1970年,ネパールの水産局長タッパ博士から,日本の皇太子殿下のご研究用として,同国産の多くの魚類標本(ホルマリン漬)が殿下に献上された。それは,1969年5月から7月にわたって,東ネパールのビラトナガールにある養魚兼配苗センターと,中部ネパールのポカーラにある湖水開発企業などの手によって,広く採集されたもののようである。東宮御所の魚類研究室で,それらの魚類標本を整理されたところ,16体のエビが混じっていた。皇太子殿下の思し召しにより,そのエビを私の研究用に賜わることになり,東宮職から1972年4月郵送到着した。私は寡聞にして,ネパールのエビについて報告されたものを知らないので,多大の興味関心をもってつぶさに観察した結果,それらの内4体はMacrobrachium australe,3体はM.palaemonoides,5体はM.sintangenseであり,4体は新種と認めM.nepalenseと命名した。この新種は,従来ヒマラヤ山脈の水域(ダージリングその他)からのみ知られていたM.hendersoniに以ているが,主として第2胸脚の「はさみ」の特徴によってそれと異なる。すなわち,新種にあっては,掌節の内側下辺がやわらかな毛で密におおわれ,可動と不動両指の表面に縦溝が1つも見あたらないのである。
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