「目的」
絵画化された教材(イメージ情報)に対する受け止め方の多様性について考察する。文字情報による説明的な家族の授業から、学習者の共通認識のを得るためにスライド、映画、ビデオ、絵画などイメージ情報が頻繁に導入されるようになったのは80年代に入ってからである
注1)。90年度の技術・家庭科研究集会(九州地区)で公開された「育つ自分と家族を考える『保育』の学習」では、教材に15タイプの家族や暮らし方のイラストについての無記名の感想文が用いられ、この方法はその後家族授業の一つのモデルになった。当初イメージ情報の限界について指摘したが
注2)、その後それに対する反応を見ることはできていない。今回改めてこの教材価値について検討するのは、保育士養成のための授業改善を試みるためである。周知のように保育士の仕事の一つとして家族への支援・援助がありその実践的な能力の習得が課せられている。授業内容としての家族は、個人が体験していると言う意味で極めて具体的であり、一方教材としては抽象的である。両者を関わらせながら多面的に実践的に理解させる学習の方法を探る。
「方法」
2007年10月、上記15タイプの家族や暮らし方
注3)のコピーを配布し、各イラストに50字以内の感想を書かせた。それをカテゴリー化して分析した。
また家族観の形成に関わったと思われる情報源として、学校における家族の学習機会、小説、映画、テレビなどの内容を調べた。
「結果」
主な結果は以下の通りである。
(1)家族の学習機会を学校段階でみると、小学校(79.4%)、中学校(81.0%)、高校(54.0%)であった。教科では家庭科(69.4%)、社会(19.4%)、道徳(12.9%)と家庭科が多かった。いずれも複数回答である。
(2)学校以外の情報源として、家族を想起させた小説の1位は「1リットルの涙」、映画では「ALWAYS 3丁目の夕日」、
テレビアニメ
では「
サザエさん
」を筆頭に「ちびまる子ちゃん」「クレヨンしんちゃん」「ドラえもん」の4つが多かった。
(3)イラストによるイメージ情報は家族の年齢、性別、人数などが具体的であるため、共通理解が容易になされた。
(4)イラストの「家族の表情や活動」に影響を受け易い型と受け難い型があった。後者の型の中にはジェンダーの影響が推測されるのが含まれている。
(5)個人の特定の経験はイメージ情報の影響を受けにくいことが分かった。
以上の結果から、家族の学習には、イメージ情報による対象の共通理解が得易いという特徴を生かしながらも、それに対する感じ方
や受け止め方の多様性を認め、個人の具体的な経験を対象化させる授業の工夫が必要であると考える。
注1 田結庄順子編著「戦後家庭科教育実践研究」pp.409-416、梓出版社 (1996)
注2 大学家庭科研究会編「男女共学家庭科研究の展開」pp.167-183、法律文化社(1993)
注3 小形桜子・三井富美代・江崎泰子、おかべりか絵「こころとからだ知りたいこと事典」pp.14-15、ポプラ社(1984)より
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