ポディフォーム・クロミタイトは極めて不規則にマントルかんらん岩(蛇紋岩)中に産し成因についても不明な点が多かったため,確立された探査およびポテンシャル評価の方針はなく,クロム資源探査の障害になっていた.今回,中国地方中部の三郡帯のかんらん岩体とクロミタイトの記載岩石学的特徴,クロムスピネルの形態,及びクロムスピネルの化学組成からポディフォーム・クロミタイトの成因とその探査指針についての考察(一般化)を得た.観察結果のうち特に重要なものを挙げると以下のとおりである.(1)クロミタイトは必ずダナイトに取り囲まれた産状を示す.(2)スピネル包有物としての含水鉱物(Na-フロゴパイト,パーガサイト)が比較的小規模なクロミタイト中のものから見いだされる.(3)クロムスピネルの形態を面積と周長の関係を用いて定量化(DR#(degree of roundness;円の値で規格化)=面積/(周長)
2)を行ったところ,ハルツバージャイト中のクロムスピネルの多くはDR#が0.4以下を示す(他形)のに対して,ダナイト中においては多くが0.7~0.9の値を示し(自形),両者の間には明らかに形態上の相違が認められる.ただし,大規模クロミタイト周辺のものには中間的もしくは漸移的なものが存在する.(4)クロムスピネルのTiO
2含有量,Fe
3+#(=Fe
3+/(Cr+Al+Fe
3+))は特徴的にダナイト中で高く,ハルツバージャイト中で低い.ただし,大規模クロミタイト周辺のものには中間的なものが存在する.(5)大規模なクロミタイト周辺のダナイトおよびハルツバージャイト中のクロムスピネルはCr#(=Cr/(Cr十Al))一V
2O
3関係において高C耕一低V
2O
3の特徴を示す.
以上からわかるとおり大規模クロミタイト周辺のダナイト,ハルツバージャイト中のクロムスピネルには岩石記載的,形態的,および化学的に特異なものが存在しているといえる,このような特異なクロムスピネルの存在はマントルーメルト相互反応による二次メルトの生成と初生マグマとの混合によるクロムスピネルの晶出モデル(例えばARAI and YURIMOTO,1994)を支持するものであり,より詳細なプロセスが明らかになった。特に高Cr#-低V
2O
3を示す大規模クロミタイト周辺のダナイト,およびハルツバージャイト中のスピネルの存在は相互反応による斜方輝石の選択的なメルトへの溶解により見事に説明される,
大規模なクロミタイトの周囲には形態的にも化学組成的にも特異なスピネルの存在で特徴づけられるマントルーメルト相互反応による反応帯(ダナイトとハルツバージャイトの漸移的な岩相)の存在が明らかとなった.これはボディフォーム・クロミタイトの探査的側面から大きな意義を持つ.すなわち,反応帯の分布や規模を調べることにより,クロミタイト賦存のポテンシャリティーを評価でき,今後の他の岩体・鉱床への応用面において期待される.
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