アリジゴクの巣に小石や木片のような障害物をいれるとそれをどう除去するかというアリジゴクの障害物の除去行動に関する報告はきわめてわずかである (1, 2, 3) 。このうち馬場は “コウスバ
カゲロウ
の幼虫では巣にいれた障害物 (石) を直接動かさず, 障害物の横に巣をずらせたり, 遠くに離れて営巣する” と述べている (1, 2) 。またDOFLEINの同種を用いての観察では, 石などの障害物は自分の背にのせて巣より運び出すとしている (3) 。その後, アリジゴクの障害物の除去行動についての精細な行動型の分析はなされていないので, まず本研究ではこの行動事実を確認したい。そこでウスバ
カゲロウとコウスバカゲロウ
の幼虫を用いて, 障害物の除去行動型を実験によって, 質的にも量的にも明確にしたい。
アリジゴクは巣のなかの障害物 (立方体のけしゴム) に対して巣をくずして, 後ずさりをしながら体の腹部後端部または腹部背面でそれを移動除去し, 再びもとの位置 (RBI・RB II) または近く (他の位置) (RB III) に営巣する。この行動型をアリジゴクの営巣性の一基準として, ウスバ
カゲロウとコウスバカゲロウ
の幼虫の2種について観察実験をし, 2種の営巣性について比較考察した。
1.ウスバ
カゲロウ
の幼虫の体の大きさをA型 (第1齢), B型 (第2齢), C型 (第3齢) と分けて障害物に対しての行動型を分析した結果, A→B→C型と齢を増すにつれて除去し得る障害物の重さまたは容積が拡大する。
2.ウスバ
カゲロウ
の幼虫において, 障害物を移動除去できる範囲内では, ある大きさ以上の巣をもつ個体がRBI~IIIを示す傾向がある。
3.ウスバ
カゲロウ
の幼虫において, RBIの行動を示す個体の障害物の除去距離ともとの巣の半径の関係は, 前者が後者より大きく, その比はほぼ一定である。
4.ウスバ
カゲロウ
の幼虫では障害物の大きさが一定のとき巣を構成する砂の条件が障害物の除去行動に大きな影響を与える。すなわちこの種では不等大粒子の砂においては等大粒子の砂においてよりもRBI~IIIの除去行動が頻繁にみられる。
5.コウスバ
カゲロウ
の幼虫では不等大粒子の砂においても, 等大粒子の砂においてもRBI~IIIの除去行動の出現が低い。
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