環境産業の振興のためのエコタウン事業が全国21地域で承認・展開されている.これらの地域の多くは鉄鋼・化学・鉱業などかつて日本経済の高成長を支えた素材型重化学工業地帯であり, 既存の産業集積から派生した環境ビジネスが多く観察される.本稿では, 北九州エコタウンを中心に, 既存産業(重化学工業)の集積と環境産業のつながりについて考察した.環境産業, とりわけリサイクル産業は, 原料・技術・市場などの点で重化学工業と強いつながりを有していることが指摘される.さらに重要なのは, 廃棄物に関する情報である.廃棄物の取引においては, 量, 種類, 価格などの情報がオープンにされにくく, そうした情報の取得には大きなコストが必要になる.しかし, 従来から廃棄物(副産物)のやりとりが活発に行われてきた重化学工業地帯では, こうした取引コストを相対的に小さく抑えることができる.近年の産業集積の議論のなかで取り上げられることが少なかった重化学工業は, 環境産業という新たな成長分野の創出において重要な意味を持っているのである.環境産業の育成をめぐっては地域間の競争が激しさを増しており, 単に重化学工業地帯にリサイクル工場を誘致するだけでは大きな成果を期待することはできない.既存の産業集積を活用し環境産業の高度化を図るとともに, リサイクル機能を「インフラ」として活用しコンビナートの競争力強化を進めるという相互連関的な戦略が重要性を増している.
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