【はじめに】当院における腰痛症患者の理学療法の処方は腰痛体操と物理療法が主である。しかし、実際に指導するものは腹筋と殿筋の筋力強化と脊柱起立筋の伸張のみであり、他の関連筋群へのアプローチにまで至っていない。そこで今回、限局した筋のストレッチングと筋力強化を行うことにより、腰痛体操との効果を比較検討した。同時に腰痛の程度を評価する指標としてVisual Analogue Scale(VAS)を用い、自覚的な効果判定と痛みとの関係についても調査したので報告する。
【対象および方法】対象は、当院の療養型病棟(A群)及び当院に併設する介護老人保健施設(B群)に勤務する腰痛を有する介護職員16名(男性6名、女性10名、平均年齢23.9±2.1歳、BMI 21.0±3.2)である。方法は、2003年10月20日から11月21日までの1ヶ月間、A群には個別で、脊柱起立筋と腸腰筋を他動的にストレッチングし、筋力強化も抗重力位で実施した。B群には筋力強化を含まないウィリアムズの腰痛体操を集団で行った。頻度は両群ともに週に1~2回であった。評価項目はVAS、指床間距離(FFD)、体幹、股関節のROM・徒手筋力テスト(MMT)、10mの歩行速度と歩数とし、治療前と1ヶ月後で評価した。また、腰痛に関するアンケートも同時に行った。統計解析は、Stat View5.0を使用し、Student-t検定を用いて解析した。なお、危険率5%未満で有意とした。
【結果】治療前後において体幹のROMは両群の屈曲・伸展で、A群では左右側屈、B群では左右回旋がそれぞれ有意に増加した(p<0.05)。VASでは全ての項目でそれぞれ有意に緩和した(p<0.05)。また、B群では右股関節のROMの伸展が有意に減少した (p<0.05)。A、B群間の比較では、FFD、ROM(体幹屈曲、体幹左回旋、股関節左右屈曲)、歩行スピード、歩数に有意差が認められた(p<0.05)。MMTは治療前後、A、B群間に有意差は認められなかった。アンケート調査では、両群ともに腰痛に対して関心はあるが、自己管理は出来ていない傾向を示した。
【考察及びまとめ】今回の結果から、先行研究同様、腰痛体操のみでも体幹のROMが改善した。しかし、今回の限局した筋へのアプローチにより、有意差は認められなかったもののA群の方が股関節のROMは保たれ、特に股関節伸展では改善を示す傾向の者が多かった。今後、対象者数や治療期間の問題など、検討すべき点は多いが、限局した筋をストレッチングや筋力強化をすることで、腰椎前弯の矯正、腰痛の軽減へとつながる可能性があると思われる。更に詳細にレントゲン等を通して評価し、長期効果およびその頻度と回数などについても検討していきたい。
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