厚生労働省発表の2000年の都道府県別生命表で沖縄県男性の平均寿命が上位から一気に26位に転落したことは,「健康長
寿県
,沖縄」のイメージを失墜させる出来事として沖縄県民の間に衝撃が走った.その原因として生活習慣病の蔓延,自殺や交通死亡事故の増加などの他に,全国第1位の沖縄県男性の肺癌死亡率が挙げられている.沖縄県では全国より10年も早い1978年に男性の肺癌死亡率が胃癌死亡率を上回った後も肺癌患者の増加に歯止めがかからず,長寿を脅かす一因になっている.沖縄県は歴史的,地理的環境が日本本土から隔絶されていた時代が長く,全国とかなり異なる疾病構造があり,長寿の問題を含めて早くから疫学専門家の注目を集めていた.日本復帰(1972年)直前に行われた沖縄県悪性腫瘍実態調査1の結果,全国のどの県よりも沖縄県で高率に発生する癌は肺癌,食道癌,口腔咽頭癌,子宮頸癌,リンパ組織由来腫瘍であり,どの県よりも低い発生率の癌は胃癌であった.肺癌の組織型では扁平上皮癌の占める頻度が50%を超えていた.つまり,沖縄県の癌の特徴は,慢性的刺激に暴露されて扁平上皮化生を起こす粘膜,あるいは防御装置のリンパ系に発生する癌であることから,沖縄県は本土に比べて外界からの刺激がとくに強い地域であることが示唆された.
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