はじめに
微量元素の一つであるヨードは甲状腺ホルモンの必須の構成要素であり,その過不足は生体にとって重大な影響を及ぽす。
ヨード欠乏症
による甲状腺機能低下症は古くからの問題であるが,ヨード過剰もまた甲状腺機能低下症の原因となる。
特に妊娠中の母体がヨード過剰状態に置かれたときの胎児への影響はときに深刻なものとなり,巨大な甲状腺腫による出生直後の児の死亡が報告されて以来1),重大な問題として関心が持たれている。妊娠中のヨード過剰の原因としては種々の薬剤1~5),ヨード含有造影剤6~10),ヨード含有消毒剤11, 12),食事性の影響8, 9, 13, 14)といった報告がみられているが,特に周産期に母体に使用されたヨード含有消毒剤15~20)の影響は胎盤を介した血行性のものだけではなく,母乳を介して乳児期にまで甲状腺機能低下症を引き起こすことが報告されている18)。
また周産期はヨード含有造影剤21~23)やヨード含有消毒剤24~37)が新生児に直接使用され,ヨード過剰による新生児一過性甲状腺機能低下症の原因となる危険性も高い。
個々の胎児・新生児甲状腺機能への影響も重要であるが,先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)のマススクリーニングは,わが国で出生するほとんどすべての新生児の生後4~6日目の甲状腺刺激ホルモン(TSH)値を測定していることから,ヨード含有消毒剤を母体・新生児に使用していた産科医療機関での偽陽性者増加といった形で大きな影響を受けてきた28)。この問題については1990年代初めごろに種々の調査研究がなされ19, 20, 27~31), 北海道などで産科医療機関でのヨード含有消毒剤使用自粛の勧告に至り,その後偽陽性者減少という形で決着をみていた29)。
しかし,全国のスクリーニング検査機関を対象に特定医療機関での偽陽性者増加の有無を調査したところ,現在でもその疑いのあることが報告され38), また子宮卵管造影によると考えられる新生児一過性甲状腺機能低下症の症例が新たに発見されるなど,周産期のヨード含有剤使用が今もなお問題を引き起こしていることが明らかとなった。そこで,現状を把握し対策を講じるため,全国の産科,新生児,小児外科の専門医療施設を対象としてヨード含有剤の使用状況と胎児・新生児への影響に関する知識の普及度について調査した。
抄録全体を表示