シクロプロパンは炭素最小員環であり、環構造に由来する配座異性体は存在しない。すなわち、環を構成する3つの炭素がエクリプス配座になる点で、その置換基のリジッドな立体配置をうまく活用すれば、置換シクロプロパンの特徴を生かした高立体選択的合成ができる1)。前回、我々はシクロプロパン開裂—分子内環化が立体保持の反応様式で進行すること利用して、生物活性ジヒドロナフタレンリグナン類の不斉全合成を達成した2)。今回、シクロプロパンを含むビシクロラクトンのオキシホモマイケル付加は立体反転で高立体選択的に進行すること利用し、 trans-a,b-二置換-g-ブチロラクトン骨格を有するリグナンラクトン天然物の不斉全合成を行った。(Fig. 1)
Fig. 1
【高立体選択的オキシホモマイケル反応と高立体選択的1,5-付加反応】まず、我々は、林—ヨルゲンセン触媒を用いる不斉シクロプロパン化3)により四置換シクロプロパンを高エナンチオ選択的に合成し、ホルミル基の還元後、ラクトン化することにより高選択的にビシクロラクトン 1a および 1b を合成した (Scheme 1)。ラクトン 1 にルイス酸触媒存在下、アルコールを作用させると、高位置選択的、高ジアステレオ選択的かつ高い不斉伝搬性でオキシホモマイケル反応が進行し、三連続不斉中心を有する高い光学純度のラクトン 2 を高立体選択的に良好な収率で得た4)。このとき、アルコールの付加は高立体選択的に反転で進行し、
ケト
-
エノール互変異性
に伴うα位の立体は高トランス選択的に、完璧な不斉伝搬率 (原料94% ee →生成物 94% ee)で進行した。アルコールに換えグリニャール試薬を用いると、反応系内で [R
2Cu]MgXを発生し、g’位で反転を伴う R 基の1,5-付加反応が高立体選択的に進行することも見いだした
5)(Scheme 2)。注目すべきは、カルボニル基にキレーションするような試薬 [R
2Cu]MgX においても、g’位の立体化学は分子内環化
2)の際にみられた立体保持でなく、分子間オキシホモマイケル反応
4)と同様に立体反転で進行したことである。すなわち、クラスターやイオンペアを経由する機構が考えられる。
Scheme 1
Scheme 2
Scheme 3
【trans-a,b-ジベンジル-g-ブチロラクトンリグナン類の全合成】先に述べた高不斉伝搬オキシホモマイケル反応により a,b-trans-g-ラクトン 2a および 2b (95% ee) を高ジアステレオかつ高エナンチオ選択的に合成した。続いてα位炭素のベンジル化の後、脱炭酸し、4a,4b および 4c を高選択的に合成し、最後に脱保護して (-)-7(R)-hydroxymatairesinol6) (allo-hydroxymatairesinol7)) の全合成を達成した(Scheme 3)。脱炭酸のとき、
ケト
-
エノール互変異性
に伴いa 位の立体は高トランス選択的に進行した。同様の方法で 7(R)-hydroxyarctigenin
6) の全合成も達成した。これらのスペクトルデータは、既知データと完全に一致した。一方、同様の方法で tupichilignan A も全合成できたが、こちらは文献データに一致しなかった
8)。すなわち、真の tupichilignan A の構造が異な
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