歯周組織, とくに骨膜の加齢現象を認識することは, 歯周治療を進めていくうえで重要である. 骨膜の加齢変化の組織学的研究によると, 細胞は萎縮, 変性し, 細胞密度は減少する. これら変化の原因の一つとして, 血管の分布密度ならびに血管壁の透過性の低下が考えられる. そこで, ラット歯槽部骨膜血管の加齢変化を検索する目的で, その部の微細血管鋳型を走査電顕で, また血管内皮の透過に関する超微構造とtracerの透過性との関係を透過電顕で検索した. 実験にはWistar系ラットを用い, 以下の方法で観察した. 血管鋳型標本はOhtaらの脈管注入法に従って作製し, 硬組織を除去後, 骨側から走査電顕にて観察を行った. 組織標本は灌流固定後, 通法に従い樹脂包埋し, 準超薄切片を作製, 検鏡した. さらに超薄切片を作製し, ウラン-鉛重染色後, 透過電顕を用いて観察した. Tracer注入実験は, 生食液で灌流後, HRPならびにタンニン酸を注入し, 30秒, 1分および2分後にそれぞれ灌流固定を行った. HRP注入標本はMicroslicer^[○!R]で厚さ40μmの切片を作製し, DABに反応させ, 樹脂包埋し, 無染色で観察を行った. 実験結果 生後1か月の骨表面は凹凸不整で,
単層立方上皮
様に骨芽細胞が配列していた. 骨膜の血管構築は毛細血管が密で不規則な網目を形成していた. 毛細血管はほとんど連続型で, 内皮細胞間はtight junctionで結合していた. HRP分子は注入30秒後で, 形質膜小胞内に認められたが, 接合部ではtight junctionによって透過が阻止されていた. しかし, タンニン酸分子は接合部で連続的に観察され透過していた. また, HRP分子は注入1分後には多量に透過し, 骨芽細胞間にまで達していた. 生後3か月の骨芽細胞は最も背が高く, 骨基質産生が活発であると考えられた. 骨膜血管網は整理され, 毛細血管は相互間隔が広くなり, 亀甲状血管網を形成していた. 毛細血管は有窓型が観察期間中最も多く認められ, 高い透過性を示していたことからtracerは, 有窓部から透過したものと考えられた. 生後6か月になると, 骨芽細胞は楕円形に変化していた. 毛細血管は連続型が増加し, 多数の形質膜小胞を含み, channel形成も認められた. HRP分子は注入2分後に管腔外に認められたが, 骨芽細胞までは達していなかった. タンニン酸分子は注入30秒で管腔外に認められ, 注入2分後に骨芽細胞表面に認められた. 生後12か月では, 骨芽細胞間の連続性が一部消失し, さらに骨表面には高電子密度のlamina limitansが認められ, 骨基質産生の停止が伺われた. 骨膜血管網はさらに整理され, 階段状の血管網に変化していた. 毛細血管はすべて連続型で, 形質膜小胞は減少し, 管腔の狭窄が認められた. Tracerは注入2分後に透過し, 隣接している細胞表面に限局して認められた. 生後24か月になると, 骨芽細胞は線維芽細胞様を呈し, 骨表面のlamina limitansはいっそう明瞭になっていた. 骨膜血管網は萎縮し, 直線的な走行を示す細動静脈だけとなり, ほとんど毛細血管は認められなかった. Tracerは注入2分後には透過していたが, 透過量は生後12か月に比べ減少していた. 結論 加齢に伴う骨膜, とくに骨芽細胞の形態変化に対応して骨膜毛細血管の分布密度および内皮細胞の透過性が加齢的に低下していた. また, 微小循環系のほとんどが消失していたことから, 炎症に対する抵抗性の減弱や治癒の遅延が惹き起こされることが示唆された.
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