明と風流れ制御技術開発に取り組んだ。その結果,車両後端部の風向を制御することで,空気抵抗を決定づける風流れの運動エネルギー損失を低減させるコンセプトを構築した。このコンセプトを具現化することで,従来同型比でCd値を12%低減できる新しい風流れ制御技術を確立した。これらの新技術をCX-60の商品開発に適用し,高い次元で魂動デザインと両立させながら,クラストップレベルのCd値を実現させた。

  • 棗 裕貴, 山崎 忠, 影山 和宏, 川野 晃寛, 後藤 英貴
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 90-95
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    CX-60は,MAZDA3で採用したSKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE(1)を進化させ,エンジン縦置き方式を採用したラージ商品群の第一弾モデルである。本稿では,ボディーの機能をエネルギー視点で開発する「エネルギーコントロールボディー」という新たな取り組みについて紹介する。エネルギーの伝達・吸収・流入抑制・減衰について理想を掲げ,それを実現するための3つのコンセプト「軸で受け途切れないロードパス」,「入力点剛性アップ」,「高歪部位への減衰特性付与」に基づき,環状構造や結合部の強化と材料・工法の進化を取り込み,具体構造化した。これらにより,ラージ商品群でボディーが目指す価値を実現できた。

  • 辻 大介, 澤田 庸介, 黒田 一平, 谷本 晃一, 松下 幸治, 安藤 亮, 水口 浩爾
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 96-101
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダでは,「走る歓び」と「優れた環境・安全性能」を目標に,安全・安心なクルマと社会の実現を目指した商品開発を実施している。その中で,衝突安全性能開発は高い安全性能と軽量化という背反傾向の関係を高次元で両立させるために,MBD(Model Based Development)を駆使して車両構造を開発している。「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE」に代表される車体開発では,高精度CAE技術を用いて衝突時の荷重を効率的に吸収し,分散して支えるマルチロードパスを進化させた新しいアーキテクチャーを作り上げた。

    新型CX-60では,後輪駆動をベースとした新たなプラットフォームに,実際の事故・傷害形態の分析からバックキャスティングした衝突安全技術を高次元で融合し,高いエネルギー吸収効率を備えた車体構造,相手車保護及び歩行者保護を進化させ,欧州の衝突安全アセスメント(New Car Assessment Program: NCAP)であるEuro NCAPで,2022年に最高ランクの5星を獲得した。本稿では,代表的な衝突形態である前面衝突,側面衝突,後面衝突及び歩行者保護について織り込んだ技術を紹介する。

  • 原田 翔次, 川原 康弘, 元谷 章博, 福井 聡一郎, 大岩根 拓馬
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 102-108
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは,安全思想「MAZDA PROACTIVE SAFETY」に基づき,先進安全技術「i-ACTIVSENSE」を開発している。CX-60では,「人間中心」の考え方で,走る/曲がる/止まる全ての支援において,「安心で疲れないクルージング&トラフィック・サポート(CTS)」を目指し開発した。CTSは追従走行機能とステアリングアシスト機能で構成されるシステムであり,ステアリングアシスト機能においては,滑らか,かつ安定して車線の中央を走行する「センタートレース性」,及びステアリングアシスト制御中(以下,CTS制御中)にドライバーが操舵介入した際でも,意のままに操作可能な「ドライバー操舵特性」の両立に取り組んだ。センタートレース性は,新たにモデル予測制御技術を採用することにより,滑らか,かつ安定して車線の中央を走行する性能を実現した。ドライバー操舵特性は,ドライバー走行時とCTS制御時のドライバー操舵特性の一致性を高め,CTS制御中でも意のままの操作を実現した。本稿では,CX-60において2つの性能をより高い次元で両立させた。その開発経緯,及び,採用した技術について紹介する。

  • 濱田 隆史, 山下 良幸, 西條 友馬, 休坂 慎也, 辻 雄太, 髙田 淳平, 中畑 洋一朗, 山本 直樹, 尾崎 昂, 野中 信宏
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 109-115
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは,安全思想「MAZDA PROACTIVE SAFETY」に基づき,先進安全技術「i-ACTIVSENSE」を開発してきた。しかし,事故のない社会の実現には,超えるべき山が沢山ある。とりわけ運転中にドライバーが運転不能に陥った場合は重大事故につながり易く,社会的影響も大きい。このような事故の対策に対して,日本ではASV(Advanced Safety Vehicle)の枠組みに基づき検討が進み国土交通省により“ドライバー異常時対応システム基本設計書”が策定された。また国連法規でもリスク軽減機能(Risk Mitigation Function)が策定されるなど開発が進展しつつある。今回,ドライバーの内因性疾患,体調急変時,すなわちドライバーが運転不能に陥った際の支援機能として自動車を緊急停車させるドライバー異常時対応システム(Driver Emergency Assist; DEA)を開発し,CX-60に搭載したので,そのシステムの概要を紹介する。

