ダート
ムーアはイングランド南西部のデヴォン州に広がる花崗岩からなる山地である.本研究は
ダート
ムーアにおいてデジタル標高データおよび地形図を用いて山地の起伏構造と河川の地形の特徴を明らかにすることを目的とした.また,その結果を山地の隆起速度や山地斜面の崩壊分布,谷の深さなどが大きく異なる日本の山地,とくに花崗岩山地である屋久島と比較とその共通点,相違点の検討も行った.
ダート
ムーアはヴァリスカン造山運動の時にデヴォン紀の砂岩の中に貫入した花崗岩からなる.最高峰は標高621mのHigh Willhaysである.稜線上にはRough Tor,Bellever Torをはじめとした稜線から突き出た岩峰が点々と見られる.
ダート川はダート
ムーアを刻んで南流する河川で,
ダート
ムーアの1/3ほどを流域に含む.
ダート
川の下流部はエスチュアリーとなっており,ダーマスでイギリス海峡にそそぐ.西
ダート
川の源流からエスチュアリーの入り口までは48km,海までは64kmである.
本研究ではデジタル標高データおよび地形図を用いた分析,現地における
ダート
川の河床礫および地形の調査を行った.標高,起伏の分析にはOrdnance Survey Britain(OS)が作成した50mDTMを用いた.このDTMはブリテン島のNational Gridに準拠しており,日本の数値地図(標高データ)とは違って実距離50mの方形の格子点データである.すなわち,緯度が異なる2地域でもデータ点の間隔は変わらないという特徴を持つ.本研究では250m間隔の格子点の標高5×5点の標準偏差をその1km方形メッシュの起伏の値とした.1km方形メッシュの標高は,起伏を算出したのと同じ250m間隔の格子点を用いてその平均値とした.山地の平均標高は,範囲に含まれる全250m格子点の標高の平均値,平均起伏は範囲に含まれるすべての1kmメッシュの起伏の値の平均値とした.なお,250m間隔の標高点は,OS作成の50mDTMのデータを単純に間引いて250m間隔に直したもので,値の変換などは行っていない.
ダート
川の地形についてはOS発行の1:25,000地形図(等高線間隔10m)を用いて,標高_-_距離データセットを作成し,河床縦断面図を作成,河床勾配を算出した.
起伏と標高の関係から
ダート
ムーアの地形の特徴をみると,
ダート
ムーアは日本の山地から求められる回帰線から大きくはずれ,日本の山地に比べ「平均標高の割に起伏が小さい」という特徴を持つことがわかった.標高帯ごとの起伏の変化をみると標高300mまでは起伏が増大していくが,それ以高では減少していくという特徴がみられた.これは日本の各地域と傾向と大きく異なる.しかし,標高,起伏の絶対値は違うものの,屋久島の特徴と共通している.すなわち屋久島では標高650mまでは急激に起伏が大きくなるものの,それ以上の標高帯では徐々に起伏が小さくなる.両山地とも低標高域に起伏のピークが存在し,それ以高は最高標高帯まで起伏が減少していくのである.
河床縦断面図を見ると
ダート
川は標高200m付近にある遷急点を境に上流と下流に分けられ,それぞれがほぼ指数曲線となっている.上流側の区間では河床勾配は40‰から10‰へと減少する.遷急点で河床勾配は50‰へと増大するが,ここから河床勾配は減少し,エスチュアリーの入り口付近ではほぼ1‰となる.遷急点付近は深い谷となっており,この区間は狭窄部となっている.この特徴は屋久島の安房川,湯川,鯛ノ川の特徴と共通している.
このように,イギリス,
ダート
ムーアの山地および河川の地形は,日本のものと大きく異なっているが,同じ花崗岩山地である屋久島とはその絶対値は異なるものの,地形そのものには共通する特徴があることが明らかになった.
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