日本心理学会大会発表論文集
Online ISSN : 2433-7609
日本心理学会第87回大会
選択された号の論文の1159件中101~150を表示しています
チュートリアル・ワークショップ
  • 小杉 考司, 紀ノ定 保礼, 清水 裕士
    セッションID: TWS-007
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    心理統計は難しい。これには3つの理由がある。第1に,学び教えるべき内容,統計モデルが飛躍的に発展しているからである。分散分析や回帰分析だけではなく,マルチレベルモデルや構造方程式モデリングなど,かつてに比べてモデルがより精緻になっている。第2に,再現性問題に端を発した統計の誤用,悪用,誤解への対策として,手続きや解釈がより厳しくなったからである。手続きとして事前登録,例数設計などが求められるし,事後的にもHARKingにならないような配慮が必要である。結果の解釈にしても,p値や偏回帰係数の正しい解釈,個人レベルと集団レベルでの区別に注意した考察が求められる。もちろん科学は発展するものだから,常に学び続けて対応するしかない。しかし第3に,そもそも確率が抽象的でわかりにくいのである。こうした困難を克服する学習法として,数値シミュレーションによるアプローチを勧めたい。数学的な仮定や理論を目に見えるデータセットに具現化することで,様々な統計的タブーの何が問題なのかを仮想的に試すことができる。また仮想データを統計モデルから作っていくことで,複雑なモデルも手に取るように理解できるようになるだろう。

  • 佐々木 淳
    セッションID: TWS-008
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    セラピストが認知行動療法の技法を自身の問題に使用し(self-practice: SP),その体験を内省する(self-reflection: SR)ことが,技法やモデルの理解を深め,柔軟に技法を使ううえで重要であることが明らかになってきました。「実践から内省への自己プログラム」(SP/SR; Bennett-Levy et al., 2015)は,認知行動療法の技法を実践・内省しながら,セラピストとしての新しいあり方を目指していくトレーニング方法です。

    本チュートリアルでは認知行動療法の学習モデルを踏まえた上で,これまで明らかになっている「実践から内省への自己プログラム」のメリットに触れます。今回は重要課題であるアセスメント技法の中でも,自身の文化的背景をフォーミュレーションに組み込む方法を体験し,そのプロセスを内省します。日本で生まれ育った人でも,意識してこなかった点が自身の問題に関わっていることがわかり,その理解が参加者間での内省の共有で深まることでしょう。心理職や大学院生のみならず,認知行動療法に興味がある方や,自分自身を別の視点から見つめたい方も参加することができます。

  • 岸田 広平, 藤里 紘子, 加藤 典子
    セッションID: TWS-009
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    児童青年の不安症や抑うつ障害といった感情障害は日常生活や様々な活動に悪影響をもらす(Prinstein et al., 2019)。例えば,不安症を有する児童青年は,情動のコントロール,学業達成,対人関係などに困難を示し,抑うつ障害を有する青年は,成人期において自殺や再発の危険性が高まり,仕事,社会,家族関係などにおいて困難を示す。欧米では,児童青年の不安症と青年の抑うつ障害に対する認知行動療法の有効性が確認されている(Higa-McMillan et al., 2016; Weersing et al., 2017)。近年,本邦においても,子どもの感情障害に対する認知行動療法の臨床試験が進みつつあり,実施可能性や有効性が報告されてきている(Kishida et al, 2022; Fujisato et al., 2021)。しかし,これらの認知行動療法プログラムを実際の個別事例にどのように活用したのかについては,臨床試験の結果を報告する論文上で議論されることはほとんどない。本ワークショップでは,子どもの感情障害に対する認知行動療法プログラムについて,実際の個別事例への活用方法や工夫点などを紹介する。

  • 荒井 穂菜美, 岸田 広平, 阿部 望, 横山 孝行
    セッションID: TWS-010
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    児童期および思春期・青年期の不安の問題は成人後のメンタルヘルス問題のリスク要因となるため,予防することが重要である。予防にはUniversal,Selective,Indicatedの三段階があり,各段階によって対象や目的が異なる。また,不安の問題やリスク要因は発達段階により異なるため,発達段階に合わせた予防プログラムを幅広く提供することが重要である。さらに,公認心理師の業務では,心の健康に関する知識の普及を図るための教育および情報の提供を行うことが重要とされており,その展開方法やスキルを習得することは必要不可欠である。