  • 末永 修滋, 平田 義人, 杉吉 竜弥, 藤丸 翔太, 中上 千恵子, 前田 真聡
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 116-121
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    自動車業界では大きな変革期を迎えているが,人と車の関係が多様化しても,車はドライバーが操作するものであり続けるとマツダは考えている。人の感覚に合わせ,より運転しやすい車とするために,マツダは「人間中心」のHuman Machine Interface(HMI)の技術を深化させることを目指した。その1つの形として,CX-60からドライバー・パーソナライゼーション・システムを導入した。マツダ独自の機能として,ドライバー・モニタリングカメラ・システムを活用し,個々のドライバーに適切なドライビングポジションを推奨する機能を開発した。更に,顔認証機能を用い,ドライビングポジションと車両装備の細かな設定を自動復元する機能を備えつつ,エントリーアシスト機能にて車の乗降を容易にした。個々のドライバーへ運転に適した車内環境を提供することで,車を意のままに扱える人馬一体感による「走る歓び」をより多くのドライバーに体験していただく機会を創出した。本稿ではドライバー・パーソナライゼーション・システムとその要素技術について紹介する。

  • 常清 悠介, 寺澤 拓馬, 池田 竜太, 松尾 純太郎, 諸川 波動
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 122-127
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    危険な状況に陥ってから対処するのではなく,危険自体を回避するマツダの安全思想「MAZDA PROACTIVE SAFETY(マツダ・プロアクティブ・セーフティ)」は,ドライバーの認知・判断・操作を車両がサポートすることで,事故のリスクを最小限に抑える考え方である。マツダのコックピットはこの安全思想に基づき,常に前方を見据えて運転することができるヘッズアップコックピットの考えでHuman Machine Interface(以下,HMI)開発を行っている。このヘッズアップコックピットは,2013年に市場導入された3代目アクセラから導入し,それ以降も常に進化を続けている。

    CX-60では,ヘッズアップコックピット構想のベースにある人間中心の考え方で今まで追求してきた人間が共通でもつ「人間特性」に加え,新たに多様性を考慮した個人最適の考えを織り込むことで,個人の能力を発揮しやすい運転環境を作り出す開発を行った。

  • 杉島 孝幸, 樋口 圭太, 髙田 浩二, 伊藤 敦, 織田 匡樹, 朴 吉友, 松下 将輝, 黒田 智也, 青山 麟太郎
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 128-131
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    「カーライフを通じて人生の輝きを人々に提供する」ために,荷室へのアクセス時に使用するリフトゲートは,荷物をもった状態でも思いどおりに開閉できる利便性や,開閉時の上質な動きが大切な要素であると考える。CX-60のリフトゲートでは,思いどおりに開閉し,特別な体験を提供するパワーリフトゲート,及びハンズフリーリフトゲートを従来車に続き搭載した。従来車に対して,パワーリフトゲートは,心地よい作動速度・作動音を追求し,利便性と開閉時の作動質感を向上させた。また,ハンズフリーリフトゲートはトーイングヒッチを装着する車両との両立を実現させ,全てのお客様の利便性を向上させた。本稿ではこれらの開発内容について紹介する。

  • 佐藤 陽平, 西原 大樹, 日原 圭祐, 新川 力, 村上 龍馬
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 132-138
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    近年,自動車業界は,環境問題への対応やそれに伴う電動化や自動運転技術の登場により大きく変化しており,マツダではこの変化に対応しつつお客様に“走る歓び”を提供し続けるために新たな機能開発を進めている。機能の高度化及び多様化に伴い,クルマに搭載されるソフトウェアの開発規模は増大し,かつ車両内での通信量も増加している。このような状況で,いかにソフトウェア開発の効率を上げ,短期間に高品質なモノ造りを実現するかが我々マツダの技の見せ所である。本稿ではCX-60において効率的なソフトウェア開発を実現した,車両ネットワークシミュレーターによる機能の先行妥当性確認,先行動作検証について,その考え方と成果を紹介する。

