皮中に存在していて直接クロム鞣に関与する官能基量を知るために電荷の異る非アクオクロム錯塩を合成し,これらの吸着量から存在する遊離の酸,塩基両種の官能基量を推定した.同様な実験を合成したアクオ塩の場合について行い両者の吸着量を比較した.この実験において,非アクオ錯塩の破壊が起っていないことを確めるために濾紙電気泳動実験を行い,これら錯塩の皮粉への作用時における安定性を検討した.試料は非アクオ塩としては[Cr(NH
3)
6]Cl
3, [Cr(NH
3)
4(SCN)
2]Cl, K[Cr(NH
3)
2(SCN
4], K
3[Cr(C
2O
4)
3]の4種を,アクオ塩としては[Cr(H
2O)
6](ClO
4)
3, [Cr(H
2O)
4(C
2O
4)]ClO
4, K[Cr(H
2O)
2(C
2O
4)
2]の3種を用いた.結果を示すと次の如くである.
(1) 供試非アクオ錯塩はpH 3.0~7.0の範囲内では30°で2時間放置しても殆んどこわれない.
(2) アクオカチオンクロムは皮粉への吸着量をpHの上昇と共に急激に増加するが,非アクオのものは特に鞣製範囲のpH下では0に近く,アクオカチオンクロムの級着を遊離カルボキシル基に帰することは疑問である.
(3) 非アクオアニオンクロムの吸着量はやや多く,このことは遊離塩基性基の多いことを意味し,鞣製にこれらの基が何らかの役割をはたすことが想像される.
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