担癌患者では,貧血,低蛋白血症,肝障碍,心機能異常或は発熱など全身的障碍を伴うことが知られていながら,病期別に全身状態を検討した報告は比較的少ないので,治療を開始する以前の全身所見と腫瘍局所所見とを比較した。すなわち,開腹した胃癌104例を胃癌取扱い規約のStage分類に従って4群に分類し,各群毎に入院時に検査したHt, Gp, Na, K, Cl, BSP, TTT, ZST, GOT, GPT, Al-P,濃縮試験, PSP (15分値, 2時間値),呼吸停止時間, EKGの異常者の占める百分率を算出して,対照として胃潰瘍39例の成績と比較し,更に,各群毎の発熱率,発熱期間と熱型,発熱と臨床検査成績の相関についても検討した。
対照より有意の差を認めた項目のみあげると, Ht異常率はStage IVのみ対照より高かった。Stage IVでも,低蛋白血症を伴わない群のHt低下の頻度は対照との間に差はなく,低蛋白血症を伴う群のみ対照よりHt低下者が多かった。故に, stage IVでは貧血と低蛋白血症の合併するものが多いといえる。又, stage IVのみBSP異常者が対照より多かったが, stage IVでも,肝転移を伴わない群ではBSP異常が対照より多いといえず,肝転移を伴う場合のみ対照よりBSP及びAl-P異常が多かった。PSP15分値異常もstage IVで対照より多かったが,この異常は貧血・低蛋白血症を伴わない群に多かった。又, EKG異常もstage IVで対照より多かったが, stage IVでも,低蛋白血症を伴う群のみが多かった。発熱率は, stage I+IIよりstage III+IVの方が高く,発熱群は無熱群より白血球増多,貧血及びA/G比低下を認める率が高く,低蛋白血症の頻度には差が認められなかった。
以上の如く,胃癌の血液・肝・腎・心肺機能検査異常率は, stage I, II, IIIに於ては,胃潰瘍と有意の差を示さなかったが, stage IVになると, Ht低下, BSP停滞, PSP15分値低下及びEKG異常の頻度が高くなった。各群の年令の比較により,年令的影響が否定されるので,これらの異常の増加は胃癌の進展に伴う全身的変化の部分的現象で, Ht低下は悪液質と, BSPの異常は肝転移と, EKG異常は低蛋白血症と関連していると推定された。又,発熱も癌が進行するにつれて多くなることが観察された。
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