応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
原著論文
河川源流域に棲息する水生昆虫類の遺伝的特性
—ガガンボカゲロウ(昆虫綱·カゲロウ目)におけるミトコンドリア16S rRNA遺伝子配列の変異を例に—
東城 幸治
著者情報
ジャーナル フリー

2005 年 7 巻 2 号 p. 119-127

詳細
抄録
河川の始点となる河川源流域は,河川生態を考える上でも重要な地域の一つと思われる.源流域には,この水域にのみ特異的に棲息するような水生生物も多く,独特の生物相をもつことも知られるが,一方では,流路が不安定であることや水面幅が狭いことなどから,この水域での底生動物相や生態学的な調査研究は充分には行なわれていないのが現状である.本研究では,源流域にのみ棲息が可能で,極めて移動·分散性が低いと考えられる底生動物の一種ガガンボカゲロウに焦点を当て,一般的なカゲロウ類数種との比較·検討を基に,棲息環境や生態的特性と遺伝的距離との関係について考察した.その結果,局地的に隔離分布するガガンボカゲロウの集団間の遺伝的な変異は,上·中·下流に広く棲息し,幼生期における流下や亜成虫·成虫期における遡上飛翔を行なうようなカゲロウ類(フタスジモンカゲロウなど)に比べ,たいへん大きなものであることが明らかとなった.河川源流域の水棲生物の中には,希少種としてリストアップされる種も多く,今後,特に源流域に特異的に棲息するような生物においては,種レベルだけの保全ではなく,地域集団レベルでの検討の必要性が示唆される.
著者関連情報
© 2005 応用生態工学会
次の記事
feedback
Top