    そこで本ワークショップでは,不安の問題の予防を目的として開発された集団プログラムである「こころあっぷタイム(Universal介入)」および「Safety Aid Elimination Intervention:SAFE(Selective介入)」を紹介する。さらに,心理教育プログラムを教育現場で実践した講師の経験をもとに,予防段階や対象者の垣根を越えて,集団予防プログラムの維持と普及を見据え,共通理解とするべき点についても提供を行う。

  • 小林 百雲子
    セッションID: TWS-011
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    私たちは「職場パワーハラスメントを防止し,ワーク ・ エンゲイジメント(仕事に対するポジティブで充実した状態)の向上を導くための効果的な短期介入プログラムの開発と検証」を行っています。本企画では開発したプログラムを紹介し,心理臨床や研究に広く活用頂くことを目的としています。

    制作したプログラムは部下や同僚に対する適切なコミュニケーションを促すための組織開発を目的とした内容です。管理職を対象としたプログラムは,次の3点で構成されます。1)アンガーマネジメント:自身の怒りの特徴や捉え方の癖を見なおす認知行動療法や怒りへの物理的な対処法,2)アサーション:相手を尊重しつつも,自分の意見や要求などを率直に誠実に伝えるスキル,3)積極的傾聴:部下の話を共感的に聴くスキル

    研究の意義は次の2点です。1)一つの短期介入プログラムで,仕事に関するポジティブとネガティブ両側面への効果を実証した研究は他になく,先進的かつ社会的意義が大きい。2)パワハラ被害による悪影響を防ぐだけでなく,ワーク・エンゲイジメント向上などのポジティブな効果を示すことで,コストと捉えられがちなパワハラ対策の意義を明確に示すことができる。

  • 高橋 吏良, 角田 智哉
    セッションID: TWS-012
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    心理関係者はプレゼンテーションを行う機会が多いが,伝えるスキルを習得する機会は少ない。発表者は元NHKニュースキャスターであり,現在は日本心理学会メディア心理学研究会の代表もつとめている。これまで心理系の学会において,良い内容であるのにもかかわらず,滑舌が悪くて聞き取りづらい,ポイントがわかりにくいなど,「伝わりにくい」という残念な発表をもどかしく感じて来た。また,Withコロナ時代はオンラインでのやりとりも増えている。オンラインではリアル対面より,よりクリアにわかりやすく話さないと伝わりにくい。そこで,より人に伝わるNHK流正統派アナウンス技術を心理関係者にも伝授したい。具体的には,「クオリティをUPさせる本番前の10の行動」「アナウンス技術10のスキル」「私,絶対に失敗しません,と言いきれる3つの準備」を実践交えて紹介する。また,メンタルヘルス研修などで講師をつとめる際のフロアの心のつかみ方もお伝えしたい。さらに,学会では「フロアからの質問が苦手」という人も多いのではなかろうか?「どんな質問にもズバリ答える」という精神科医をお迎えして,その技術や極意をお伺いする。

  • 尾崎 由佳
    セッションID: TWS-013
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    経験サンプリング法(experience sampling method; ESM)について,初学者向けの基礎レベルから,経験者向けの応用レベルまで,わかりやすく解説します。まず,「経験サンプリング法(ESM)とは?」のセクションでは,この調査手法の概説と,その魅力について紹介するところからスタートします。続いて,「ESMデータを収集する」のセクションでは,ESM調査用ソフトウェアExkuma(https://exkuma.com)の使い方について,実演つきで説明します。さらに,「ESMデータを分析する」のセクションにおいては,マルチレベル分析の基本と,SPSSによるデータ解析のしかたについて解説します。このチュートリアルを通じて,初学者の方には「自分にもできる」「やってみたい」という自信と期待を持っていただけるように,そして経験者の方はさらに発展した知識や実践的スキルを得られるように,サポートすることを目指します。

  • 豊田 秀樹, 馬 景昊, 佐々木 研一
    セッションID: TWS-014
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    本チュートリアル・ワークショップは,心理学関係者や大学院生を対象に,人工知能の基本的な概念や技術を紹介する。特に近年発展が目覚ましい自然言語処理と敵対的生成ネットワーク(GAN)に焦点を当てて解説する。自然言語処理では,昨年11月にOpenAIが公開したChatGPTが人間と自然な会話が可能なことで注目を集めている。GANでは,MidjourneyやDALL·E 2のような驚異的な画像生成能力を持つ技術が発表されている。これらの技術は,今後様々な分野での応用が期待されている。このような技術の内部構造の本質を知っておくことは,心理学者としての基礎知識だけでなく,これからを生きる現代人としての良質な教養となり得る。このワークショップでは,理論的な知識だけでなく,実践的なスキルも習得できるように,Pythonを用いたデモンストレーションも行う。これにより,技術の進化に対応した研究や教育が求められる現代において,参加者の皆様が自らの研究や教育活動に人工知能を適用する方法を理解し,興味を持って取り組めるようになることを目指す。

