アラル
海流域では,ソ連期から始まる大規模な灌漑計画の結果として,
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海の縮小に象徴される深刻な水不足が発生した。下流地域では,数百万人に影響を与えると言われる渇水被害に加え,露出した過去の海底から塩分や有害物質を含んだ砂が舞い上がることによって健康被害が発生し,
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海の縮小自体も流域環境を悪化させる大きな要素となっている。
当流域においては持続可能な灌漑計画の作成・実現が急務であり,そのための科学的基礎情報として水資源量・水需要量の推定が必要である。既存の研究では,統計的な手法や簡便な物理的手法が中心であったが,気候変動や国間のコンフリクト等が問題視される中で対象も複雑化しており,流域の水循環を包括的に解明することが求められてきている。
そこで本研究は,
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海流域の水循環を表現する物理モデルの構築を目指し,その一環として陸面過程モデルSiBUCを用いた流域の水資源量・水需要量の推定と,その結果を用いた
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海縮小の再現を行った。その際には,灌漑地の拡大や
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海の縮小に伴う大規模な土地被覆の変化を考慮するとともに,他流域と比較して低いことが知られている灌漑効率を正確に推定するため,損失の内容に応じて適用効率・運搬効率に分類し別々に推定を行うなど,過去の灌漑計画に伴う流域全体の水収支の経年変化を再現した。
次に,この流域全体の水収支から
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海への流入量を計算し,地形データに基づいて
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海の縮小の再現を行った。
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海面積などの統計データを用いた検証の結果,非常に精度良く
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海面積・水量の経年変化を再現できていることが分かった。以上により,物理モデルを用いた流域の水循環解析が可能であることが確認され,今後の水循環解析に向けて大きな知見と成果を得ることができた。
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