京都大学芦生演習林において萌芽による株の再生産について考察するために,光条件の異なる閉鎖林冠下(林内)と伐採跡地(林外)で調査を行ない,林内と林外との比較を通じて考察した。対象とした低木種はナガバモミジイチゴ,コ
アジサイ
・ヤマ
アジサイ
,イヌツゲである。なお林外ではイヌツゲについての計測は行なっていない。調査は,当年生萌芽の発生と死亡・損傷の時期及び数,伸長生長量,現存量について行なった。結果は以下のようにまとめられた。
当年生萌芽の発生時期についてみると,イヌツゲはナガバモジイチゴ,コ
アジサイ
・ヤマ
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よりも1ヵ月以上遅く,その差が顕著であった。ナガバモミジイチゴ,コ
アジサイ
・ヤマ
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については,種間では1週間以上の差はみられたが,林内と林外とでは発生時期に明確な違いがみられず,光条件の違いによる影響はないものと思われた。ところが死亡時期は同種内でも林外の方が明らかに早かった。しかしこれは光条件の違いというよりも上層の有無によるものと思われた。
1株当りの当年生萌芽の発生数は,ナガバモミジイチゴ,コ
アジサイ
・ヤマ
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ともに林外で多かった。同時に死亡率,損傷率も高く,萌芽によって効率良く株を再生産する上で林外は好適ではないと思われた。
林内・林外ともに当年生萌芽の伸長量は,当年以降の主軸の伸長量よりも多く,ナガバモミジイキゴ,コ
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・ヤマ
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で特にその差が大きかった。このことは,とりわけ林内において,より良い光条件を短期間で獲得するのに有利であると思われた。
現存量についてはナガバモミジイチゴ,コ
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・ヤマ
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,イヌツゲのすべて,林内林外を問わずT(地上部現存量)/R(地下部現存量)率が1前後と低く,地下部の貯蔵物質に依存して萌芽を発生させるのに適していると思われた。
以上のことから,低木種にとって林内で萌芽によって株の再生産を行なうことは林外に比べて有利であると思われ,生活型の面からも適しているものと思われた。
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