  • 樫原 潤, 小杉 考司, 菅原 大地, 国里 愛彦
    セッションID: TWS-015
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    心理ネットワークアプローチは,社会学・物理学・神経科学など学問領域を横断して発展してきたネットワーク科学(複雑系科学)の発想や方法論を心理学に応用し,人間の心の複雑性を数理モデルの力で「見える化」しようとするものである。このアプローチは,2008年に提唱されて以降爆発的な勢いで発展し,いまでは「心理療法のテーラーメイド化」「『態度』『パーソナリティ』等の複雑な心理変数の視覚化」といった様々な文脈で活用されるに至っている。

    本セミナーでは,縦断データを用いたネットワーク分析に焦点を当て,その分析手順と意義を解説していく。具体的には,縦断データと分析のタイプ分けをまず示し,グラフィカル・ベクトル自己回帰モデルや時変ネットワークモデルなど主要な分析モデルを取り上げ,その用途や推定法の詳細を解説する。その上で,先行研究やサンプルデータに基づき,心理学の複数の領域にわたる分析例を示していく。具体的なRのコードも示しつつ,その分析を実施する目的や意義にまで踏み込んで議論することで,予備知識がほとんどない参加者でも縦断データに対するネットワーク分析の概要を理解できるように促していく。

  • 大久保 智紗, 山田 圭介, 寺島 瞳
    セッションID: TWS-016
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    STEPPSは,BPDを対象としたグループ療法で,主な理論的な背景は認知行動療法である。他の治療法と比較してSTEPPSに特徴的な点は,グループ療法であること,約半年と比較的短期間で終了すること,などにある。1回約2時間,全20レッスンで実施する(Blum et al., 2017)。STEPPSは,米国や欧州など多くの国々で導入され,BPD症状や抑うつ症状の低下,ネガティブ感情経験の減少,自傷や自殺企図の減少などから,その有効性が示されている(寺島他,2019)。発表者らはSTEPPSの日本語版を作成し,感情の調整に困難を抱える大学生を対象に効果を検証している。そこで,本ワークショップでは,STEPPSの概要,各レッスンの具体的な進め方,実施上の工夫などについて紹介する。

  • 村松 秀樹
    セッションID: TWS-017
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    日本心理学会の機関誌に,オートエスノグラフィに関する論文が掲載された(Poerwandari, 2021)。近年,オートエスノグラフィは,心理学や教育学など多様な研究分野で認知され,日本でもオートエスノグラフィの論文が発表されている。オートエスノグラフィとは,研究者自身の個人的な一人称の経験を用いた質的研究であり,個人的な経験から生起する主観的な解釈が,客観的な説明を求める実証主義的な立場と対照的であると指摘されている(Méndez, 2013)。量的研究と科学的立場が異なる部分があるため,研究者の間で敬遠されている問題がある。本チュートリアル・セミナーでは,このような問題を少しでも解消するために,日本心理学会でオートエスノグラフィの研究をポスター発表した経験者が,実際の研究内容を事例として,分析的オートエスノグラフィの紹介を行うことを目的とする。そして,参加者のオートエスノグラフィの理解を少しでも促進させることに意義があると考えている。

  • サトウ タツヤ, 安田 裕子
    セッションID: TWS-018
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    TEA(複線径路等至性アプローチ)は2004年にそのアイディアが公表されて以来,心理学のみならず教育学・保育学・看護学・日本語教育学など様々な分野において研究が行われている。ブラジルやアジア諸国においても使用されている。そして,TEAそれ自体も理論的・実践的に常に変貌を遂げている。 このワークショップでは,第一に,基礎編に引き続き,TEAの基本的概念について確認したあと『ワードマップ 質的研究法』(新曜社)を用いて質的研究におけるTEAの位置を確認する。第二に,簡単なインタビューデータを例示して,現在,開発中である「データ分節化を徹底した後に行う分岐点分析」についてその考え方ややり方について説明する。第三に,最近の理論的進展について解説する。関係の質を構造化して理解する関係学,フランスの哲学者シモンドンの展結(Transduction),スイスの心理学者・ジットゥンのイマジネーション(想像/構想)について,それぞれの考え方を概説したのちTEAに活用する可能性について考えていく。本チュートリアルではTEMの応用の可能性について学ぶ。基礎編とあわせて受講いただきたい。