  • 松田 隆臣, 岡本 圭一, 藤本 智宏, 山根 貴和, 平野 文美
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 139-144
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは「カラーも造形の一部」という考え方の基,魂動デザインの造形をより美しく見せるための表現を追求し,これまでにブランドを象徴するカラーとしてソウルレッドプレミアムメタリック,マシーングレープレミアムメタリック及びソウルレッドクリスタルメタリックを量産化した。これらのカラー開発は,デザイナーと社内外の関係者が一同に集まり,デザインの意図を理解しながら材料開発と生産技術開発を同時に行うプロセス「TAKUMINURI開発プロセス」により,実現してきた。これまで,マツダでは地球環境に配慮した塗装工程を目指してアクアテック塗装を展開することで,材料機能や工程機能を高めながら,工程集約を実現してきた。また,培ってきた材料や工法の技術の積み重ねを活かすことにより,塗膜層の数を増やすことなく高意匠カラーを実現している。

    今回,魂動デザインの進化にあわせて新たな価値をお客様に提供するカラーとして「緻密な金属感」と「白さ」を両立させたロジウムホワイトプレミアムメタリックを開発した。デザイン,開発,生産技術及びサプライヤーが連携した「TAKUMINURI開発プロセス」の進化,及び技術の進化を紹介する。

  • 永尾 篤, 宮田 崇史, 松浪 隆仁, 工藤 聖広, 松浦 恭, 池田 裕輝
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 145-151
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダで初となる直列6気筒エンジン導入に伴い,エンジン組立ラインを新設した。これまで,一括企画,コモンアーキテクチャー構想,フレキシブルライン構想により生産効率/フレキシビリティ/品質を両立した直列4気筒エンジン組立ラインを国内外の拠点に展開しており,同様な考え方を新ラインに織り込んだ。直列6気筒エンジン導入にあたり,多気筒化固有の生産上/品質保証上の課題を組立ラインの仕様にどう反映してきたのかという点を中心に紹介する。

  • 野畑 俊也, 河野 弘和, 田中 雄幸, 長野 隼門, 椎野 和幸, 新家 泰平
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 152-157
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダのブランドエッセンスである“人馬一体”の走りを実現するため,後輪駆動(以下,FR)用オートマチックトランスミッション(以下,AT)には“理想のペダルワークスペース”の実現,NVH性能向上,優れた環境性能の実現が求められる。そのためには,ATユニットの細長化,軽量化及び変速機構の直列配置化が求められ,変速機能をもつATユニット内クラッチドラムを長尺化,軽量化していかなければならない。その手段として,クラッチドラムを鉄材からアルミニウム材(以下,アルミ)への材料置換を適用した。このアルミ化に対し,環境負荷を抑えることを狙った塑性加工技術開発を行い,金型形状,工法選定を最適化し,良品条件を確立した。加えて,アルミ塑性加工時のネッキングを机上で判定できる評価手法・指標を確立した。クラッチドラムは別の構成部品(鉄)と結合しAT内に組み込むが,その結合工法については精度確保のため,“絞り方式により母材同士を直接結合するカシメ結合”を選定した。これは,動力伝達機構領域で初採用となる工法のため,基礎実験から,車のさまざまな使用条件に対する耐久信頼性を評価し成立させた。本稿ではこの取り組みについて報告する。

  • 王 強, 足立 圭, 井上 翼, 小林 正治, 島内 仁士
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 158-164
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    車の電動化による環境性能と走行性能の両立のため,軽量化は新型車開発における課題の一つである。新型車のCX-60では,この課題解決とともに車の商品価値を飛躍的に向上させるため,ボディーのフレーム間を強固に接合し,ボディー質量低減が可能なインナーフレーム構造を開発部門と共創した。2019年宇品工場で立ち上げたFlexible Module Line(以下,FML)(1)をベースにし,2021年に新しいモジュールを追加したFMLを防府工場に展開した。このインナーフレーム構造実現に向け,デジタルツールでの工程・品質の作り込みにより,新構造対応のための工程モジュールを開発した。また接合課題に対しては新しい片側接合工法である“Closed Section Spot Welding”(以下,CSSW)を適用することで解決した。

    これらの取り組みにより,お客様の期待を超える『商品価値の実現』と市場環境の変化に即応可能な『高効率でフレキシブルな生産』を両立できるグローバルな生産システムを実現した。本稿では,この実現に向けた取り組みを紹介する。

