手話コミュニケーション研究会論文集
Online ISSN : 2758-3910
3 巻
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  • ―特徴点の抽出と遷移の検証―
    木村 勉, 神田 和幸
    2019 年3 巻 p. 1-4
    発行日: 2019/05/01
    公開日: 2023/05/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    筆者らはOpenPose[1]から得られたx-y 座標の2 次元情報を用いてディープラーニングによる手話認識を行なった. その結果,75%の認識率が得られたが,認識率が低いデータを見ると奥行き情報(z 軸)のデータ不足が認識に影響 を与えたのでは無いかと結論づけた.ステレオカメラを用いれば解決できるかもしれないが,ステレオカメラを用意 するのは,研究成果を広く一般に普及させることを考えるとあまり現実的ではない.そこで筆者らは現状の2 次元デ ータから類似手話の識別が可能かどうかを考察してみることにした.本論では神田・木村(2019a)[5]の枠組みを活用し,像素である動体として肩,肘,手首を設定,その座標から肩,肘,手首の各距離を計算し,時間的な軌跡の変化を検出し,速度をグラフのパターンで表示することで手話の動きを測定した.この分析により,表1 には記述されていない遷移の重要性を指摘することができた.上下運動がy 軸の変化で示されるのは予測通りであったが,前後位置関係も遷移の時間的前後により距離パターンが変化することから,本論の範囲での比較においては推測可能となった.
  • 神田 和幸
    2019 年3 巻 p. 5-8
    発行日: 2019/05/01
    公開日: 2023/05/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本稿では文字記述のまま、筆者の手話経験を元に解釈し、その特徴を分析しようというものである。手話語彙の現在形を見てみると <息子・娘>(<子>)は昔と変わらない。<男><女>が変化していないので、変化しそうな部分は<産む>の動きだが、<産む>も変化していない。 <兄弟姉妹>は変化がある。現在形は <兄>=中指を上に上げる <姉>=小指または薬指を上に上げる <弟>=中指を下に下げる <妹>=小指または薬指を下に下げる <姉>と<妹>では、数十年前では薬指が主流であったが、現在は小指が主流になっている。 指の変化だけを見ると男子の<兄><弟>では親指から中指に変化し、女子の<姉><妹>は小指から薬指に変化し小指に回帰している。この変化過程を見ると、兄弟姉妹の表現をするのに、両親などと区別するため、指を変えるという変化が起こり、親指を中指に、小指を薬指に換えるという過程があった。なぜ中指と薬指が選ばれたのか、という理由は明確ではないが、親指には強い、小指には弱い、という意味が包含されているため、次に強い指、弱い指として選ばれたということと推測されるが、証拠はない。しかし薬指を使用する語彙は極めて少なく、動作が難しいため、元の小指に戻ったと推定される。薬指への変化は変化規則の過剰般化であったかもしれない。 指の変位より大きな変化は<年長・年少>であった掌が消滅し、動きだけになったことである。同語彙集の段階では<兄弟姉妹>は複合語であったものが、融合化により1語となる段階で掌が消滅したと考えられる。元々<年長・年少>において掌にほとんど意味はなく、上下運動の意味を示すための抽象的な代名詞のようなものであり、融合段階で消滅しても意味に変化がないからである。
  • ―平面データと立面データの比較―
    神田 和幸, 木村 勉
    2019 年3 巻 p. 9-12
    発行日: 2019/05/01
    公開日: 2023/05/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    神田(2019b)[1]では,考察において,伝統的な手話学の枠組みである「手話の音素」による類似手話の成分分析とOpenPose[2]による光学的なデータ分析が対比された.これまでの手話の光学的分析は手話の音素を先験的情報として画像処理をしており,モーションキャプチャ(mocap)を用いた分析も同様であった.このため手型データ取得に拘り,大がかりな仕組みと設備を用意し,人的資源と高額資金を要してきた.それはそれなりの研究価値をもつと考えられるが,反面研究者数が限定されるという弱点があった.本論では次の仮説を検証した. 仮説 片手手話では手首に変化が大きく表れる 本論での検証の結果,手話の動きには特徴的な成分があり,その成分をコアにすることで,認識率を高める可能性があることが示された.とくに本論が対象とした片手手話においては右手首の動きに特徴が出ることが示された.本論の着想は髙橋(2019)の弱点を補強するという視点であるから,検証対象の手話を認識率の低かった語彙に限定している.そのため手話全般に敷衍できるかどうかは,他の語彙についても検証を要するであろう. 本論ではz軸(前後)方向の重要性も示された.本論ではOpenPoseによるxy軸データとmocapデータの比較であったが,z軸による分析も必要性も暗示している.この方法は実験室のような環境で録画と同時に分析する場合には有効だが,社会実装する段階や,既にある大量のビデオ画像を活用するには適用できない.新たに2カメラによる大量の手話データをとることは容易ではない.2次元座標データから3次元データを推定する手法の開発が望まれる.それには運動生理学的知見を取り込む必要があろう。 本論の結果は伝統的手話学の枠組みを援用した手話の工学的分析は非能率であることも副次的に証明したともいえる.本論で活用したmocapやOpenPoseといった最近の技術を活用するには,伝統的手話学の枠組みである手話の音素に拘らず,新手話学の像素の概念利用が有効であることも示されたと考える.
