太い脳血管で血流量が変化した時に血管径が変化するか否かが大きな問題となっている.TCDは非侵襲的に脳血流を測定しうるため, 広く用いられているが, 血流速度変化を血流量の変化の指標として用いることが出来るのは血管の直径が不変である場合である.しかしながらこの点に関しては未だ明確にはされていない.そこで著者らは, 種々の程度の血中炭酸ガス濃度下で, 中大脳動脈と, 血管径が変化しにくい静脈洞との血流速度を同時に測定し, 両者に於ける血管運動反応の差から血管径の変化の有無を検討した.
16名の若い健常者で, 種々の血中炭酸ガス濃度下で, 一側の中大脳動脈と対側の蝶形頭頂静脈洞 (sphenoparital sinus) と思われる静脈の両者を一対のTCDを用いて同時に測定した.高炭酸ガス血中濃度の状況下では, 中大脳動脈の平均血流速度は62.5±10.2cm/sから最高99±12.2cm/s (血管運動反応性は60.1±17.3%) に亢進した.一方, 蝶形頭頂静脈洞では17.8±5.7cm/sから34.5±14.3cm/s (血管運動反応性は91.4±25.9%) まで上昇し, より著明な亢進を示した.炭酸ガス濃度に対する血管反応性 (%/mmHg, EtCO
2) は中大脳動脈では4.5±1%/mmHg, 蝶形頭頂静脈洞では6.8±1.5%/mmHgであった.
以上より, この血管運動反応性の差は静脈に比べ中大脳動脈が拡張していることを示していると考えられる.すなわち, 拡張しにくい静脈洞の血流速度変化と中大脳動脈の血流速度変化との比較検討から, 中大脳動脈では最高血中炭酸ガス濃度下では9.5±7%の拡張が生じていることを示している.著者らは, 血流速度変化から血流量の変化を考える場合にこの点を十分注意する必要がある, と結んでいる.
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