  • 岡林 直道, 細木 信吉, 越智 元基, 山縣 英雄
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 165-169
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ラージ商品群を全世界に提供するための生産体制を構築するべく,防府第2車両組立工場(以下,H2組立工場)をリニューアルした。

    今回のリニューアルでは,これまでマツダが大切にしている働く人に優しい工程つくりを継承し,進化させながら,車両構造の電動化シフトや,少子高齢化による労働人口減少の中でも,お客様へ最新の車を,高品質でタイムリーに提供できる工場を目指した。

    それを実現するため,三つの基本コンセプト,「1.車両の変化に柔軟に対応できる根の生えない設備*」,「2.作業者の能力を最大限発揮できる高効率混流生産ライン」,「3.働きやすさを追求した作業者に優しいライン」の具体化に取り組み,マルチソリューション戦略の商品群を既存の車種も含めて効率的に混流生産できる工場へと一新した。

    本稿では,その取り組みについて紹介する。

    *:低投資かつ短期間でレイアウト変更できる設備に対する通称。

  • 高田 有弘, 川合 敏之, 﨑田 亮, 王 強, 川野 晃寛
    原稿種別: 特集
    2022 年 39 巻 p. 170-175
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダの生産技術部門では,お客様の期待を超えるレベルで走る歓びを実現するために,独自価値の具現化を目指している。その一つとして,魂動デザインの忠実な造り込みに取り組んでおり,隣り合う意匠面が一枚の面であるかのように感じられる「面の連続感」の造り込みを行ってきた。また,グローバルで多様な人材にいきいきと働いてもらえる環境を目指し,働きやすい製造ラインへの変革に向けて活動しており,どんなクルマでも作業がしやすい生産工法の開発を行っている。本稿では,CX-60で実施した「魂動デザイン」と「働きやすさ」をともに向上させた取り組みについて紹介する。

論文・解説
  • 栃岡 孝宏, 山本 康典, 岩下 洋平, 菅野 崇, 藤原 由貴, 高橋 英輝, 岩瀬 耕二, 桑原 潤一郎, 吉岡 透, 田内 一志
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 176-182
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは,クルマを自ら運転することで元気になっていただきたいと考えている。そして,自分らしく心豊かな人生を送っていただきたい。だからこそ,万が一の事故を着実に減らしていくために,MAZDA CO-PILOT CONCEPTを開発した。ドライバーが元気に運転できている時には,人間の認知,判断,操作能力を発揮して,運転を楽しんでいただく。システムは常に副操縦士(CO-PILOT)のように人の状態を見守る。MAZDA CO-PILOT CONCEPTは,高齢者から若年ドライバーまで,常にドライバーの状態を見守り,一般道から高速道まで場所を選ばず機能することで,ドライバーが原因となる事故の削減,被害軽減に貢献する。これにより,ドライバーや同乗者だけでなく,ドライバーを送り出す家族や周囲の人々への安心をも提供できると考えている。本稿では,MAZDA CO-PILOT CONCEPTに基づく技術試作車について紹介する。

  • 今村 泰理, 梅津 大輔, 藤岡 陽一, 松尾 純太郎, 諸川 波動, 延谷 尚輝
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 183-187
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    CX-50は,お客様にとって自信をもたらし,自然へと赴く冒険の相棒となってくれる存在になることを目指して開発した。今回,オンロードでの人馬一体の走りはそのままに,オフロードの多種多様な路面においても,高いコントロール性による安心・安全の走りを提供すべく,さまざまな走行シーン,環境でも人馬一体の走りを提供する新たに複数のドライブモードとその切り替えシステムであるMazda intelligent Drive Select(Mi-Drive)を開発した。本稿では,Mi-Driveシステムと各ドライブモードに関する技術を述べる。

  • 平賀 直樹, 緒方 博幸, 加藤 史律, 梅津 大輔
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 188-193
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    一般的に,リアのロールセンター高はフロントに比べて比較的高めに設定されている。このようなリアのロールセンターが高い構成においては,旋回横加速度が大きいシーンで必要以上のジャッキアップ力をもたらし,旋回時に車体がもち上がるヒーブ運動の発生により,ドライバーに不安感を抱かせることがある。そこで,旋回横加速度が大きいシーンに増大するヒーブを抑制する手法を検討し,バネ上の車体姿勢を安定させるKinematic Posture Control(以下,KPC)を開発した。本稿では,まずKPCの制御コンセプト及びシステム構成を紹介する。そして,KPCによって旋回中のヒーブが抑制されることをフルビークルシミュレーションで確認した結果を紹介する。更に,KPCを搭載したロードスターを用いて,ドライバーの運転行動へ及ぼす効果を検証した実験結果を紹介する。KPCは旋回中のヒーブを抑制することでドライバーが余裕をもった操作になることがわかった。

