カルベジロールは左室収縮障害を有する慢性心不全において生命予後改善効果を含めた有効性の確立された心不全治療薬の一つであるが,その陰性変力変時作用ゆえに認容性の乏しい症例も少なくない.われわれはそのような重症慢性心不全症例において,カルシウム感受性増強作用,ホスホジエステラーゼIII阻害作用をあわせ持つ強心薬として知られる,ピモベンダンを使用し,その効果について検討した.左室収縮障害を有する慢性心不全症例のうち,カルベジロール増量,維持の時点で,自覚症状があり右心カテーテル検査にて血行動態の評価を行ったうえで,増量あるいは維持困難と判断した連続15症例について検討した.症例は拡張型心筋症6例,虚血性心不全4例,末期高血圧性心臓病3例,拡張相肥大型心筋症2例(男性11名,女性4名,年齢66.5±14.8歳)である.ピモベンダンの併用効果はピモベンダン併用開始後平均14カ月間(14.0±3.8カ月)の観察期間の後に,カルベジロール増量,維持の可否,血漿BNP値,自覚症状(NYHA心機能分類),経胸壁心エコーによる心機能評価により評価した.結果,ピモベンダンの併用(42±1.2mg/日)により,15例中4例においてカルベジロールを増量(2.2±0.6→15.0±5.8mg/日)でき,9例が維持(3.9±2.8mg/日)できた.2例が減量(平均3.8±t8→1.9±0.9mg/日)にいたった.NYHA心機能分類は3.5±0.5→2.5±0.6(P<0.001),血漿BNP値は651±483→263±372pg/mL(p=0.014)と有意に改善した.経胸壁心エコーによる心機能評価では左室拡張および収縮末期径,左室駆出率はいずれも改善傾向を示したものの有意差は認められなかった.以上より,カルベジロールの増量,維持が困難な重症慢性心不全症例においてピモベンダンを併用することにより,カルベジロールの増量あるいは維持が容易になる可能性が示された.またそれに伴い,血漿BNP値,自覚症状の有意な改善が認められた.
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