老人医療・介護施設での入院ないし入所高齢者の半数以上に尿失禁があると報告され, 入所者のQOLに関わる健康問題として重要である.高齢者に多い機能性尿失禁の行動療法の一つに排尿パターンにそったスケジュールでトイレ誘導を行う習慣化訓練がある.しかしながら, 現実には, 失禁の時刻や頻度に関する客観的なデータの把握は困難であり, 尿失禁患者の排尿パターンの有無も明らかにされていない.そこで, 本研究では, 尿漏れセンサーを用いて排尿パターンの確認とそれを利用した排尿習慣化訓練プログラムの可能性について検討した.対象は4か所の老人病院ならびに老人保健施設の尿失禁患者41名である.このうち, 25名を対象に尿漏れセンサーを用いて排尿時刻と排尿量を2~3日間モニターした.また, 老人保健施設ならびに療養型病床群に入所中の6名の尿失禁患者の排尿パターンを把握し, Collingらによる排尿習慣化訓練プログラムを参考に, 9~17時の時間帯にトイレ誘導を試み, 結果を評価した.さらに, 延べ22名の尿失禁患者の24時間排尿モニターから, 時間毎の排尿頻度を調査した.その結果, 2~3日間の観察で同一1時間のブロックに2日以上の排尿集積を認めた25名中9名は一定の排尿パターンがあると判定された.11名は, 1日に10回以上の頻尿を伴っていた.3日間とも同一1時間のブロックに収まる排尿回数の一致率は42.2%であった.2日間の観察では, 23.5~85.7%であった.排尿パターンの把握をもとに, 老人保健施設等で6名の尿失禁患者にトイレ誘導を試みた結果, 3名がトイレ誘導に成功した.うち2名は排尿パターンを認め, 3日間の排尿パターンの一致率は31.6%であった.他1名は大便が混入し測定不能であった.これら3名の排尿間隔は日中約2時間であった.なお, トイレ誘導を実施しなかった3名はいずれも頻尿であった.介護老人保健施設の22名の排尿時刻の分布を調査した結果, 7時, 13時, 15時, 17時の時間帯に50%前後の排尿の集積を認め, 施設の生活リズムの排尿への影響が考えられた.以上の結果, 高齢尿失禁患者に効果的なトイレ誘導を行うには, まず, 排尿間隔が平均2時間以上ある対象を選定し, 次にそれらの排尿パターンを把握することが重要であり, そのための尿漏れセンサーの有用性を確認した.そして, 日中のトイレ誘導時間の設定は, 起床, 食事, お茶, 就床等の施設の生活時間を基準に個人の排尿パターンを考慮したスケジュールを計画し, プログラムに基づく習慣化訓練を行う必要があると考える.
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