【背景および目的】急性期脳卒中患者の肺炎予防に対して離床が有効な可能性が示唆されている.その効果機序として,離床に伴う呼吸機能の変化が考えられるが,意識障害を呈した重症例においてどのような変化が生じているかは明らかにされていない.一方,COPD患者で生じやすい呼気流量制限(EFL)は,動的肺過膨張や呼吸困難感の原因になるだけでなく腹部外科手術後の呼吸器合併症リスク因子にもなるといわれている.EFL評価は特別な努力を要しないことからも,意識障害を呈した急性期重症脳卒中患者においても応用可能と考えられる.本研究の目的は,意識障害を呈した急性期重症脳卒中患者において,体位の変化が安静時呼気Flow-volume(FV)曲線にどのように影響を与えるかを検討することである.
【方法】対象は発症2週間以内の意識障害を呈した急性期脳卒中患者9例.安静呼吸の測定は呼吸流量計(
サーティファイ
ヤーFAプラス(TOKIBO社製))及びフェイスマスクを用いて,ベッド上背臥位,30°ベッドアップ座位,端座位の3つの姿勢において各2分間行った.測定順序は無作為とし,呼吸パターン,一回換気量,呼吸流量を算出した.また,呼気FV曲線の形状を数値化して示し(RAR),この値が<0.5となった際に呼気FV曲線は下に凸となりEFLを呈していると判断した.
【結果】3姿勢で呼吸パターン,一回換気量,呼吸流量に有意差はなかった.呼気FV曲線について,いずれかの姿勢で下に凸(RAR<0.5)を示す例は5例(56%)であった.姿勢とRARの関係について有意な差は認められなかったが,RARは9例中7例(78%)において端坐位が最も高い値を示した.
【考察および結論】急性期重症脳卒中患者はEFLを呈しやすいが,端座位では軽減しやすい可能性が示唆された.これは,姿勢変化に伴う肺容量の変化や上気道の開存度が変化するためではないかと考えられた.
【倫理的配慮,説明と同意】事前に対象者の家族に対して説明を行い,同意を得た上で実施した.また,本研究は甲南女子大学研究倫理委員会の承認を得ている.
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