小講演
  • 杉山 智風, 小関 俊祐
    セッションID: L-001
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    学校現場における予防的取り組みの1つに,学級集団を対象とした認知行動療法に基づく集団ストレスマネジメントが挙げられる。しかしながら,心理臨床領域における「予防」を目的とした介入実践研究において,「予防的効果」をどのような手続きで,どのような基準に基づき評価するのかという点は,これまで十分に議論されてこなかった。このような課題に対して,アウトカム変数に影響を及ぼす媒介要因をプロセス変数として設定し,効果的な変容が確認されれば,予防的効果の実証性と再現性の向上につながることが期待される。発表者は,高校生を対象とした集団ストレスマネジメントの実践に際して,プロセス変数の選定,介入プログラムの開発,効果検証などの研究を行った。具体的な介入プログラムとしては,認知的変数として「被援助志向性」,行動的変数として「行動活性化/回避」の効果的な変容を重視し,援助要請に関する心理教育や行動活性化療法を実施した。これにより,プロセス変数の効果的な変容による予防的効果について検討を行っている。本小講演では,一連の研究と,今後の展望について報告する。

  • 水原 啓太, 入戸野 宏
    セッションID: L-002
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    呼吸は息を吸うことと息を吐くことが周期性をもって繰り返される自律神経活動である。呼吸には他の自律神経活動とは異なったユニークな特徴がある。それは,自律性の活動でありながら,ある程度随意的に調整できることである。心身の緊張を緩和したりストレスを軽減したりするために,呼吸の深さやペースに注目した研究が数多く行われてきた。近年になって,呼吸位相に注目した知見が増えつつある。本講演では,最初に呼吸位相が外界事象の知覚や認知に及ぼす影響について検討した先行研究を概観する。次に,呼吸位相によって情動視覚刺激の検出感度が変わるかどうかを検討した講演者の一連の研究を紹介する。先行研究にならって表情弁別に注目し,左右に並べて提示された2つの顔から恐怖表情を選択する二肢強制選択課題を行ったところ,息を吐いているときと比べて息を吸っているときのほうが検出成績がよかった。同時に測定した事象関連電位の波形には呼吸位相間で差がなかったことから,検出成績の向上は皮質下過程で生じる可能性が示唆された。最後に,呼吸をはじめとする生体周期現象の位相が心理と行動に与える影響を研究する意義について論じる。

  • 鈴木 文子, 池上 知子
    セッションID: L-003
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    同性愛者に対する態度において,男性異性愛者の方が女性異性愛者よりも同性愛者(特にゲイ)に対して否定的であるといった性差が多くの研究で示されている。その理由の一つとして,男性異性愛者はジェンダー自尊心(性別に基づく自信や誇り)を維持防衛するために同性の同性愛者であるゲイに対して否定的態度を示すが,女性異性愛者においてはそうした心理機制が確認されず,ジェンダー自尊心の防衛機制の有無によって同性愛者に対する態度に性差が生じるのではないかと考えられている(Falomir-Pichastor & Mugny,2009)。

    本講演では,なぜ女性異性愛者においてジェンダー自尊心を維持防衛するためのレズビアンに対する否定的態度が,男性異性愛者のゲイに対する否定的態度のようには確認されないのか検討した結果を報告する。異性愛者の性別にかかわる意識が同性愛者に対する態度をどのように規定しうるのか考察し,同性愛者に対する偏見や差別の解決に向けた提言を行う。

  • 古賀 佳樹, 川島 大輔
    セッションID: L-004
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    現在国内外でゲーム依存の問題が注目されてきている。2019年にはWHOが「ゲーム障害」を診断基準に採用するなど,世界的にゲームの問題使用を病理として扱う動きがある。並行して,学術的な研究も欧米を中心に進められてきたが,未だ複数の課題が残されている。具体的には,1)日本人を対象としたゲーム依存測定尺度が十分に整備されておらず,そのため国内での研究蓄積が十分でないこと,2)ゲーム依存の強い関連要因である抑うつや,その最も深刻な関連リスクである自殺リスクとの関連について十分な検討が行われていないこと,3)ゲーム依存への介入法について学術的な検討が少ないこと,4)ほとんどの先行研究では具体的な依存プロセスや回復プロセスについて検討が行われていないこと,があげられる。

