本研究は韓国系ニューカマー第2世代を対象に,社会科における多文化教育の個別事例を考察したものである。この作業を遂行するため,韓国系ニューカマー第2世代の生徒にライフストーリー法にならった半構造化インタビューを行った。そして,その語りから葛藤や教育ニーズを抽出し,韓国系ニューカマー第2世代を対象にいかなる社会科の多文化教育実践を展開するかを具体的に分析した。
得られた知見は次の二点である。第一に,本事例では国籍に基づく日常的な排除経験によってアイデンティティの引き裂かれという教育困難が確認された。従って,韓国系ニューカマー2世を対象にした社会科教育実践においては,目標としてハイブリッドなアイデンティティ形成の必要性を示し,とりわけ社会的ステレオタイプの克服が肝要だと説いた。第二に,この目標達成の方途として,植民地主義や戦後の責任に対する子どもたち自身の歴史認識を対話する授業実践の可能性を示唆した。
今後の課題として,歴史認識を対話する実践の具体的デザインと効果検証,韓国系ニューカマー2世固有の課題として一般化するための事例数増加,在日朝鮮人教育との比較研究,異なるエスニシティの個別事例研究を示した。
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