目的:近年、教育の情報化の重要性に関する戦略が策定されて学校にもさまざまな情報機器類が整備され、手元において利用できるタブレットPCも普及している。平成22年の教育の情報化に関する手引き(文科省)には情報機器類利用の具体的方策が示されており、見やすく分かりやすい説明による理解の向上、できることで興味関心を高めるなど学習目標を達成するための効果的なICT機器の活用が推進されている。一方、高等学校学習指導要領では、家庭総合の内容において安全と環境への配慮も加味した住生活のあり方を考える重要性が示されているが、近年新たに登場したスマートホームは、HEMS(Home Energy Management System)によるエネルギーの最適化を行うことにより快適かつ環境負荷が少なく、さらに省エネルギーを実現出来る住宅とされることから、これからの住生活を考える上で新たな位置づけとなる住まいと考えられる。これらのことから、本研究では、タブレットPCを用いた中継により教室において実際のスマートホームの機器および住宅設備について見学し、さらに双方向の通信による授業内での質疑応答を実現することで授業の質的向上を試み、生徒の授業評価よりその有効性を検証し、また、授業ワークシートへの記述分析によりこれからの快適な住まいと暮らしに対する生徒の意識を捉えることを目的として授業実践を行った。
方法:今回の授業実践では、高等学校3年生女子を対象に、家庭総合の授業にて2014年1月に45分の授業を3クラスで実施した。協力校のタブレットPCを用い、前時に10分間程度の文字入力を予め練習させ、授業では、ライブ中継の前にスマートホームの解説DVDを視聴して機器構成について全体的な説明を受けた後、実際のホームの様子を中継により見学し、同時進行的に質問等のコメント入力と解説者からの回答を受信する形式で行った。中継には無料アプリのTwist Casting(
ツイキャス
)を採用した。生徒のコメントおよびワークシートへの記述内容の分析においてはSPSSテキストマイニングを用い、コンセプト抽出と感性分析により考察を行った。また、一部、観点別分析により生徒の考えの方向性をまとめた。
結果:1)ICT活用による授業の有効性について
中継中の生徒からのコメントに対するコンセプト抽出の結果は、電気(10件)が最頻出で、次いですごい(9)、いい(7)、普及する(5)などが続き、電気を例に取ると「どの位一日に電気を創れるのか」「災害時に貯めた電気だけで暮らすとどの位もちますか」などが挙げられた。授業評価においては、授業に対して「分かりやすかった」とする生徒が約8割を占め、コメント入力直後に解説者から直接分かりやすくかつ詳細な説明を聞くことができ、理解が深められたことがその要因としてうかがえた。このように、双方向でのライブ中継授業による情報伝達および内容理解度向上・興味関心などの面から授業の有効性が認められた。
2)これからの快適な住まいと暮らしについて
創電、蓄電に対する導入要求はかなり高く、エネルギーの家産家消に対する意欲は全般的に高い傾向が見られた。また、HEMS対する評価もかなり高かったことから、授業において機器の特性を理解することで、その役割を積極的に評価し、活用意欲も高められたことがうかがえた。本授業実践を踏まえたこれからの快適な住まいと暮らしに対する生徒の意見からは、多くの生徒がスマートホームにおいて生活の利便性享受と環境負荷の低減、さらにはエネルギーコストの縮小が同時に可能である点を指摘し、これまでの認識を新たにしたとの感想も見受けられ、スマートホームでの暮らしに対する期待感が大きいことが示された。一方、マイナス評価として、スマートホームでは機器の装備により電気エネルギーおよびITシステムへの依存が必須である点への疑問が投げかけられ、また、「生活の仕方そのものを変えるべき」といった記述が見られ、地域も含めた自立的な生活のあり方を考える視点が示された。
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