  • 喜久山 良弐, 福田 克弘, 中本 尊元, 山根 貴和
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 194-199
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    自動車の防錆性能を確保するためには,腐食環境を定量化し自動車の防錆処理の性能が環境に比べて高くなるようにする必要がある。自動車が曝される腐食環境を定量的に測定するために,無線化により簡易に装着可能な腐食環境計測システムを開発した。また測定データや気象データなどの大規模データを分析する技術を確立し,腐食環境を予測することが可能となった。

  • 和田 尚美, 和田 有司, 弓削 康平, 木﨑 勇, 橋田 光二, 寺田 栄
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 200-205
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    魅力ある商品をお客様に届けるためには軽量かつ高性能な車両を開発する必要がある。軽量化と性能を両立させるための車体骨格検討においてトポロジー最適化は設計検討の一助となるが,衝突性能に代表されるような大変形を伴う非線形現象を目的にしたトポロジー最適化で骨格構造を得ることは難しい。そこで衝突時のエネルギー吸収を制御できる非線形トポロジー最適化と,線形問題である剛性とNVHを含めた複数性能を同時に扱える大規模トポロジー最適化手法を開発した。この手法を用いた剛性・衝突・NVHを同時トポロジー最適化することで,各性能指標を満足し,かつ最適化も十分に収束する車体骨格のトポロジーを得ることができた。

  • 波頭 佑哉, 中村 和博, 山岡 祐也, 松原 孝志, 重森 大輝
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 206-212
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    電動車両(以下,xEV)では,高電圧バッテリー(以下,バッテリー)やモーター,インバーターなどの電気駆動(以下,電駆)コンポーネントの信頼性を満たすために適切な温度管理が求められ,そのためのエネルギーが必要となる。しかし,バッテリー内の限られたエネルギーを動力及び空調と分け合う必要があり,これらの熱性能,航続距離,空調快適性の共立には,冷却・入熱のタイミングや熱の分配・移動を制御する熱マネージメント(以下,熱マネ)が重要である。そこで,xEV車両内のマルチ・フィジックスの現象を解くことが可能な1D車両全体モデルを構築し,熱マネシステムの全体最適化のMBD(Model Based Development)手法を開発した。3D-CAE及び機械学習を活用することでモデルの予測精度を向上し,実際のBEV(Battery Electric Vehicle)開発での適用を想定した熱マネシステムの検討を行った。

  • 平尾 嘉英, 井上 誠二, 大川 慧, 當房 勝, 奥村 聡志
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 213-218
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ドライバーが意図するままに操ることのできる「人馬一体」のドライブフィールと安全性を兼ね備えた車を実現するため,乗員周りの骨格部品の強度確保と,徹底的に軽量化したボディー構造の両立に向けて日々取り組みを行っている。その主要技術のひとつであるホットスタンプは,プレス成形すると同時に焼入れを行い1800MPa級等の強度をもつ製品を造ることができる。加熱することにより成形時の材料強度が低くなるため,冷間の超高張力鋼板(超ハイテン材)の加工に比べて成形性が優位となることを利用し,これまでも形状が複雑な骨格部品にこの技術を適用してボディーを高強度・軽量化してきた。更なるボディー構造の進化及び適用部品の拡大を図るため,従来工法比4倍となる高効率な『直水冷ホットスタンプ技術』の開発を行った。本稿では,人馬一体と安全性を実現するために新世代ラージ商品群で取り組んだ高効率ホットスタンプ加工技術開発について紹介する。

