日本で最も地価が高い場所と言えば、東京都中央区銀座がすぐに思い浮かぶだろう。銀座は永年地価日本一の座に君臨した土地である。この銀座の価値については考える場合、銀座の空間が有する価値だけでなく、「銀座」の地名に付された価値があるのではないか。有形資産である銀座の土地を使用することによって得られる効用と、無形の資産である「銀座」の名称を使用することによって得られる効用があることが考えられる。そこで「銀座」の名称を有する空間的価値について、考察してみることにする。
ブランドを形成するために必要な要件として「ストーリー(物語)性」と「歴史」が言われている。ブランドを形成するためには「そこにストーリーがあり、それを展開するための歴史があること」ではないか。そこで銀座に付されたストーリーと歴史とはどのようなものであろうか。
銀座の歴史とその歴史が有するストーリーについては、まず銀座の地名は、江戸時代に銀貨を鋳造する「銀座」があったことに由来する。銀座は1872年(明治5年)の大火で焼失。そこで銀座は、建物を煉瓦で作ることが計画され、「銀座煉瓦街」は実行された。煉瓦造にすることは、単に燃えにくい街並みを作るだけにとどまらず、銀座を西洋風の街並みにすることで外国から来た人々に、国際的な体面を示す狙いもあったとされる。しかし関東大震災で「銀座煉瓦街」はほとんど倒壊してしまった。だが銀座は復興し、大正モダンを経て昭和初期には
モボ
、
モガ
が当時の銀座を彩った。その後第二次世界大戦でも銀座は破壊されたが、またも復興を遂げ、戦後も時代の流行を発信する街となった。 銀座にはこのような歴史があり、それが銀座のストーリーである。そのストーリーは、銀座が有する無形の資産となっているのではないか。
銀座ブランドは、銀座で事業を行う(行おうとする)者にとって魅力的であり、ステイタスでもあると考えるのではないだろうか。そこに立地したくなるような価値がある空間である。それが、銀座が有するブランド力である。また、銀座はその時代、時代にに流行を発信してきた街である。時代の先端を行く空間を形成していることが、銀座が有する空間的価値であり、銀座ブランドにとっての大きな源泉になっている。銀座が獲得してきたイメージもまた、銀座の価値を向上させる無形の資産ではないか。それに「銀座の地価は日本一高い」との、そのことですら、銀座のブランド価値を上げることになっているのではないだろうか。
抄録全体を表示