2008年3月の小・中学校、2009年3月の高校と、相次いで公示された新しい学習指導要領では、災害や防災にかかわる学習の充実が図られ、様々な教科・科目で学習内容などとして具体的に示されている。とくに社会・地理歴史科では、小学校から高校までの地理的な学習すべてに、災害や防災にかかわる学習内容が取り入れられ、他の教科・科目にはない大きな特色となっている。
こうした動きの背景として、改訂の議論が進む過程で、1.中越地震や中越沖地震等が発生し、防災に関する社会的な関心が高まったこと、2.それをうけて日本学術会議答申「地球規模の自然災害の増大に対する安全・安心社会の構築」等で防災基礎教育の充実が求められたことなどがあげられる。とくに地理的な学習において充実が図られた理由は、(1)同答申で、防災基礎教育充実の具体的な方策として、地理、地学等の学習内容見直しがあげられたこと、(2)国立教研究所の調査等で、地理的な学習の有用性に対する児童・生徒の期待度が高く、災害や防災にかかわる学習内容を充実させてそれに応え、高校等における地理教育復権を意図したことなどである。
学校における防災教育のねらいは、災害や防災について、「知って」「行動できる」ような児童・生徒を育てることであり、下表にあげた学習内容は、小学校での"理解"、中学校・高校での地域調査等を通じた"認識"そして"行動"と、ねらいが達成されるよう、発達段階を踏まえた構成がなされている。
災害は地域性の強い事象であり、自然と人間社会との重複領域で起こる事象であることから、自然との人間とのかかわりを扱う地理とはきわめて「相性」がよい。新教育課程の実施を前に、各学校で社会・地理歴史の指導計画の中に災害や防災にかかわる学習を意図的かつ適切に位置づけるとともに、研究会等を通じた展開例の蓄積と普及が急務である。
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