本論文は,著者らの開発した新しいヒドロシアン化反応の天然物,とくに多環式構造を有するステロイド,ジテルペン,あるいはそれらのアルカロイドの合成に対する有用性について述べている。新ヒドロシアン化法によって,多環式構造を有する共役ケトン体から目的に応じ立体的に有利に核間位にシアン化されたケトン体をえることができる。核間位シアン基は,他の種々の炭素置換基に変換されるし,またそれによって天然物に多く含まれる橋状環系の合成も容易に行なわれうる。したがって新ヒドロシアン化反応は一般に困難と考えられている核間位に炭素置換基を導入したり,また橋頭炭素の一つを核間位に有する橋状環の組み立てめ問題に一つの有力な手段を提供している。新ヒドロシアン化反応は,アルキルアルミニウム (R
3Al) とシアン化水素の組み合わせ (A法) ,あるいはシアン化ジアルキルアルミニウム (R
2AlCN) (B法) によって行なわれ,そのヒドロシアン化の効率は高い。核間位シアン化の場合の立体経路は用いる共役ケトンの構造に左右されるが,trans-または,cis-シアソケトンのいずれが優先的に生成するかは,多くの例からえられた経験則,あるいは理論的考察からある程度予知することができる。つぎに核間シアソ基の他の炭素置換基,たとえばカルボキシル基,イミノメチル基,アミノメチル基,ホルミル基,メチル基,ヒドロキシメチル基への適切な変換法が確立された。またシアンケトンから他の橋状環,たとえばピロリジン,ピペリジン,ピシクロ [3.2.1] ,あるいは [22.2]オクタン環系の組み立て法も研究された。この結果を応用して種々の天然物,たとえば二三のプレグナン系ステロイド,またはそのアルカロイドであるラチホリン,ジ
テルペンアルカロイド
であるアチシン,ガリン,ビーチンなどが合成された。
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