科学としての方法論の確立に伴い,心身相関の基礎的研究の進展はこのところ目覚ましい.とりわけ心身相関の脳内メカニズムや,脳と身体のpsychoneuroendocrinoimmunomodulatlonメカニズムの解明が進み,今や心身症発症の脆弱性に関する遺伝子レベルの分子生物学的研究も始まつている.これらEBMに基づいた"pathogenesis"の解明とともに,21世紀に期待される心身医学の次なる発展は,予防,健康増進への心身医学の展開であろう.メンタルヘルスを高めて良好な心身相関を図る"salutogenesis"の研究は,現代人にとつても未来の人類の幸せにとつても大いに貢献する重要課題である.第44回日本心身医学会総会の基本テーマは「心身医学の新展開への期待と可能性-全人的医療から予防・ヘルスフロモーションヘ-」とし,海外招聘講演,特別講演,特別企画をはじめ,シンポジウム,パネルディスカッションなどすべてこの視点から構成した.ここでは広島大学医学部神経精神医学教室と琉球大学医学部精神衛生学教室での私の研究の軌跡をたどり,前半では力動学的精神医学から心身症発症の心的機序(psvchomechasism)を,後半ではメンタルヘルス向上のストレス予防,健康増進効果の精神生理学的検討と,沖縄の健康長寿者の保健医学的な疫学調査結果の検討を通して, EBM, NBM,そして形而上学的生命倫理的アプローチを総合して,ヘルスフロモーションのsalutogenesis研究を進めるべきとの考えを述べた.質的に一段と優れた高レベルの心身の健康を手にすることは,健康長寿への道を開くものである.
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