    本講演では,上記の課題を解決するために展開した,6つの実証的研究について紹介する。日本でのゲーム依存の実態把握および適応との関係について,量的・質的研究両方の観点から検討を行い,また,一般サンプルと同時に,ゲーム依存経験者に対しても調査を展開した成果を発表する。

  • 米谷 充史, 大坪 庸介
    セッションID: L-005
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    近年,生活史理論に基づく心理学的研究が増えている。それらの研究は,幼少期環境に応じた表現型可塑性(例えば繁殖戦略の調整)が進化したと仮定している。この説明によると,幼少期の逆境は成人後の環境の不確実性の手がかりとなる。そのため,幼少期に逆境を経験した人は,不確実な環境への適応として,高い衝動性や早い繁殖開始といった傾向を示すとされる。実際に,幼少期の社会経済的地位が低いほど,成長後の衝動性が高いことや,女性において初産年齢が低いことが報告されている。しかし,幼少期環境に応じた戦略の調整が進化するためには,これらの行動傾向が,幼少期の逆境を経験した個人の繁殖成功度を高める一方,それを経験しなかった個人の繁殖成功度を低めていなければならない。ところが,講演者の研究では,これらの行動傾向と繁殖成功度に関して想定される交互作用効果は認められなかった。例えば,女性の場合,幼少期環境にかかわらず繁殖開始が早いほど,生涯にもうけた子の数が多かった。こうしたヒトにおける幼少期環境に応じた表現型可塑性の進化に否定的な研究結果を踏まえ,本講演では心理学における生活史理論の妥当性を批判的に検討する。

  • 入山 茂, 桐生 正幸
    セッションID: L-006
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    人は,素朴理論(日常生活の経験から得た物事に関する知識や概念)に基づき,直感的な判断を行う場合がある。こうした判断にはバイアスが含まれ,誤った判断に繋がる可能性がある。一方,バイアスのかかった判断は修正可能であることも指摘されている。近年,不審死の死亡様態(自然死・事故死・自殺・他殺)を巡る専門的な判断において,故人に由来する文脈情報(例:人種)が素朴な判断に影響する可能性が示唆されている。これは,誤った死亡様態の判断に繋がり,社会的なリスクとなる可能性がある。しかし,先行研究では,文脈情報の規範的な取り扱いや人々のイメージ,それが死亡様態の判断に与える影響について十分な検討が行われていない。また,文脈情報を用いた死亡様態の判断のバイアスに関する修正の可能性についても検討されていない。そこで,本研究では,自他殺の判断を巡る検視場面での他殺の見逃しの問題を題材として,規範,記述,処方の視点から,文脈情報と自殺に対する素朴な判断の関連について検討した。これらの結果を基に,本講演では,検視場面における文脈情報の影響と取り扱い,及び素朴理論に基づく自殺判断の傾向とその修正について提言する。

  • 有光 興記, 伊藤 義徳
    セッションID: L-007
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    本講演の目的は,コンパッションに関する心理科学について,測定尺度研究,介入研究,さらにその文化差の観点からレビューすることである。コンパッションは,他者の苦しみに気づき取り除きたいという願いであり,さらに自分に向けること(=セルフ・コンパッション)でも気分の向上や幸福感の増進などウェルビーイングに寄与することが様々な研究によって示されている。近年の測定尺度に関する議論や文化差の存在について,本年発刊されたHandbook of self-compassionにある発表者の研究を交えて紹介したい。また,自他へのコンパッションは瞑想実践や様々なワークを組み合わせたプログラムによって向上させることができ,児童から老年,不安症やうつ病から統合失調症といった精神疾患患者など,広範囲な対象者で効果が示されている。コンパッションに基づく介入の研究を包括的にレビューするとともに,介入において注意すべき点を,発表者自身の研究と実践も含めて解説する。本発表によってコンパッションに関する心理科学研究の理解を深めてもらい,さらなる研究の発展の端緒としたいと考えている。

  • 残華 雅子, 青山 謙二郎
    セッションID: L-008
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    これまでの研究で,3歳児は繰り返し他者から誤った情報を与えられても,従い続ける傾向があることが報告されてきた。このような傾向について,先行研究では幼児が認知的に未成熟であるために,誤った情報を正しいと信じ従っているとされてきた。一方で,教えられた情報が誤りだと気づいていても,他者にいい印象を与えるためや,悪い印象を与えないためといった社会的目標から,その情報に従ってみせている可能性は考慮されてこなかった。そのため,本研究では他者からの誤った情報に繰り返し従うという幼児の傾向について,幼児が社会的目標のために誤った情報に従っている可能性から検討を行った。

