本研究は,色彩文化の視座よりイギリス国王ジョージ6世(Albert Frederick Arthur George, 1895-1952)の戴冠式に関する色彩計画について検討する.ブリティッシュカラーカウンシルは,これらのイベントの色彩計画を指揮していた.研究目的は,国家的式典とナショナリズムの表象としての伝統色との関係を明確にするためである.当時の写真,肖像画,風俗画や関連文献が一次資料である.特に,当時ヨーロッパ諸国で広まっていたナショナリズムの検討として,戴冠式の一環として行われた観艦式,園遊会,舞踏会も考察する.戴冠式で,色彩計画がどのように表現されていたのかを解き明かす.
「イギリス伝統色」では染織見本が並び,戴冠式の色彩計画が示された.この見本に基づき,国旗ユニオンジャックの赤色,白色,青色を強調した配色,さらに国家の豊かさを表すための金色と銀色,そして北部ブリテン島スコットランド民族の象徴であるタータンという色彩計画が忠実に表象された.当時の駐英大使の妻,吉田雪子によるエッセイには,戴冠式衣裳の色彩についての描写がある.
本研究は,JSPS科研費18K 11965(基盤研究C)「近代イギリスにおけるデザインのための色彩規格とナショナリズムの研究」によるものである.
抄録全体を表示