  • 釼持 寛正, 小平 剛央, 岡本 定良
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 219-224
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダでは,軽量かつ高性能な車体構造を効率的に開発するため,対話型設計支援技術を開発している。本技術は,軽量化に対し弱点となっている性能や構造の領域(以下,ボトルネック)を明確化し,それらボトルネックへの対策構造の導出を支援する技術である。これまで,ボトルネックの発見は可能となっており,更なる開発効率化のためには,その要因の深掘りにより性能向上に寄与する部位を特定し,効果的に対策につなげることが必要である。そこで,複雑な車体構造においても,静的なエネルギー状態だけでなく,動的なエネルギー流れを可視化することにより,設計者が性能向上に寄与する部位を効率的に発見し,エネルギー流れを形成させる視点から対策構造を導出できる技術として,力学的エネルギー流れの動的可視化手法を開発した。本手法を実構造に適用した結果,車体側面構造が性能向上に寄与する部位であることを明らかにし,車体側面構造にエネルギー流れを形成させる構造案を導出した。

  • 奥山 智仁, 本田 正徳, 目良 貢, 雪田 恭兵, 木﨑 勇
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 225-229
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    二酸化炭素の排出量削減を目的とした軽量化と高い安全性の両立を実現するため,従来は側面衝突時に荷重が集中する車体フレームの高強度化を図っていたが,新たに荷重を分散するドアパネル構造を考案した。ドアパネルから車体フレームへの荷重伝達は,ドアパネルの変形により車体フレームと接触することで生じる。そのため,荷重伝達経路の解明には,非線形な時系列データの分析が必要であり,機械学習を用いたグラフ構造化分析手法(1)により明らかにした。荷重伝達経路のポイントは,リアボディー部におけるドアパネルと車体フレームの接触である。更に,接触に寄与するドアパネル部位は,リアドアだけでなく,フロントドアのサイドシル部であることを明らかにした。

  • 麻川 元康, 古賀 一陽, 福田 克弘, 渡邊 伸明, 長友 博之, 江﨑 達哉
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 230-234
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    車両の軽量化と乗り心地,操縦安定性の向上をねらった構造用接着剤の適用部位拡大のために,耐食性に加え耐劣化性に優れた,1液加熱硬化型エポキシ系の車体剛性用接着剤を開発した。接着の機能を,「接合面内を外界から遮蔽しながら被着体どうしを密着させること」ととらえ,これらによってウエット環境下での,耐食性及び接着強度を高く維持できると考えた。そこで,遮蔽性低下の要因となる接着欠陥の発生メカニズムを解明し,耐食性に優れる接着剤の要件を導出した。併せて密着性向上も検討し実用化した接着剤では,ガルバニック腐食も含めた耐食性及び,耐水・耐湿接着強度が向上していることを確認した。

  • ~電池の異常時発熱挙動シミュレーション~
    花岡 輝彦, 樋口 宗隆, 梶本 貴紀, 池田 卓, 藤田 弘輝
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 235-240
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    近年,電気自動車に搭載されるリチウムイオン電池は高エネルギー密度化,高出力密度化が進んでおり,それに伴い異常時の電池の発火リスクが高まるなどの安全性低下が懸念されている。特にLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2等のニッケル比率の高い層状岩塩型の活物質を正極に用いた電池セルは,エネルギー密度が高い一方で,内部短絡などの異常発生時において発熱量が大きいため安全性が低下することが報告されており,これら材料を含む車載用電池パックの安全性の確保が課題となっている。この課題に対して,電池の安全性をシミュレーションモデルで検証することで開発の手戻り削減などの効率化が期待できる。そこで本研究では活物質の組成の違いがセル異常時の発熱量に及ぼす影響を明らかにし,異常時の電池セル及びモジュールの温度挙動を素早く計算できる1次元シミュレーション技術を確立した。また,モジュールの安全性の向上を目的に,構築したモデルを用いてモジュール部材の材質変更による温度上昇抑制の効果検証を実施した。本稿ではその取り組みについて報告する。

  • 楊 殿宇, 高原 慎二, 末冨 隆雅
    原稿種別: 論文・解説
    2022 年 39 巻 p. 241-247
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは,技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」に基づき,ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点から,環境負荷低減に取り組んでいる。その中で,EV駆動用バッテリーを定置型蓄電池として活用し,地産地消型の再生可能エネルギー利用拡大を目指した取り組みを,中国電力(株),(株)明電舎と3社で行っている。本稿では,その事例について紹介する。まず,複数のEV駆動用バッテリーを定置用蓄電池としてリユースした実証試験のシステム概要について述べる。次に,リユースバッテリーの課題,課題解決のための考え方とその試験方法を説明する。最後に,実証試験で得られた試験結果から二次利用における今後の課題と高効率な開発に向けた取り組みを提案する。

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