この論文では
中国東北部
の後期更新世哺乳動物化石とその産出層に関する文献のデータをまとめて,この地域の後期更新世の動物相の特徴を明らかにした.この地域では,それらの化石にしばしば旧石器時代の人工遺物が伴い,後期更新世のユーラシア北部に栄えたマンモス動物群の典型的な要素であるマンモスとケサイが見られる.この地域の後期更新世の動物群には,(1)中期更新世の動物群より現生種が増え,絶滅種が減っている,(2)絶滅種の中には中期更新世やそれ以前の古型の要素はわずかしか含まれず,かわってユーラシアの寒冷地や乾燥地の要素が多い,(3)絶滅種には大型のものが多い,(4)現生種の中には現在の
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に見られるものが多いほか,主にモンゴルやその西方の地域に分布する種も多い,(5)現在北方の寒冷地に分布する種が含まれている,といった特徴が見られる.この地域の動物群を,マンモス動物群としては典型的なシベリア東部の後期更新世動物群と比較すると,シベリア東部で代表的な種が
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にも見られるが,シベリア東部の動物群の中で高度に寒冷地適応した種の中には,
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で見られないものもある.中国北部の同時期の動物群と比較すると,
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の動物群にはそれと共通する種が多いが,中国北部のものにはマンモス動物群の要素はほとんど見られない.日本で後期更新世の化石記録が豊富な本州・四国・九州地域の動物群と比較すると,本州・四国・九州地域のものでは固有種や森林要素が多いこと,マンモス動物群の要素が少ないことで
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のものと明らかに異なっている.
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の動物群は,後期更新世になってより現在のものに近づいた土着の動物群に寒冷地や乾燥地の要素が加わったものと考えられる.後期更新世以降の気候や植生の変化により,寒冷地や乾燥地の要素は,絶滅したり,北方や西方に分布域を移すことになったものと思われる.14C年代の測定されている化石産地のデータにもとづいて,この地域でのマンモスやケサイの分布について考察した.マンモスやケサイはこの地域で21,000yrs.B.P.頃までは広く分布しており,マンモスは12,000yrs.B.P.頃,ケサイは10,000yrs.B.P.頃絶滅したようである.
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