1 問題の所在および研究目的
日本人の海外旅行の進展に伴い,日本の旅行会社による拠点の国外進出も続いた.それは,現地の旅行業は,日本人の海外旅行の発展に伴う日本の旅行業のグローバルな展開という視点のみでは把握できないからである.日本の旅行会社に加えて,現地で成立した旅行会社も,日本の旅行会社の進出の前後共に,現地の業務において重要な役割を有している.従って,国際観光において,ツーリストとアトラクションの媒介部門である現地の旅行業全体が,どのように成立・変化し,維持されていくのかという視角で分析を加えることが有用であると考えられる.
本研究では,カナダにおける現地の日本人向け旅行会社の活動を取り上げ,既存の研究で十分に論じられなかった旅行業の展開に着目する.そして,日本人の
カナダ旅行
の変遷とともに現地の旅行会社がどのようにして成立し,またどのような活動の展開を行い存続してきたのかを明らかにすることを目的とする.
2 日本人のカナダ旅行
の変遷
初期(1945-1970年代初頭)では,カナダを主な目的地とした旅行商品化は行われていなかった.日本の旅行関係者への大々的なセールスが行われ,
カナダ旅行
のマーケティング・セールスの会が結成された.この時期,
カナダ旅行
は東西に分断され,西部はアメリカ西海岸と東部は東海岸と組み合わされた旅行商品が生産されていた.
発展期(1970年代半ば-1980年代初頭)には,日本メディアの影響によって日本人の
カナダ旅行
ブームが2度生じた.日本人旅行者の増大に伴い,組織化によって集団のスケールを活かした交渉が可能になり,日本人旅行者への対応の改善が図られた.また,カナダ西部と東部を組み合わせたカナダ・ツアーが各旅行会社により編成され,アメリカから独立した目的地として成立し始めた.
強化期(1980年代-1990年代前半),カナダ・ツアーの大量化および低価格化が進展した.一方,カナダ国内において新たに3地域の目的地が旅行商品として開発され,現地旅行業の業務の季節差の是正が行われた.また,日本人向け旅行会社の組織が結成され,増加した日本人旅行者への交渉力の強化を図った.
安定期(1990年代半ば-現在)になると,日本の旅行会社の現地法人によってホスピタリティの向上を目的とした組織が構成された.一方,春期の需要促進にも注力されている.
3 バンクーバーにおける日本人向け旅行会社
カナダにおいて日本に関係のある旅行会社は,戦前にカナダに移住した日本人移民が,日系移民の里帰り客を主な顧客として起業したものが嚆矢である.1980年代後半から1990年代前半にかけて,それらの会社から分社・独立が相次ぎ,多くの旅行会社が成立した.一方,この時期,日本の旅行会社のカナダ進出が続き,バンクーバーに本社を置き,支店・営業所をトロントおよびバンフを中心に展開させた.
現地業務については,当初はアメリカにある自社の支店に業務を委託していた.しかし,カナダ来訪者の増加に伴い,カナダへ自社の現地法人を設立すると,自社への業務委託が中心となった.すなわち,取扱量の増加に伴い,その業務は自社のカナダ進出により業務を内部化・現地化させ,商品・サービスの管理を行うようになった.
4 現地旅行会社の季節差の是正戦略
現地の旅行会社は,需要の季節差と共に生じる業務の季節差について,その雇用を季節的に変動させることによって対応している.
また,カナダへの旅行商品供給には夏期に集中するという大きな季節差があったが,強化期の新しい旅行商品の開発によってその季節差は縮小された.すなわち,現地の旅行業の取り扱う旅行商品において季節差の是正が試みられた結果,カナダにおける日本人のツーリスト空間の拡大が生じたといえる.
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