    本研究において,まず研究1では実験者に与える印象を,研究2では保護者に与える印象を考慮することの影響について検討を行った。その結果,研究1,2では幼児が他者に与える印象を考慮し,誤った情報に従っていることが示唆された。研究3では実験者に与える影響の重要性を操作することで,他者の印象を考慮することの影響について検討を行った。その結果,仮説を支持する結果は得られなかった。本講演では以上の研究結果について報告を行う。

  • 太田 直斗, 北神 慎司
    セッションID: L-009
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    Roschらをはじめとする視覚的なオブジェクトの意味処理の仕組みを扱った研究では,カテゴリのレベルによって異なるオブジェクト認識の仕方について,これまで多くの研究がなされてきた。他方,特に人工オブジェクトについては,そのオブジェクトの機能を反映する属性が,そのオブジェクトの概念表象において中核を成すとする立場がある。オブジェクトのカテゴリ処理研究の文脈においては,オブジェクトの機能に関わる知見は参照されることが少なく,オブジェクトのカテゴリ処理における機能の認識の仕組みの多くは明らかになっていない。本小講演では,人工オブジェクトのカテゴリ処理における機能の認識の仕組みを明らかにするために行なった一連の研究を報告する。主な研究成果として,機能を反映するカテゴリは抽象的なカテゴリの中でも速くアクセスされること,機能を反映するカテゴリの活性化は他のカテゴリの活性化と並行すること,機能を反映するカテゴリの活性化の背景には,状況に応じて物体操作に関する運動情報が関与することが示された。さらに,これらの知見を踏まえ,人工オブジェクトの機能の認識の仕組みについて総合的な考察を行う。

  • 讃井 知, 上市 秀雄
    セッションID: L-010
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    犯罪予防行動の促進に向けた介入策として情報発信が活発に行われているが,その内容は犯罪の発生状況や被害リスク認知を高めるための注意喚起が中心であり,エビデンスに基づく戦略的な介入ができているとはいい難い。また,既存研究では,被害経験や,被害伝聞,犯罪不安等といった,個人の認知・感情要因が行動の規定因として主に検討されてきた。

    しかし,家族や地域の安全といった「自分以外の誰かを守る」ための行動でもある犯罪予防行動は,守護対象者との普段の関係性や,家庭内やコミュニティ内で共有された危機感などの共通意識,地域社会における自身の役割意識等の,個人がおかれた社会的な文脈が影響する可能性が高い。さらに,我が国の治安水準が比較的良好であること,注意喚起による危機意識は必ずしも持続性がない事,危機感や不安を悪戯に煽るような情報発信が与える国民への精神的な負荷をふまえると,必要な時に適切な犯罪予防行動を喚起するための必要十分な介入が望まれる。

    これらのことを踏まえ,本発表では,注意喚起や直接的な依頼,サンクションではなく,個人が置かれた社会的な文脈を活用した自然な介入方策について行った検討の報告を行う。

  • 平野 智子, 藤 桂
    セッションID: L-011
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    昨今の社会構造の変化に伴い,訪問看護への需要が高まっている。しかしその担い手である訪問看護師は様々な心理的困難を経験しやすく,病棟看護師と比べ離職率が高いことも報告されてきた。ゆえに訪問看護師の人材定着に必要な要因の探求は重要な社会課題であり,多様な困難といかに折り合いをつけているかという心理的過程の分析,困難の最中にある訪問看護師への効果的な介入方法の開発,訪問看護師が健やかに勤務できる職場のあり方の解明は,心理学の成しうる大きな社会貢献の一つといえる。講演者は自身の勤務経験を基に“ケアリングの相互性と継承性”という観点から,支援者としての訪問看護師をどのように支援できるかについて実証的研究を蓄積してきた。小講演では一連の研究成果を,(1)訪問看護師が経験する心理的困難とその中での意味づけのなされ方に関する現状,(2)心理的困難をもたらした経験の意味を捉え直し,以後の支援業務に結びつけていくまでの心理的過程,(3)訪問看護師に対する新たな心理支援メソッドの効果検証,(4)コロナ禍における訪問看護の実態と精神的健康,(5)支援業務の継続に資する職場・組織要因の検討の5点から紹介する。

