箱庭療法学研究
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33 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 杉山 由利子
    2020 年 33 巻 2 号 p. 3-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/28
    ジャーナル 認証あり

    本論文では,個人的無意識と集合的無意識が渦巻く闇を生きてきた女性(60代主婦)の事例を報告する。彼女はそうした闇を「黒」と呼び,「黒」を忌み嫌っていたが,多量の夢とヴィジョンに導かれて心の全体性の回復へのプロセスを歩んでいった。「白」くあることに囚われていた彼女は,まず「黒」を認識しはじめ,女性性と男性性の獲得を経て,白い光の中に入り,宇宙と一体化するという神秘的な体験をする。その結果として,彼女は今まで求め続けていた“大いなるもの”が,いつでも自分の内に存在するということに気づいていった。そして「白・黒」の両方を抱えて生きることができるようになり,家庭の中で生きることにも幸せを感じられるようになっていった。

  • 発達障害「的」事例の検討
    松井 華子
    2020 年 33 巻 2 号 p. 15-26
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/28
    ジャーナル 認証あり

    近年,独特なコミュニケーションのあり方などから,発達障害を抱えているように見えるが生物学的な由来を持たないと思われる事例に出会うことが増えている。これを検討するにあたり,情念という概念が有用である。情念とは「受動と能動,自然と意志,身体的なものと精神的なものとが関わり合う場」である(中村,1994,1997)。本論文では,発達障害的なあり方が見られたクライエントが報告する夢の変化と漢字の書き間違いを分析し,クライエントの内側に情念が根づいていくとともに,自他の分化が進み,共通感覚が機能して受動的でもあり能動的でもある生き方が獲得されるプロセスについて考察した。

研究報告
  • 椙原 彰子
    2020 年 33 巻 2 号 p. 27-38
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/28
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,先天性心疾患のため長期入院を経験した思春期男児の箱庭療法過程を報告する。彼は,学校生活での不適応感が強くなり,Tourette障害の悪化や不安に伴う身体症状を呈した。箱庭療法では物の上に物を乗せるという表現から,「落ちる」「墜落」という表現へと変わった。地上で戦うものやそれを見ている人が出現し,客観的な視点が芽生えた。徐々にチックは少なくなり,「相談がしたい」と明確に述べた。その後の箱庭表現では,混とんとしているものが「降り立つ」ことによって「地に足がついた」。主体の確立によってこれまでの生い立ちを振り返り,身体をめぐる葛藤を表現した俯瞰的な箱庭表現になっていった。このように,長期入院を経験した男児にとって,目で見て実感できる箱庭療法をおこなうことは,発達的側面が促進され,自身の病についての葛藤を表現することやそれらを調整することに有効であった。

  • 樋口 亜瑞佐
    2020 年 33 巻 2 号 p. 39-50
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/28
    ジャーナル 認証あり

    本研究では児童養護施設に入所した,実の母からの虐待を受けて育ち,非行・虞犯などの不適応問題を抱える思春期女子の心理療法過程を報告する。支援が困難とされた本事例では,非行化するクライエントが制作する箱庭の表現から内的状態を理解した。箱庭にセラピストの名前を記すことによって,クライエントは象徴的な死と再生を体験し,その後の生への決意を新たにすることを可能にした。本事例のように虐待を経験し,その後非行化して施設入所するケースの場合,不適応行動でしか葛藤を表現できない者もおり,箱庭療法はこうしたケースにとって大いに治療的意義をもつものだと言える。箱庭療法過程を通じて理解したことをチームにコンサルテーションしながら対応のコンセンサスを明らかにした本事例からは,施設のセラピストの可能性について新たな知見を得ることができたと考えられる。

  • 身を投じ,受け止め,内在的に理解すること
    江野 肇
    2020 年 33 巻 2 号 p. 51-61
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/28
    ジャーナル 認証あり

    児童養護施設でのプレイセラピー(遊戯療法)では,しばしば遊びの中に激しく残酷なイメージが現れる。本稿では筆者のケースを報告し,このような激しく残酷なイメージをイメージの内側から内在的に理解することを試みる。これは,このようなイメージを,安易に彼らの過去の体験や,実際の家庭環境に還元することとはまったく異なる。最初,箱庭で生じた“砂の渦”は,クライエントの“心の容器”の脆弱さと,母性へのアンビバレンスを表していた。しかし,激しい暴力による拷問の遊びを筆者が繰り返し受け止めることによって,次第にクライエントは対等な戦いを行えるようになり,自分自身の内に葛藤を抱えられるようにもなった。よって,たとえ暴力的なイメージであっても,セラピストが身を投じることで共にそれを体験し,そのイメージを内在的に理解していくことが重要であることが示唆された。

外国語論文
  • 佐渡 忠洋
    2020 年 33 巻 2 号 p. 63-70
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/28
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,風景構成法の構成型の観点から,今日の子どもたちの発達的移行を検討することである。2015~2018年の間に風景構成法を,東海地方の幼稚園児から高校生まで計3,151人(1,566人の少女と1,585人の少年)に実施した。風景構成法のすべての画は,高石の構成型の分類法に,「未分化型」の指標を追加して評価した。分析では8つの構成型と14学年との関係を検討した。結果,現在の子どもの発達の転換点が4つ見出された。それは,アイテムを形作る能力(年長),アイテム間を結びつける能力(小学2~3年),自我意識の能力(小学5年),構成の整合性を改善する能力(中学2年)に関するものである。

  • 佐渡 忠洋
    2020 年 33 巻 2 号 p. 71-77
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/28
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,風景構成法の構成型の観点から,今日の子どもたちの発達的移行を検討することである。2015~2018年の間に風景構成法を,東海地方の幼稚園児から高校生まで計3,151人(1,566人の少女と1,585人の少年)に実施した。風景構成法のすべての画は,高石の構成型の分類法に,「未分化型」の指標を追加して評価した。分析では8つの構成型と14学年との関係を検討した。結果,現在の子どもの発達の転換点が4つ見出された。それは,アイテムを形作る能力(年長),アイテム間を結びつける能力(小学2~3年),自我意識の能力(小学5年),構成の整合性を改善する能力(中学2年)に関するものである。

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