琵琶湖は日本最大の湖であり, その湖岸の自然環境は多様である。琵琶湖および周辺の水域については, 水草相, とくに沈水性の水草相に富むことが従来から指摘されてきた。しかし, 湖岸の植物については, 海岸植物の分布が報告されているが, 近畿地方全域のなかでの植物地理学的な問題は整理されていない。また, ヨシ原を中心とする原野環境に特有の植物群に関しては, その分布などの実態がよくわかっていない。そこで, 琵琶湖岸の植物相の特徴を明らかにするために, 砂浜と原野環境に生育する植物の分布を精査し, 近畿地方における評価を試みた。その結果, 内陸で海浜植物が5種も見られるのは近畿地方で唯一であること, 検討した6種の海岸植物はいずれも著しい隔離分布をしていること, そしてこれらの植物種は植物地理学上興味深い問題をもつこと, さらに, 近畿地方では琵琶湖・淀川沿いにほぼ限られる原野の植物の分布様式を認識でき, これらの植物の生育が原野環境の多様性に依存していることが示唆された。また, 原野の多様性に関する仮説を提出した。しかし, 原野環境の維持機構とそこに生育する植物の生態についての研究は未だ充分ではない。近年の湖岸開発でこれらの植物の生育環境が急速に減少しており, 早急な保全が望まれることも指摘しておきたい。
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