  • 木村 勉, 神田 和幸
    2019 年3 巻 p. 13-17
    発行日: 2019/05/01
    公開日: 2023/05/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    筆者らはOpenPose から得られたx-y 座標の2 次元情報を用いてディープラーニングによる手話認識を行 なった.その結果,75%の認識率が得られたが,認識率が低い手話を見ると奥行き情報(z 軸)のデータ不 足が認識に影響を与えたのでは無いかと考えた.ステレオカメラを用いれば解決できるかもしれないが, ステレオカメラを用意するのは,研究成果を広く一般に普及させることを考えるとあまり現実的ではない. そこで筆者らは現状の2 次元データから類似手話の識別が可能かどうかを考察してみることにした. 2 次元情報からは奥行き情報を得られないが,肩・肘・手首の各2 点間の距離を新たな情報として付け加 えたデータを学習させた場合に,認識率にどのような影響があるかを調査した. その結果,認識率が改善した単語もあるが,逆に誤認識を起こす場合もあることがわかった.OpenPose の2 次元情報から3 次元情報を推定する技術があるので,それを利用した学習について検討した.
  • 神田 和幸
    2019 年3 巻 p. 18-23
    発行日: 2019/05/01
    公開日: 2023/05/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    手話に関する言語学者の言語観についてはあまり知られていない。「手話は聾者の言語である」ということが公理のように語られ、科学的検証の妨げになっている。本稿ではまず、著名な言語学者の手話観について検証する。 現在、人工知能の発達により、「人間とは何か?」という課題が再提起されているが、同じことは手話についても「手話とは何か?」という課題が提起されなくてはならない。手話学は聾教育の一部ではないので、仮に聾教育から手話がなくなっても手話学の意義までなくなるわけではない。手話学は聾学とは別であり、あくまでも言語学の一部である。そこで改めて問われるのが、言語普遍論に立脚するか、言語相対論に立脚するか、という、チョムスキー対ストーキーの時代、1960年代の課題に再帰する。 筆者の立場は、ストーキーの原点に戻り、手話相対論の立場から手話を研究する。そのため音声言語の一般言語学は必要に応じて改正し、手話とは何か?という課題への回答を提供していくことになる。
  • 神田 和幸
    2019 年3 巻 p. 24-28
    発行日: 2019/05/01
    公開日: 2023/05/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    手話検定開始から20年。長年の手話検定の結果、指文字と数字はとくに読み取り学習が難しいことが判明している。その原因は後述するが、改定案を以下に示す。現段階では清音は従来通りとする。将来的には、やりづらい指文字や間違えやすい指文字の改革もありうる。改正点だけを紹介する ①運動による変化 長音:下への移動運動 促音:小さいツは短くクリック。突っつく感じ 撥音:ンは使用中の文字でンを描く。 拗音:手の回転方向を変える(同時法にほぼ同じ) 小さいヤ=その文字のまま手前。 小さいユ=その指文字のまま手首裏返し(肘の内転、ユをする時と同じ動き)。 小さいヨ=横向きに裏返し(肘の内転と内旋、ヨをする時と同じ動き) ②左手の付加(視覚的同時性によりモーラに対応) 濁音:左手で5(パー)(二本指よりやりやすい) 半濁音:左手でO(オまたは小丸=金) 拗音:左手で文字を示す。小さいア行。 *左手を付加する場合、先に左手を作り(入り渡り)右手の清音の後、多少残ってもよい(出渡り)
  • 木村 勉, 神田 和幸
    2019 年3 巻 p. 35-38
    発行日: 2019/05/01
    公開日: 2023/05/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    未就学聾者は離島に残存していることが言われてきたが,事前調査で新潟県佐渡地区に数名,在住していることがわかった.そこで筆者らは新潟市の聾団体や佐渡市の聾団体・通訳団体・聾家庭の協力を得て,まず実態調査を行い,家庭訪問などを実施し,ホームサインを収録・分析を行った[2].今回,2回目の収録を行ったので,その分析結果について一部を報告する.4.1 表現の基本 Aさんのホームサインは,動作を伴う場合や形状がある場合は,それを基準として表現している.これは主にジェスチャーであるが,手話の源流とも考えられる. また,基本的に自分自身が中心である.例えば新潟に行くときには,海を渡って行くので,船の表現で,遠くの場所を示している. 4.2 身近にあるモノでの借用 日本手話との大きな違いの一つとして,色の表現が挙げられる.Aさんは,とにかく身近なモノを指さししている.しかし,常に表現したい色が身近にあるわけではない.そこで日本手話では,必ずそこにある身体を使って表現している.「黒」は髪,「赤」は唇,「白」は歯といった表現である.しかし,これらは自分自身では見ることができないため,身近にあるモノを指さしていた.今回は「白」を使うことが多く,ティッシュペーパーを指さしていた. また,「麦」を示すときに「麦茶」を指さして表現する場面もあった.
