イルカやコウモリは,自ら発する音声が壁や障害物,餌等に反射して戻ってくる音を聴覚で捕捉し,元の音声とのわずかな差異を認識することによって対象物までの距離や大きさまで捉えることができる。これを「
反響定位
」という。外界の情報を視覚から得られない全盲者にとっても,この
反響定位
は有益であり,実際に一部の視覚障害者によって積極的に利用されているが,その獲得機序や訓練方法が確立されていない。
そこで,本研究では,3次元音響バーチャルリアリティの技術を応用し,バーチャル空間の中で安全にしかも効果的に
反響定位
の訓練ができるシステムの開発を行い,あわせて,訓練技法を考案する。これによって,視覚障害者の空間認知能力や障害物などを回避する能力を飛躍的に向上させることができ,視覚障害者のQOLの向上に寄与できるものと考える。
今回は,以下のような
反響定位
訓練システムを試作したので報告する。
_丸1_ヘッドフォン聴取型のバーチャル聴覚ディスプレイ(以下VAD)がベースとなっている。本研究のVADは汎用のPCを用いて,音源データと頭部伝達関数の合成処理を行い,所望の位置に音像を定位させることが可能となっている。
_丸2_頭部伝達関数は,音源位置から鼓膜までの伝達関数であり,本人のものを測定することが望ましいが,測定には大がかりな装置が必要である上に時間がかかるため,既に測定された他者の頭部伝達関数の中から聴取者に最も適合するものを選択することにした。
_丸3_聴覚のみにより音源位置を特定するためには,頭部運動がきわめて重要となる。そこで,本システムのVADは,モーションセンサを用いることにより頭部運動に追従できるようにした。
_丸4_試作機においては,一次反射音,空気減衰,距離遅延を表現できるようにした。一次反射は,布製カーペット,コンクリート,ビニールタイル張り,ウッド,煉瓦,石膏,全反射,全吸収など全部で8種類の壁材を模擬できる。
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