【はじめに】
脳卒中片麻痺者への下肢装具療法は、様々な利点があり、理学療法の中で積極的に取り入れるべき治療法の一つである.しかし、本疾患は病態が多彩であり、最適な
可撓性
の装具を選択することは容易ではない.当院でも、Brace clinicを通し装具の作製を行っているが、指標となるものがなかなか得られないのが実状である.今回、脳卒中片麻痺者への短下肢装具(以下、AFO)作製までの流れのなかに、渡辺の提唱する病態によるAFO検討表を導入した.これをもとに、裸足歩行での膝関節の病態の違いにおけるAFOの
可撓性
と適応基準の因子について検討し、知見を得たのでここに報告する.
【対象】
2006年9月~2008年10月に、当院Brace clinicを経てAFOを処方した脳卒中片麻痺者のうち、裸足歩行で反張膝を呈していた症例48例、膝折れを呈していた症例12例.
【方法】
反張膝、膝折れ症例のそれぞれの病態項目と、作製したAFOの
可撓性
を比較検討した.病態項目は、下肢Br-stage、麻痺側ROM(膝関節伸展位での足関節背屈、膝関節伸展、股関節)、麻痺側MMT(足関節背屈、足関節底屈、膝関節伸展、股関節)、筋痙性、感覚(表在、深部)、高次脳機能、体幹不安定、等である.AFOの
可撓性
はrigid、semi-rigid、semi-flexible、flexibleの4段階に分類した.群間の検定にはχ²検定を用い、5%を有意水準とした.
【結果】
反張膝を呈する症例では、下肢Br-stage(P=.0262)、足関節背屈筋力(P=.0100)、足関節底屈筋力(P=.0398)、膝関節伸展筋力(P=.0492)、体幹不安定(P=.0146)の項目に有意差がみられ、麻痺が重度で筋出力の乏しい症例が、
可撓性
のよりrigidなAFOを作製している傾向にあった.膝折れを呈する症例では、筋痙性(P=.0460) の項目のみに有意差がみられ、筋緊張が高度であった症例が、
可撓性
のよりrigidなAFOを作製している傾向にあった.
【考察】
反張膝を呈する場合、足・膝関節の筋出力の状態がAFO
可撓性
の決定因子となっていた.歩行時に、麻痺が重度で足・膝関節筋力を発揮できない症例に関しては、よりrigidなAFOを、随意性の向上に伴って足・膝関節筋力が発揮しやすくなった症例ではよりflexibleなAFOの作製が望ましいことが示唆された.膝折れを呈する場合は、筋緊張の度合いがAFO
可撓性
の決定因子となっていた.下肢の高度な痙性を有する症例に関しては、
可撓性
がよりrigidなAFOを、軽度な場合は
可撓性
がよりflexible なAFOの作製が望ましいことが示唆された.今回の結果は、症例の身体機能からAFO
可撓性
の判断ができ、AFOを多く常備していない病院、施設でも適切に下肢装具療法を進めていける指標となると考えられた.
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