  • 木村 勉, 神田 和幸
    2019 年3 巻 p. 39-47
    発行日: 2019/05/01
    公開日: 2023/05/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    未就学聾者の手話には一般に流通している標準手話とは異なる語彙分化が見られるが、原初的な側面が多く残し、自然言語の発生過程を想像させる現象が多くある。たとえば基本語彙と考えられている色名語彙がなく、実際の場面で実物を指さす。一方で手話者にとって必要な語彙は標準手話よりも詳細な具体的な表現も見られる。語彙分化は標準手話の進化過程とは別の過程を経ており、その原因が学校という教育環境の欠如にあることが推定される。筆者らは復元語彙により歴史的な変化過程を分析したいと考えている。文献としては日本語最古と推定される明治時代の鹿児島聾学校の手話辞典、昭和時代の初期手話通訳向けの手話辞典数点、そして近代の手話辞典、現代の手話辞典を比較できる。海外においては、アメリカ手話のcognatesがフランス手話に由来するとの歴史的研究以降は、むしろ共時的に各国の手話に共通性が見られるのは教育環境要因であるとの意見が主流であり、同一手話の歴史的研究はあまり見られない。我が国において19世紀の文献があることは奇跡的かもしれない。 手話の工学的研究は歴史的に手話表記法の研究から手話電子化辞書(基盤研究(A)(1) 平成11~12年度「手話電子化辞書拡充とその実用化のための総合的研究」研究代表者 神田和幸)へと発展してきたが、近年は手話文法も次第に明らかになってきており(基盤研究(A) 平成23~25年度「形態論的日本手話文法研究とその応用の研究」研究代表者 神田和幸,分担者 木村勉)筆者らは経験もデータもある。筆者らは新しい視点から(挑戦的研究(萌芽)平成30~令和2年度(予定)「手話認識システムを利用した手手辞典の開発と手話による百科事典の提案」研究代表者 木村勉)手話認識の研究へと進化させてきた。筆者らは手話研究の長い経験から、手話及びジェスチャに関する専門的知見が広いため、研究結果の提供のみならず、議論に参加し見識を述べることで示唆を提供できる立場にあると自負する。とくに手話言語起源論を復帰させ、現代の新たな視点から再考することは言語起源論及び言語進化論に対し参考になる部分が期待される。 筆者らの専門としている研究分野と当該領域が有機的に結びつくことにより、以下のような新たな研究が期待できると考えている。 ① 工学的知見による手話研究は新たな動作学への研究手法と技術を提供するので、国内外の工学関係学会で成果を発表することで、工学者の関心を呼ぶと期待される。 ② 福祉工学分野で本研究の成果が新たなニードを惹起し手話研究が聾運動に偏向してきた現状を言語研究へと回帰する転機になると期待される。
  • 神田 和幸
    2019 年3 巻 p. 48-56
    発行日: 2019/05/01
    公開日: 2023/05/09
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    手話の言語学的研究が始まって70年以上になる。鼻祖ストーキーの枠組みはアメリカ構造言語学であり、言語相対論に基づく「手話には独自の構造がある」というものであった。その後のアメリカ手話学者は当時流行のチョムスキーによる言語普遍論による枠組みへとパラダイムをシフトした。そのため「手話の音素」という一見、奇妙な概念を設定し、人間の言語の普遍性を強調する一方、音素の中身は音声言語とはまったく異なる構造を設定するという矛盾の中で、音韻論を構築し、統語論を展開しようとしたが、うまくいかなかった。その背景には手話学者の多くが民族主義的な政治思想をもっており、手話が聾者の言語であるという教条から抜け出ることができないまま、科学的な分析技術を拒否し、チョムスキー言語学のいう母語話者の直観にのみ証拠を求める、という思弁的な方法論に終始してきた。本論では言語学のパラダイムの歴史的変化を言語普遍論と言語相対論という対比で考察した。これは哲学的方法論として、演繹的方法論と帰納的方法論に換言できるかもしれない。トマセロの理論は方法論的には帰納法が中心だが、広範囲な諸文献の考察により演繹論も採用している。折衷的という批判もできるが、バランスをとっているという肯定的な見方もできる。あとは実際的な言語処理技術が手話学に応用できるかどうか、というべ実用的な基準もありうるので、別稿においてトマセロの議論の歴史的変化も追いながら考察してみたいと考えている。
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