  • 高山 智史, 佐藤 寛
    セッションID: L-012
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    アスリートのメンタルヘルスの問題がメディア等を通じて広く認識され始めている。メンタルヘルスの問題のなかでも抑うつ症状は,アスリートに顕在化しやすいとされ,この問題に対する心理学的支援に関心が向けられている。アスリートの抑うつ症状とスポーツパフォーマンスの双方を改善できる心理学的支援としては,アスリートの認知と行動に働きかける認知行動療法が有益であると考えられる。完全主義は,抑うつ症状とパフォーマンスにそれぞれに関連するとされる認知的要因であり,完全主義に焦点を当てた認知行動療法に基づく心理学支援が期待される。本小講演では,アスリートの抑うつ症状を取り上げ,完全主義に基づく支援の実現に向けた基礎研究の知見を提供する。具体的には,(1)アスリートの抑うつ症状の研究動向の展望,(2)我が国におけるアスリートの抑うつ症状の実態,(3)アスリートの抑うつ症状とスポーツパフォーマンスの双方の改善に及ぼす完全主義の影響である。

  • 岸田 広平, 石川 信一
    セッションID: L-013
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    近年,学校教育現場における子どものメンタルヘルスの問題が注目されている。特に,小中学校の不登校は増加の一途をたどり,過去最多の年間244,940件が報告されている(文部科学省,2022)。当該調査によると,不登校の要因として「無気力・不安(49.7%)」が最も多く報告されている。無気力や不安に関連する精神疾患として,不安症や抑うつ障害がある。これまで発表者は,子どもの不安症と抑うつ障害に対する診断横断的な認知行動療法として一連の研究を積み重ねてきた。診断横断的介入とは,複数の精神疾患や心理社会的介入を扱うことのできる単一プログラムや介入技法を指す。これまでの研究では,子どもの不安症と抑うつ障害のリスク要因と保護要因の検討,診断横断的な認知行動療法プログラムの開発,当該プログラムの有効性検証のためのパイロットランダム化比較試験,を進めてきた。本講演では,子どもの不安症と抑うつ障害に関する一連の研究発表を行い,学校教育現場で急増する不登校支援も含めた今後の研究や実践の方向性について議論したい。

  • 浅見 祐香, 嶋田 洋徳
    セッションID: L-014
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    状態像の多様さから再犯防止対策の体系化が困難であるとされる窃盗犯の中には,依存症の一形態という理解が優勢である窃盗症(クレプトマニア)が含まれることが指摘されている(Grant, 2006)。窃盗症は,窃盗行動への従事そのものが主な目的であり,それによって得られる緊張の緩和や快感などによって窃盗行動が維持されている点において,物品など個人的利得が主な目的である万引き犯とは区別されている(APA, 2013)。このような窃盗症は,高頻度に繰り返されることによって,一連の窃盗行動のモニタリングやセルフ・コントロールが非常に困難な状態になることが想定されており(Grant, 2004),窃盗関連刺激から窃盗行動に至る自動的な反応連鎖が形成されると理解することが可能であると考えられる。自動的な反応連鎖に関しては,強い衝動である渇望や,結果期待などの認知過程の影響があることが指摘されているものの,実証的な検討は行われていない現状にある。本講演においては,窃盗症患者および万引き犯を直接対象として,窃盗行動の自動的な反応連鎖を維持する要因を実証的に明らかにすることを目的とした一連の研究の結果を報告する。

  • 田中 圭, 沢宮 容子
    セッションID: L-015
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    私たちの日々の生活は,深くは知らない職場の同僚,習い事で会うクラスメイト,帰宅時に立ち寄るコンビニの顔見知りの店員など,“その場限りの付き合いや雑談を交わす程度の付き合い”である浅い人間関係で溢れている。浅い人間関係は,インターネットやSNSの普及によって再注目されている「弱い紐帯の強さ」(Granovetter, 1973)など,親密な人間関係とは異なる有益性があり,近年そのポジティブな側面が強調されつつある。しかし,浅い人間関係を円滑に運営するための技術についてはまだ明らかにされていないという問題がある。講演者は,浅い人間関係の有益性を享受するためにどのようにして積極的に関係を維持するかという課題についてソーシャルスキルの観点から検討を行ってきた。具体的には,ソーシャルスキル生起過程モデル(相川,2009)に基づき,浅い人間関係で用いられるスキル尺度を開発した。そして,ソーシャルスキルに関する精神的健康への影響過程を説明した既存のモデルにどのように影響を及ぼすか検証した。講演では,一連の研究成果を報告する。

