これから紹介するのは,長崎の針尾島出身で,幕末の儒学者の,楠本端山(名は確蔵,後に後覚と改めた,字(あざな)は伯暁,端山は号,一八二八年〜一八八三年)が遺した漢詩集である。日本漢詩は,その価値がまだまだ十分に認識されていない。ましてや儒学者の仕事となると,存在すら忘れ去られているのが現状ではなかろうか。しかし,大方の予想に反して,儒学者のそれは,現代人の鑑賞にたえる魅力的なものが多い。儒学の伝統をふまえた人々の言葉であるがゆえに,かえって趣のある内容となっている,とも言えよう。端山の詩は,そうした優れたものの中でも,とびきりの表現と内容とを備えているのであり,だからこそ,ここに訳注を施すことにしたわけである。
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