【はじめに】腰痛はあくまでも症状であり、腰痛自体決して病態を表しておらず、その発生要因の明確化は困難を極める。MacnabによるHip-spine syndromeのように股関節筋群の拘縮による結果が、椎間関節症としての症状を発現させていることもあり、病態の判別は運動療法を行う上で重要である。今回、伸展時腰痛を主訴とする症例について臨床所見の特徴を検討するとともに股関節の拘縮改善を主体とする治療成績について検討した。
【対象と方法】対象は平成16年4月~平成18年4月までに当院を受診した45例(男性29例、女性16例、平均年齢25.7±10.7歳)を対象とした。なお対象の選定にあたって3ヶ月を超える慢性腰痛例であること、画像診断において、明らかな症状との関連を示めすような異常所見がないこと、体幹伸展時に腰痛の再現性を認めることの3条件をすべて満たしたものとした。検討項目は、当院受診までの期間、Visual analog scale(VAS)、股関節周囲筋のmuscle tightnessの有無、圧痛所見、運動療法終了までの期間の検討を行った。
【運動療法】運動慮法は、腸腰筋、大腿筋膜張筋を中心とした股関節屈筋群を中心に柔軟性の改善を目的に実施した。多裂筋の圧痛ならびに攣縮の強い例には、同筋に対する反復性収縮を用いたリラクゼーションを実施した。腰痛に対する筋性拘縮の関連性を知る目的で、温熱を含めた一切の物理療法、筋力トレーニングをあえて行わず加療した。運動療法は週1回を原則とし、症状の強い時のみ週2回実施した。
【結果】当院受診までの期間は平均10.3ヶ月、受診時におけるVASは5.5cmであった。股関節周囲筋のmuscle tightnessの有無はThomas test、Ober test全例陽性、SLR 65.2°、腹臥位における骨盤最大後傾位での膝屈曲角は118.4°と大腿直筋の短縮も強く認められた。椎間関節の圧痛所見は約90%の例に認め、その内訳はL1/2 4.8%、L2/3 12.1%、L3/4 26.8%、L4/5 63.4%、L5/S 56%であった。多裂筋の圧痛所見は48%、仙腸関節の圧痛所見は55%に認め、運動療法終了の期間は約3.3ヶ月であった。
【考察】伸展型腰痛の症例の約90%に椎間関節の圧痛があり疼痛発現の主要因であると考えられた。また、全例に認められた腸腰筋、大腿筋膜張筋などの股関節前方要素の拘縮は、代償的な骨盤前傾を招き腰椎過前彎を強要し、椎間関節ならびに仙腸関節に対する侵害刺激を増大させる要因の1つと考えた。多裂筋の圧痛は椎間関節由来の反射性攣縮による筋性疼痛と考えられるが、持続する攣縮は椎間関節や仙腸関節の感受性を高め、腰痛の改善を阻害する要因と考えた。伸展型腰痛において股関節の拘縮改善は必須の運動療法と考えられる。
抄録全体を表示