  • 上田 紗津貴, 佐藤 寛
    セッションID: L-016
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    摂食障害は思春期・青年期の女性を中心に広まっている,心身に深刻な影響を与える精神疾患である。コロナ禍において,摂食障害や食行動の問題が増えていることも報告されている。死亡率が高く慢性化しやすいことから,摂食障害に対する早期の治療や予防が求められている。摂食障害の予防的介入として,海外では「不協和理論に基づく介入(Dissonance-based intervention; DBI)」が推奨されている。DBIは,認知的不協和を起こすことで痩せ理想を低減させ,身体イメージの受容を目指す集団形式の介入プログラムである。講演者は,女子大学生における摂食障害の予防的介入として,DBIを日本に導入するための研究を進めてきた。本講演では,摂食障害予防に関する研究の動向について紹介するとともに,女子大学生における摂食障害のリスク要因の検討や,女子大学生を対象とした摂食障害の予防的介入の有効性検討に関する一連の研究成果について報告する。最後に,思春期・青年期の女性における摂食障害の予防に関する課題や展望について議論したい。

  • 平岡 大樹, 野村 理朗
    セッションID: L-017
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    本発表では,養育者の心理・行動・神経学的な変化及びそのメカニズムについての研究成果を共有する。養育行動やそれを動機づける乳児刺激に対する反応性に関する先行研究の多くは,その個人差に焦点を当ててきた。しかし,養育者の心理・行動が形成される過程を深く理解するためには,養育者個々の心理・行動・神経の個人内変化についての洞察が必要である。その一つとして,認知資源の利用可能性による反応の変化が注目される。具体的には,養育者が直面する認知的負荷が変動すると,それが乳児刺激に対する共感や行動反応にどのように影響を及ぼすのかを考察する。さらに,産後の時間的進行に伴う変化も重要であり,この変化には乳児刺激や産後の環境への適応過程が反映されていると考えられる。これらの問いを探求するため,実験的に認知的負荷を操作し,乳児刺激への反応性の変化を調査した一連の研究,そして,養育者の心理・行動・神経の個人内変化を追跡する縦断研究を紹介する。

  • I-Ting Huai-Ching Liu Soraya, de Almeida Igor
    セッションID: L-018
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    Japan is an interdependent society where importance is placed on maintaining harmony and “fitting in”. However, in some cases this may be difficult due to circumstantial reasons, such as failing to find a full-time job during economic recession. In other cases, people who have a stigmatized chronic illness may risk “standing out”. The 3 studies focus on circumstantial and personal health reasons behind the risks of “not fitting in” or “standing out”, and how individuals cope with them in Japan’s interdependent society. The first study examines the compliance motivation of students and Freeters when facing a marginalization risk situation evoked by priming. The second study investigates psychosocial factors that may be associated with the health and well-being of people with diabetes mellitus in Japan. The third study uses a bottom-up approach by interviewing young people aged 20 to 45 on their realities of living with diabetes mellitus, and explore factors relevant to their health outcome. Together they show how the Japanese society can be more open for different people to “fit in”.

  • 廣瀬 愛希子, 濱口 佳和
    セッションID: L-019
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/27
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    現代は夫婦関係にかかわる問題が多く生じており,その子どもへの影響が懸念されている。両親間の関係の影響に関する理論として情緒的安定性理論(emotional security theory:以下,ESTとする;Davies & Cummings, 1994)がある。ESTでは,両親間の関係と親子関係との関連を重視しており,夫婦関係が養育や親子関係における子どもの情緒的安定性にも影響することで,結果的に子どもの適応へ影響を与えると想定する。また,当領域の研究では,両親間の葛藤ばかりが着目されてきたが,近年は両親間の関係のポジティブな側面も子どもの適応にとって重要であることが指摘されている。そこで本研究では,両親間の葛藤と情緒的交流を取り上げて,両親間の関係が親子関係と関連しながら子どもの適応に与える影響について検討した。具体的に,夫婦間葛藤の主要尺度であるConflict and Problem-Solving Scaleの日本語版を作成したのち,ESTの考えに基づきながら,両親間の葛藤と情緒的交流が,養育や親子の情緒的関係に与える影響を検討した。本講演では,これら一連の研究について報告を行う。

1.原理・方法
2.人格
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